水害
「おいおい、SF感があり過ぎるだろ……」
飛び立ったケンジが目にしたのは巨体を現したメタリックなドラゴンとその足元には無数の狼と大蛇。更にはひび割れた世界から見える真っ赤な別の世界。木々などはなく黒い雲が浮かび土が剥き出しの大地には生命力が一切感じられず、遠くに続く大地にも緑などは一切確認できない。
「これが未来の地球だとかのオチはないよな……」
小さく呟くケンジは光の翼に魔力を込めると一気に加速し前を行くリンクスへと視線むけ、リンクスはナシリスへと大声を上げる。
「ジジイ! 考えがある! 中級の使用許可を!」
その叫びに杖に乗り耳へと届いた声に慌てて旋回し、リンクスの横へ速度を合わせ並走する大賢者ナシリス。
「ここは街を繋ぐ街道だからの。それを理解しておるのかの」
「ああ、カレイが手伝ってくれれば一網打尽にできると思う」
≪リンクスの頼みなら聞くぜ~僕にできることなら何でもいってよ!≫
「なら、――――で、どうかな」
リンクスの作戦にカレイは喜びながら頭の上で跳ね≪きっと綺麗だぜ~≫と念話を飛ばし、ナシリスも眉間に深い皺を寄せ難しい顔をするが「うむ、それで行くぞ。ケンジにはワシが伝えるからフォローは任せい!」と口にし、リンクスから離れケンジの近くへと杖を飛ばしこれから行う作戦を伝える。
「おいおい、本当に大丈夫なのかよ……」
「うむ、上手く行けば一番安全で確実だの。最悪はワシが本気を出せば、来るぞ!」
ドラゴンを中心に多くの狼が隊列を作り、大蛇が後方から鎌首をもたげ、ドラゴンという巨体と存在感は異様なほどプレッシャーを辺りに撒き散らす。周辺には多くの小動物や数匹の魔物が存在したがドラゴンが姿を現した途端に逃げ出しており、目立つ生物はリンクスとナシリスにケンジぐらいだろう。
「じゃあ、行くぞ!」
≪おう!≫
「極大水球!」
力ある言葉を開放するリンクス。視界には空を覆う魔法陣が現れそこから巨大な水球が勢い良く放たれる。その大きさは丸で池が浮いているかのようで、叩きつけらえればどれ程の被害が出るだろうか。
ギャオォォォォォォオォオォォッォォッォォ!!
空へ向け叫びを上げるメタリックなドラゴン。足元で隊列を作る狼や大蛇も空を見上げ、ドラゴンはその口を大きく開けると周囲の空気を吸い込み、そこへ高速で射出される閃光。
「おお、ナイスコントロール!」
ケンジの叫びにナシリスが右口角を上げ、次の瞬間には巨大な水球が地面へと叩きつけられるが弾けることはなく、クラゲのように内側へ巻き込むよう球体へと変化する。
このとき内部では幻想的な風景が広がり、ドーム状の巨大な水球が空を覆いつくし、ブレスを吐こうと辺りの空気を吸い込んでいたドラゴンだったがナシリスの閃光によりブレスを吐く熱線を狙撃され、更にはドーム状だった水球が地面に触れると同時に内側へと流れ球体へと変化し、その水流によって内側へと流される対流が発生しメタリックなボディー同士がぶつかり合う。
ギャオォォォォォォオォオォォッォォッォォ!
巨大な水球の中で叫ぶドラゴンは足に力を入れ流されないよう爪を立てその場に留まろうとするが、内部の水流に流された狼や大蛇がぶつかり合い爪を立てていた地面ごと水球の中で浮き上がる。
「ははは、凄いな……」
「うむ、リンクスの魂の半分は北の魔王と呼ばれた白竜だからの。水に関する魔法に限り魔力は無制限に引き出せるからの……にしても、巨大な水球を変化させ牢のように飲み込みその形を維持するとはの。カレイに内部の水流を任せておるらしいが……」
「この魔法ひとつで街がひとつ滅ぶだろ……」
「王都であっても滅ぶかもしれんの……」
二人は巨大な水球の中で流されぶつかり合い金属片へと変わる姿を見つめる。
一方、等身大のゴーレムを作りブレス対策をしていたルナであったが三体目のゴーレムを生成したところで巨大な水球が視界に入りその手が止まり、他の者たちも空から現れ降り注いだ巨大な水球とそれに飲まれるメタリックなや狼たちを視線に捉え、どれ程の時間が経過しても、形を維持し続ける魔法を前に唖然としていた。
「はぁはぁはぁ、あ、あの、聖騎士さま方ですよね?」
巨大なドラゴンが現れ逃げるように避難してきた最初の被害者の商人と冒険者たちの声に聖騎士長は我に返り視線を向ける。
「あ、ああ、そうだが、お前たちは……ああ、馬車を破壊されたものたちだな。すまない、目の前の現実に理解が追いつかなくて……あれは魔法だよな?」
聞きたいのに逆に問われた商人は必死に逃げてきた方向へと視線を移し、目にした水球の巨大さに目を丸める。
「なっ!? 何と巨大な水の塊……さ、流石、大賢者ナシリスさま! これならあの鉄のドラゴンも!」
一瞬驚くもメタリックな狼に襲われた商人はすぐに正気に戻り巨大な水球を覆われているだろうドラゴンが溺れたのだろうと希望的を口にする。
「ああ、そうだろう。俺もそう思うが……あれは魔法なのか? あんなにも巨大な水球を人が扱えるものなのか?」
聖騎士長の言葉に商人は冷静になり自身の雇った冒険者たちへと視線を向け、向けられた冒険者たちは口をあんぐりと開けたまま固まっている。
「ルナはどう思うのかしら、あれがもし破裂したら……」
「こここ、怖い事を言わないで下さい。ですが、私が見る限り完全に制御されています。巨大な水球は完全な球状を保っていますし、包み込むように魔力に覆われています。あははは、どれだけの魔力があればあんなにも巨大な水球を維持できるのよ! 『水遊び』と呼ばれた少年はバケモノね……」
ルナはリロリアルの問いに答えながらも壊れたように笑い声を上げその魔力に嫉妬する。『黒曜の黒薔薇』たちも目の前で起こっている巨大な水球に驚き声が出ず、魔法に疎いアンミラが口を開く。
「あれは上級魔法なのか?」
「上級ですって、私が知る限り上級の水魔法は激流で敵を土砂と一緒に押し流すか、水を氷に変え吹雪を発生させ辺り一帯を凍てつかせるぐらいよ。あんなにも巨大な水球で敵を包み込むとか、上級魔法を放つよりはるかに難しく大量の魔力を消費するわ。格付けするとした上級の更に上の超級か、もっと上の神級……人では行使できない魔法かしらね……」
魔法には初級、中級、上級とあり、更にはその上の超級と呼ばれる魔法が存在する。水魔法でいえばリンクスがよく使用する水球などは初級であり、魔法を覚えたてのものが練習に使用したり飲み水を得るために使ったりと攻撃性が低く戦闘で使われることは少ない。これが中級になると水を刃に変えたり注ぐ魔力に応じてその量が増えたりと危険性が数段上がり、更に上級となれば街をも一撃で破壊する威力へと変わる。
遠目に見えるソレは街ひとつを飲み込むほどの水球であり、ルナが上級以上だと判断したのは打ち出して終わりではなく維持しているという現状を鑑みたのだろう。攻撃魔法の殆どは打ち出して相手へダメージを与えるものであり、包み込み持続させるような事はしない。それは上級魔法でも同じであり、維持すればするほど多くの魔力を消費し、上級魔法になれば発動するだけで多くの魔力を使い維持まで考えれば人が持つ魔力量では不可能だと判断したのだろう。
「これじゃ『水遊び』よりも、水害の方がしっくりくるわね……」
巨大な水球を見つめるリロリアルから漏れた言葉にその場にいるものたちは無言で頷くのであった。
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