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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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神託と救助



 静稀と別れ木々の少ない丘をアリたちに手を振り速度を上げて進む一行。幼い金狐を抱き走るライセンとキラリ、ケンジが先頭を飛びながら魔物除けのスキルを使い、ナシリスが空から方向と植物系の魔物を発見しては知らせ、最後尾をリンクスとフリルが続く。


「私もそれが欲しいかも………」


 小さく呟くフリルの声はサーフボードから発射される水流の音にかき消されるが、頭の上のカレイには聞こえたのか視線をフリルに向ける。


≪フリルの角はピカピカだね。ふふふ、ねぇ、リンクスが乗る水が噴き出す板をフリルも欲しいってさ≫


 カレイからの念話を受け視線をフリルへと向けるリンクス。向けられたフリルはリンクスと並走しており視線が合うと目をパチパチとさせ何か言うのかと待ち、「前の木はトレントだ。大きく迂回して回避」というナシリスからの声に二人は慌てて回避する。


「あ、危なっ! えっ!? 助けろ?」


 大きく回避し草で隠れていた大き目の岩にサーフボードの先がかすりバランスを崩しそうになるリンクスの脳内に流れ込む念話。バランスを立て直しながら速度を維持し、その最中も念話が続きリンクスは脳内に流れる声を口にする。


「ん? 助けろ? リンクスどうしたの?」


≪リンクスに対して誰かが念話を送っているねぇ。えっと、この先の人間の街に続く街道で異界の割れ目が開いているから討伐して欲しい? 動く物に襲い掛かるから気をつけろ? ん? んんん? これって創造神さまからっ!!!≫


 独り言を呟くリンクスに首を傾げたフリルはカレイからの念話を受け緊急事態だということを察するが、最後の叫びに驚き大きく飛び跳ね距離を取る。その念話は近くで同じように下山するケンジたちにも送られており、ナシリスは安全な場所を見つけると「皆、あの岩場に集まれ」と大きな声を上げ地上へと降り立ちケンジやライセンたちもスピードを落とし、リンクスは水流を弱めながら停止する。


「いまのはカレイからの念話だよな?」


「うむ、リンクスに今も送られておる念話は神からみたいだの」


「異界の割れ目とは? 街道で襲われているとも聞いたが」


 カレイが盗聴した念話の内容を口にするナシリスたち。大きく飛び上がったフリルも合流しキラリが抱く幼い金狐に近づき優しく頭を撫でて微笑みを浮かべる。


「あの、創造神さまからの念話ですぐに助けに行けそうです。生半可な攻撃は効かないそうなので気を引き締めて討伐しろって!」


 それだけ伝えるとリンクスはサーフボードの水流を発動し空へと飛び上がりナシリスとケンジは視線を合わせ頷き追い掛ける。ライセンとキラリは幼い金狐を抱いている事もあり判断に迷ったが「私は金孤ちゃんたちを守る?」と首を傾げるフリルに「頼む!」とライセンが声にすると大きく頷きその場で人化を解き二人を背に乗せて空へと登る。


 空に登り一気にスピードを上げるリンクス。絶界を一気に抜けると眼下には街道が視界に入りすぐに破裂音のような音が耳に入り視線を東へと向け煙が上がる様子が見え、更に加速するリンクス。

 後を追うケンジも緊急事態ということもあり完全武装で光の翼で飛翔し、すぐに戦えるよう剣を抜くと横転する馬車が遠目に見え、更にはメタリックな大蛇や狼が数頭目に入り速度を上げ、ナシリスは杖に跨りながら魔術を発動し加速して大破した馬車から放り出された商人や冒険者を見つけ急ぎ回復させに向かうが違和感を覚える。


「倒れているものには興味がないのか、次の馬車を襲いに動いておるのかの……」


 リンクスとケンジは大じゃと狼の討伐を優先しそちらへと向かい、ナシリスは崩壊した馬車の近くへと降り立ちまだ息がある事を確認すると急いで回復魔法を掛けてまわり、遅れて空を行くフリルたちを確認すると他に怪我人がいないか意識がある冒険者などに聞き込みをして現状を確認する。


「俺らの馬車が最後尾だった」


「ひびが入って現れた魔物に槍で一撃を入れようとしたが硬くて弾かれた。まるでアイアンアントかそれ以上の硬さだった」


「うむ、見た目からして鉄の様であったが、他に怪我人はおるかの?」


「乗っていたのはこれで全員です。ああ、これではもう廃業するしか……」


 無残に散らばる紙やペンに小物の商品を見て絶望する商人。ナシリスは仕方なしにアイテムボックスを起動させシックなバッグを取り出すと商人に手渡す。


「ほれ、これを使って落ちている商品を収納せい。商人にとって商品は命と同義だろ」


 それを瞬時にマジックバッグだと判断したのか目を輝かせお礼を口にする商人。冒険者たちにお願いし散らばる商品を集め次々に収納して行き、ナシリスは後方に見える空間の裂け目に視線を向ける。


「むっ、次が出てきそうにないが……うむ、神が対応しておるのかの……」


 ひび割れていた歪みは小さく変化しているように見え完全に塞がると胸を撫で下ろし、「後で救助に来るから待っておれ。冒険者は商人の護衛を頼むぞ」と口にして杖に跨り空へと上がり辺りを見渡す。


「亀裂はあの場ぐらいかの……ん? 銀の集団! いや、馬に乗った騎士かの、町からの増援? 随分と手際が良く思えるが、聖騎士か!」


 上空からこちらに向かい砂煙を上げ向かって来る銀色の集団に同じような魔物ではと一瞬焦るも、創造神シュレインからリンクスが念話を受けたことを思い出し、近くに派遣されているシスターに神託が下され聖騎士たちが討伐に動いたのだろうと推測する。事実、その推測は正解であり、グンマー領やクラウス領に加え、すぐ近くにあるマエバシの村からも聖騎士が少数ではあるがこの場へ駆けつけている。


「こちらへ聖騎士が向かってくるから安心せよ! ワシは先へ行き魔物を討伐いてくるからの!」


 そう言葉を残し空へと飛び去るナシリス。商人と冒険者は飛び去る大賢者へ頭を下げ急ぎ散らばった商品や馬車の残骸を回収するのであった。






「リンクスはできるだけ狼を逃がさないように頼む! 俺を気にせず魔法を使え!」


 大声でリンクスへと指示を出す勇者ケンジ。その光景にリロリアルは目を輝かせ、北の魔王を討った勇者の雄姿を目にする。が、それ以上に不自然なほど浮かび上がった魔法陣から発射される氷球の数に顔を引き攣らせるルナや『黒曜の黒薔薇』たち。


「あ、あり得ない……」


「初級魔法とはいえあの数を操る何て……」


「はは、師匠はとんでもない化け物を育てたのね……」


 空から狼たちを取り囲むように展開された魔方陣のはずは優に百を超え、連続で放出される氷球の威力は低いが数の暴力で圧倒しており金属と氷が砕ける音が木霊する。


 あれが噂の『水遊び』でしょうね……水属性だけかと思っていたけど氷も自在に操り雨のように氷球を降らせるとか、師匠が付きっきりで教えているのでしょうけどやり過ぎよ! あれだけ魔法を連発したらすぐに魔力が底を突きそうなものなのに、どれだけよ! それに先ほどから様子を見ている飛龍も気になるし、その背に乗る獣人と可愛らしい動物もいったい……


 馬車の転倒時にリロリアルを守り怪我を負ったがポーションを強引に飲まされ回復したが、まだ痛みが残っており体を自由に動かせない状態で視線だけは戦闘の行方を追っているルナ。リンクスの戦闘を初めて見るルナの正直な感想は師であるナシリスに対する暴言であった。


「アンミラ! 王女殿下の護衛は頼むからな!」


 ケンジが叫ぶと氷球が降り注ぐ中へと剣を構え走り出すのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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