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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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キツネとアリ



「本当に便利なスキルだな……」


 ぽつりと呟くライセン。危険な絶界の中を東に向け走る一行は幼い金狐を抱えている事もあり細心の注意を払いながら進むのだが、魔物の気配が明らかに薄れケンジのスキルの凄さに驚く。

 視界に入った途端に逃げ出すブラッドバイパーやツリーレオパルド。ニードルラビットに至っては腹を仰向けに死んだふりをする始末である。本来ならば威嚇程度に魔術を放ち一気に駆け抜けるが、それすらも必要としない現状に驚き、それを可能とするケンジの実力に勇者という肩書は絶対的な強さの表れなのだろうと理解するライセンとキラリにフリル。

 リンクスもケンジの強さは剣を交え理解していたが始めて剣を手にした模擬戦でのもので強さを計るというよりも胸を借りたという体感であり、絶界の魔物が逃げ出すほどの実力者という事実に正直驚きながらサーフボードのスピードを上げ、前を走るケンジを追い掛ける。


「おっ、アイアンアントが数匹見えたぞ!」


 視界に先には木々をその鋭い牙で伐採するアイアンアント数匹が視界に入り声を上げるケンジ。


「逃げ出しましたけど……」


 ケンジのスキルが有効なのか伐採作業を放り出して逃げ出すアイアンアントに苦笑いを浮かべ、リンクスは慌ててケンジを追い越しアイアンアントたちに声を掛け敵意がないことを伝える。


「お~い、静稀に紹介したいだけだから! 全力で逃げないでくれ!」


≪アリの足を止めるなら凍らせる?≫


「凍らせない! おい、ちょっと待ってくれ!」


 カレイからの提案を否定しサーブボードの水流を強め一気にアイアンアント立を抜き去り回り込むとガタガタと震え停止し、リンクスは身振り手振りで落ち着かせる。


「ほらほら、前に会ったことあるだろ。本当に敵対する心算はないからな」


≪おや、リンクスさんたちです?≫


 手をバタバタとさせアイアンアントたちを説得していると木々の間から顔を出す蟻人アントマンの静稀。既にケンジのスキルを解除したこともあってか逃げ出すことはなく、震えるアイアンアントたちに優しく手を添えて念話を送る。


≪ここは私に任せて下さいね~目印を付けた木々の伐採作業に戻って下さい≫


 静稀の念話を受け震えながらも作業に戻るアイアンアントたち。遅れて現れたケンジが後頭部を掻きながら申し訳なさそうな表情で片手を上げ、狐耳と尻尾が個性的なライセンとキラリは幼い金狐を抱きながら軽く頭を下げる。


「街へ下りるついでにライセンさんたちの紹介をしようと寄ったのですが」


≪これはご丁寧に、自分は静稀と申します。これでもアイアンアントとレッドアントにマジックアントのまとめ役的な事をしています。モフモフとした毛並みが美しいですね~≫


 手を胸の前でワキワキと動かす静稀に若干の恐怖を覚えたのか、ライセンとキラリの腕から逃げ出しリンクスとフリルの後ろへと隠れる幼い金狐たち。


「こちらこそ宜しく頼む。私はライセン、こちらが妻のキラリだ。もし可能であれば鉄製品と物々交換ができればと思い、ナシリスさまにお願いし紹介してもらったのだが」


≪鉄製品ですか? ミスリルなども取り扱っておりますので気軽にお申し付け下さいね~こちらとしては珍しいキノコや果物に穀物と大歓迎です! エルフさんたちとは畑にまく肥料や害虫対策を教わり、レッドアントたちが逃げ惑いましたけど、畑作りは順調ですね~≫


 エルフとはすでに交流を始めている静稀は農作業で欠かせない害虫退治に使う魔法を教えてもらい、その際にレッドアントたちにも効果があると判明し苦しむレッドアントを見て自分たちが害虫認定されたと皆で凹んだのである。が、エルフたちが魔法をその場で改良しレッドアントに効果が及ばないよう変更されたのである。


「こちらとしてもそれで頼む。絶界では鉄製品が手に入り辛いのもあるが、加工が難しいのでな。リンクスに頼み街で買ってきてもらうこともあるが、釘や針などはどうしても必要となるのだ」


≪それでしたらいくらでも提供できますね~ん? ケンジさん、こちらの世界では釘を使わない建築方法はないのですか?≫


「木組みとかか? あれは卓越した道具があって初めて可能とある技術だからな。特にミノやかんなとかが発展していないと無理だろうな。日本建築の中でも伝統とされる奥義みたいなものだしな」


≪なるほど……では、こちらで釘や針などを用意しておきますね~明日には用意できますのでいつでも来て下さい。えぇ~新しい交流先が見つかりましたよ~金狐族と呼ばれる毛並みが金色の……えっと、亜人種ですか? それとも獣人種?≫


 腕を組み首を傾げながらケンジへと念話を送る静稀。


「我らは人族から見れば亜人種だろうな」


 ライセンが答えると静稀は念話を再開させる。


≪金色の亜人種と毛並みが金色の狐さんを見かけたら攻撃は禁止ですからね~もう一度アナウンスしますよ~金色の毛並みを持つ亜人種と狐さんは攻撃の対象外ですからね~みんな仲良くですよ~≫


 平和的な念話を送り終えた静稀はリンクスとフリルの後ろから興味があるのか顔を覗かせる幼い金狐たちへ視線を向ける。


≪はぁはぁ、凄く可愛いのですが……撫でられたりしませんかね?≫


 両手を頬に当て若干息を荒げた静稀の念話に、完全に二人の後ろへと姿を隠す幼い金狐たち。幼いながらも危険な変態臭を感じ取ったのだろう。

その姿にガックリと肩を落とす静稀。


「えっと、数回も合えば仲良くなれると思うので、そうだ! これから街に行きますが何か欲しいものがあれば買ってきますがどうですか?」


 リンクスが気を使って静稀に声を掛けると顔を上げ顎に手を当て考える素振りを見せる。


≪そうですね……売られている鉄製品の見本とかあれば自分が再現したりもできるかな? 女王様方には甘味があれば文句を言われないかな? あとは、本とか売ってますか? こちらの世界の歴史や恋愛ものとか、魔法に関する書籍とかあれば読んでみたいですね~あっ! ケンジさん、ケンジさん≫


 ケンジを手招きする静稀。ケンジはまわりには悟られたくないのだろうとその身を近づける。


≪あのあの、こちらにも男性同士の純文学とかあります? もしあるのならそう言った書籍を買い取らせて頂ければ……報酬は弾みますので……≫


「あるとは思うが……それを俺に買って来いと?」


≪………………私が知る限りのロボットをミスリルで再現しますが?≫


 悪い笑みを浮かべる静稀。表情がアリなので悪い笑みといっても雰囲気なのだがケンジは腕を組み悩む素振りを見せる。


≪自分、これでもスーパーなロボットの戦いとかも知っているのでリアル系とスーパー系どちらも行けますよ~ほらほら、歴史に残るような素晴らしい作品から宇宙で戦う戦艦すらも再現できますからね~ロボ以外にも美少女フィギュアだって再現可能ですよ~≫


 悪魔的誘惑を口にする静稀。転生者である静稀はある種のオタクであり兄の趣味を受け継ぎ、更には腐った闇を飲み込んだ本物であった。


「ど、努力はしてみるが、届けるのはリンクスに頼むからな。ああ、買うのもリンクスに任せれば」


≪そ、そこはケンジさんにお願いしたいです! お願いです! 純粋そうな青年には純粋でいてほしいです! これは本心です! 本当です! トラウマにでもなったら申し訳が立ちませんからっ!≫


 静稀なりにリンクスを守っているのか、それとも罪悪感がそうさせているのか、土下座に近い形で念話を叫び、ケンジは自身が買いに行く決意と本は封印処理してからリンクスに持たせようと決意するのであった。








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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