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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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黒曜の黒薔薇とケンジのスキル



「この者たちが『黒曜の黒薔薇』です。お嬢さま方と同じタイミングでこの街へ来たそうで、ついでといっては何ですが護衛依頼を受けていただきました」


 翌日になり朝食を取り終わったところでリロリアルへ面会を求めたボレオは事前に話したお勧めの冒険者を連れ現れ、苦笑いを浮かべるルナ。


「えっ……」


 『黒曜の黒薔薇』たちはルナを見るなり目が点になり、護衛依頼を許可したリロリアルは口に手を添えクスクスと笑いアンミラも肩を揺らす。


「王家に引き抜かれたと聞いていたが、こんな形で再会するとは驚きね」


「私たちを捨てたルナを護衛しろとか……」


「ルナお姉さまにまた会えて嬉しいです!」


 『黒曜の黒薔薇』は三名の女性冒険者で三名とも魔法使いという珍しい構成である。魔法使いは生まれ持った資質が必要で、更には魔力や魔法といった知識が必要になり高額な教育費が必要になる。魔法使いだけでパーティーを組むものは少なく、ルナも以前はその一人であった。


「えっと、久しぶり……元気だった?」


 顔を引き攣らせながら口にするルナに三者三様の表情を浮かべる『黒曜の黒薔薇』たち。


「元気だったわよ。貴女が抜けてから大変だったけどランクもBに上がり、王都では知らない人がいないぐらいにはね!」


「まったくね! ルナが使うゴーレムに前衛を任せていたけど急に居なくなったから私のシールド魔法の腕がグングン伸びたわよ!」


「寂しかったですぅ! お姉さまが急にパーティーを離れて寂しかったですぅ!」


 リーダーは自分たちの功績を伝え、もうひとりは魔法使いでありながら盾役を頑張ったことを伝え、最後は椅子に座ったままのルナの足にしがみ付き涙を流している。


「『黒曜の黒薔薇』はルナ殿の知り合いであったか。それでは依頼書通りにお嬢さまをグンマー領まで護衛をお願いしたい」


 複雑な空気を読み取ったボレオ男爵は言いたい事を伝えるとそそくさとその場を後に部屋を退出し、ルナは泣きついて来た後輩の頭を撫でながらリロリアルに視線を向ける。


「どうして選りにも選って『黒曜の黒薔薇』に護衛依頼を出したのですかねぇ」


 ジト目を向けられたリロリアルはまったく気にしていませんという表情で口を開く。


「あら、私のような可憐な乙女に武骨な冒険者が一緒では怖いじゃない。その点、『黒曜の黒薔薇』たちは皆女性で安心感がありますし、実績もBランクです。依頼するにはピッタリじゃないかしら?」


「ぐぐぐ、言い返せないのが悔しいです……」


 リロリアルの理由に反論すべがないルナはローブを涙で濡らしながら太ももに顔を埋めてくる後輩を振り払えずに拳を固め、アンミラは『黒曜の黒薔薇』たちの評判は耳にしていたが全員が魔法使いとう構成に疑問を覚えて口を開く。


「近接戦闘はシールドだけという訳ではないのでしょう? お嬢さまを守りながら戦うとしたらどうなさるのですか?」


「シールドはもちろんだけど私の風魔法でどうにかするわ。風を球状にして閉じ込めて近距離で当てるのよ」


「喰らった相手は面白いほど吹き飛ぶわ。ルナがいた頃はゴーレムを生成し盾代わりに使ったけど、今じゃ私だって槍も使えるわ」


「わ、私も魔法の他に近距離戦で拳や蹴りを使ってます!」


 太ももから顔を離し下から涙目でルナを見つめる後輩。


「そう、頑張ったわね」


「はい! 頑張りました! お姉さまがいつ帰って来ても迎えられるよう『黒曜の黒薔薇』のランクを上げておきますので安心して帰ってきて下さい!」


 あまりにも純粋な瞳を向ける後輩の眩しさに顔を背けそうになるルナだったが、後輩の頭を優しく撫でて落ち着かせる。


「あら、生涯に渡って私に仕えて欲しかったのだけど」


「むっ! この人が私とお姉さまの邪魔をする悪ですね!」


 膝から離れ両手を高く上げ鳥のような姿勢で構えを取る後輩。リロリアルは余裕の笑みを浮かべアンミラはすぐに動けるよう腰を浮かす。


「お座り!」


「はい!」


 ルナの掛け声に素早くその場に腰を下ろして犬のようにお座りをする後輩。その行動にリロリアルは笑い声を上げ、『黒曜の黒薔薇』たちもまだこの師弟関係は絶対なのかと大きなため息を吐くのであった。










 朝食を食べ終えたリンクスたちは絶界を降りるべく行動を開始する。前回はティネントが索敵と威圧を使い魔物に絡まれることなく下りたのだが、そのティネントはまだ帰っておらず書置きを残し金孤たちをケンジの娘であるラフォーレに会わせるべく下山を開始したのである。


「俺が先頭を走れば安全に降りられるだろうよ」


 そう剣を肩に担ぎ宣言したケンジにナシリスは頷き、半信半疑であったライセンはリンクスへ視線を向けるがリンクスもケンジの特殊スキルなどは知らず首を傾げ、フリルはその動きが面白いのか幼い金狐たちと一緒に首を傾げて肩を揺らす。


「ケンジが持つ勇者のスキルの中でも王者の威光というものがあっての、発動すれば格下のものらは戦闘意欲を失う。ティネントよりも安全に降りられるの」


 ケンジが持つスキルを簡単に説明するナシリス。


「絶界の魔物が格下になるほどケンジ殿は強いのだな」


「ああ、竜相手でもない限り遅れは取らないな。まあ、リンクスが水精霊と一緒に襲ってきたら勝てないかもしれないがな」


 にっかりとした笑みを作りリンクスへと視線を向けるケンジ。リンクスはケンジに勝てるとは思っておらず首を横に振るが、目の前で浮くカレイはシャドーボクシングをしながらやる気を見せる。


「うむ、カレイの見せた砂を含んだ水流やそれを自在に操り鞭のように操作する力は脅威だの。間違えても人に向けて使わんようにの」


 精霊が見えるナシリスはシャドーボクシングをするカレイへと視線を合わせ、カレイは一瞬驚くもこくんと頭を下げるとリンクスの頭の裏へと隠れる。


「ジジイはカレイがちゃんと見えているんだな」


「うむ、フリルとケンジも見えておるのだろう?」


「ああ、小さな人魚の水精霊だろ」


「はいはい、見えるよ! でも、声は聞こえない!」


 ケンジは当然という雰囲気で答え、フリルは元気に手を上げて発言する。


「何だそうだったのか、それならこれから仲良くなれるな」


 頭の後ろに隠れたカレイがリンクスの頭の上へ上がり仲良くなれるという言葉を信じてフリルへと視線を向けるとキラキラした瞳を向けられ、恥ずかしいのか今度は上着から背中へと隠れると身をくねらせるリンクス。

 その姿に幼い金狐たちとフリルが笑い声を上げる。


「ほれ、そろそろ下山を始めるぞ。幼い金狐たちの事もあるし東ルートで下りるからの」


「東側なら静稀たちが住むアイアンアントの巣の近くか、それなら金孤たちが襲われないよう顔合わせしておくか?」


「それは助かるわね。アイアンアントとは村の場所との関係であまり出会うことはないけど、エルフたちのように協力関係になりたいわね」


「鉄と食料を物々交換できれば我らも助かるな」


 絶界は広く多くの亜人種が隠れ住む地でもあり、ライセンとキラリはまだ静稀との面識はなくリンクスから聞いた程度の情報しか持っておらず、物々交換という形で交流が持てれば金孤の村の為になると思案したのだろう。


「それでは行くかの」


 ナシリスの合図に皆が頷き、幼い金狐はライセンとキラリに集まりリンクスは服から出てきたカレイを頭の上に乗せ東に向け出発するのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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