トップ3とフリルの料理
「大体、ティネントとペプラばっかりズルイではないか! このような美味い酒をひとりで楽しむとは同じ古龍種として恥ずかしく思わないのか!」
天龍が住まう神殿では古龍種たちが持ちこんだ酒や豪華な料理が振舞われている。その中でもティネントが持ち込んだウイスキーやブランデーに日本酒などのグンマー領で購入したものを開封すると多くの古龍種が興味を示し、口へ運ぶとその味に酔いしれた。
「世界樹の果実から作られた酒はもっと美味かったぞ」
空気を読まないペプラの言葉に絶句する古龍種たち。世界樹の果実はエルフが管理しており古龍種でもおいそれと手にすることは叶わない。が、それを酒にするとなればそれ相応の量が必要となるのは必然である。
「そ、それはまだあるのか? あるのなら……」
「あの酒はペプラに渡したので最後です。それよりもこの鹿を使った料理は絶品ですね。あとで作り方を教わっても?」
黒竜から視線を料理人であるドラゴニュートへと視線を向けると静かに頭を下げ肯定し、天龍も食通のティネントが料理を褒めたことで微笑みを浮かべる。
「気に入っていただけたようで良かったです。絶界の中でも北の絶壁に生息するクリムゾンディアは肉質が柔らかく適度に脂肪が乗り食べ頃で、捕りに行った甲斐があるというものです」
「捕りに行かせただろ?」
ドヤ顔をしていた天龍へペプラが神殿前で傷付いたドラゴニュートの兵士たちを見た事を思い出し指摘する。
「私が行っては鹿どころかすべての生物が逃げ出してしまいます。それは貴女も同じでは?」
ペプラへとジト目を向ける天龍。
「そこは魔力を抑えれば良いだけです。私は常に魔力を十分の一以下に抑えるようにしていますよ。先日はクラウンホワイトに喧嘩を売られたとかと思いましたが通行証なのか、美しい羽根を頂きました」
ティネントが先日リンクスを探しに西へと動き、その時にクラウンホワイトと呼ばれる巨大なフクロウが自身の羽根を受け取ったのである。因縁というほどではないが何度もティネントの強さへ挑戦した群れのリーダーであり、ついにその心を折ったのだと勘違いしたのだが真実を知る天龍や黒竜は声を上げて笑い出す。
「あはははははは、ティネントはフクロウから求愛されたか! こりゃ目出度いな!」
「選りにも選ってフクロウから求愛とは古龍のなかでも珍しいですわね! 絶界の池から西までを支配したようなものですわね!」
黒竜と天龍の言葉に羽根を送る意味を知ったティネントは口を噛みしめ溢れる出す闘気。壁付近で警護役として佇むドラゴニュートたちの表情は一瞬にして青く変わり、参加している古龍種も同じように顔色を変える。
古龍種の集まりで荒事になることは珍しくはないがそれを止める役をするのは主にティネントであり、それはティネントの強さに他ならない。加えて言えば、天龍と黒竜が次点となりこちらも止める役に回ることが多く、トップスリーが睨み合うような事態になれば止められる役がいるとすれば神ぐらいなものだろう。
「おいおい、誰が止めるんだ。これ……」
ぽつりと呟くペプラ。席を共にする多くの古龍たちも同意見で滝が略流するが如く溢れ出る闘気に、誰もが逃げ出したい状況のなか大きな鳴声が上がる。
「あらあら、怖い思いをさせてしまったわね。ほらほら、よしよし」
ティネントが放つ闘気に生まれたばかりの天竜が鳴き声を上げ慌てて母になった天龍があやし始め、ティネントも赤子の前で闘気を爆発させたことが気まずいのか大きく息を吐き冷静に戻り、黒竜はまだ弄りたいのか視線をティネントに向けるが無表情で迎えられ背筋に冷たいものが走り料理へと視線を向けクリムゾンディアのローストを口へと運ぶ。
「やっぱ、赤ん坊が一番強いな~」
ペプラの呟きに席を共にしている古龍たちは頷き、新たに生まれた天龍を祝う宴会が再開されるのであった。
「前も思ったがここに住むナマズは脂がのって美味いな。下でも養殖できればいいが生きたまま運ぶのは難しいだろうな……こっちのカラアゲとか絶品だな」
「うむ、リンクスとフリルで協力して料理をしておったが、どの料理も美味いの」
夕暮れになった湖畔の屋敷ではリンクスとフリルが協力して夕食を作りケンジへと振舞い、ナシリスはケンジが釣り上げたナマズのカラアゲや煮付けを口に運び日本酒で流し込む。他にもテーブルには猪を使ったカツや、生みたて卵を使い作ったマヨを使ったポテトサラダなどが並び豪華な夕食となっている。
「やった! リンクス褒められたよ!」
素直に喜ぶフリル。リンクスも若干だが口角を上げ夢中でカラアゲを口にする幼い金狐たちへ視線を向ける。
「よく噛んで食べろよ~」
「クゥ~」
返事の鳴声が重なり尻尾を揺らす姿に頑張って料理した甲斐があった思いながら自身でもナマズを使ったカラアゲを口に運び自然と浮かび上がる笑み。
「前にも食べたがカラアゲは絶品だな」
「私はこっちのカツがザクザクとした食感が癖になりますね。あとこのポテトサラダが絶品ですぅ」
「崩したゆで卵が入っているのがいいよな。これはティネントの発想か?」
ライセンとキラリの口にも合ったようで料理と酒を口にしながら和やかな夕食は進み、ふとした疑問をケンジが口にする。
「これはフリルのアイディアですね。前にケンジさんの屋敷で食べたポテトサラダも美味しかったのですがフリルがもっとタマゴの味が欲しいというので入れてみました」
「シャキシャキの葉の茎も入れたの! こっちも美味しいですか?」
テンション高く言葉にするが不安があったのか、最後は声を抑え味の感想をケンジへと求めるフリル。
「おお、すげー美味いな。レタスの芯みたいな食感が凄く合うし、君と白身が絶妙な存在感なのもいいな」
「やった! 今度は姉さんにも食べさせたいね!」
「そうだな。でも、今頃はもっと美味しい料理を口にしているかもな。天龍さんの所は世界中から美味しいものを集めているだろうしさ」
リンクスの言葉にケンジが食いつき「詳しく聞こうか」と身を乗り出す。
「天竜さんの所で新しい子供が生まれたんですよ。それで世界中から古龍種が集まってお祝いをしています。ティネントさんやペプラもお土産を持って上に行きましたので……」
「うむ、古龍種の集まりは伝説クラスの食材が集まるからの。珍味の部類もあるだろうが、肉に関しては最上級のものが集まっておると聞くの」
「ペプラはウイスキーや日本酒を持って行きましたよ」
「ティネントは世界樹の果実を蜂蜜で漬けたものを持って行くと言っておったの」
リンクスとナシリスの説明を受け、ケンジは食の都を作ろうとする領主としてその宴会に参加したいと思う反面、高が勇者では参加資格はないだろうと歯がゆさを感じながら後でティネントにどのような料理が出たか詳しく聞こうと心の隅に止め、リンクスに伝え忘れる前にと口を開く。
「そういや王都でのオークションが終わったと知らせが来ていたぞ。明日辺り一度街へ下りたらどうだ? ラフォーレからも金孤たちに会いたいとお願いされているからな」
ケンジからラフォーレという名詞が飛び出し夢中でカラアゲを食べていた幼い金狐たちから一斉に鳴き声が上がり、リンクスは「その方が良さそうですね」と口にするのであった。
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