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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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クラウス領とリロリアル



「まさか王女殿下がお忍びで旅をなさるとは……いや、国王陛下も似たような事をしておられましたな」


 男爵家へ案内されたリロリアルたちが現男爵のボレオ・ドン・クラウスと対面するとすぐにその正体がばれ、ボレオとその妻であるルチルは膝を付き家臣の礼を取り、リロリアルは悪戯が失敗したことで口を尖らせるが近衛騎士のアンミラがすぐに立ち上がるよう口にしたのである。

 その後は男爵家の庭で目的を聞き出そうとお茶会が開かれている。


「はい、お父さまは私ぐらいの頃はもっとヤンチャだったと本人から聞きましたもの。クラウス領の採掘場の探索や周辺に潜む盗賊をボレオさまと討伐いてまわったと」


 笑顔で話すリロリアルにそこ名で知っているのかと顔を引き攣らせるボレオ男爵。妻であるルチルも知っていたのか口元を押さえて肩を揺らし、アンミラとルナも同じように席を共にして驚きの表情を浮かべている。


「王都の学園で陛下とは友人となってな……楽しくもあったが大変だったよ。危険も多くあったからな……一つ間違えばこの首は飛んでいただろうし、父には多くの迷惑を掛けたよ」


 懐かしむように目を閉じ学生時代を思い出すボレオ男爵。


「まあ、素敵ですわね! 爵位は違えど冒険者として身を隠し、旅をしながら善行を重ねたのですね!」


「確かに楽しかったが、逆の立場となった今では肝を冷やしそうだな」


「陛下は二つ返事で許可を出されておりました。陛下自身がこの旅に付いてきそうな勢いでしたが……」


 アンミラの言葉にボレオ男爵はプッと吹き出し笑い声を上げる。


「陛下は変わりませんな。実に羨ましい……私は領主としての仕事で目の回る忙しさ。自分のことに時間を使う余裕などありませんでしたな。ケンジ辺境伯が開発した魔道鉄道のお陰で目まぐるしい日々に変わってからというもの剣を手に取るようなこともなく、領主としては正しいのでしょうが残念に思いますな……」


「それなら一緒にお忍びでグンマー領へ行きましょうよ。貴女の娘のニッケラもいるのでしょう?」


 ニコニコと共犯者を増やそうとするリロリアルにボレオ男爵は首を横に振る。


「そうしたいのですが、まだまだ仕事が溜まっています。最近では魔物が活性化しているのか馬車の事故も多く、王女殿下も馬車で移動するのなら冒険者を雇う事をお勧めしますぞ。もちろん、アンミラ殿がいれば問題ないとは思うが、手札は多い方が良いでしょう」


 近衛騎士団の副団長であり王国一の剣の使い手と呼ばれるアンミラを前に言葉を選びながら発言をするボレオ男爵。アンミラも真剣な眼差しでその言葉を受け頷く。


「でしたら兵士を貸してはどうです?」


「いや、兵士よりも同じ女性の方が王女殿下も安心できるだろう。『黒曜の薔薇』が滞在していると報告に合ったが、指名依頼をこちらから出しますが如何しましょう」


 妻からの言葉を否定し、報告に上がっていた冒険者の名を口にするボレオ男爵。


「『黒曜の薔薇』ですか……」


 隣に座りお茶請けに出されていたドライフルーツを口にしているルナへ視線を向けるリロリアル。


「ええ、でしたらお願いするわ。ねぇ、ルナ」


 ドライフルーツを噛みしめるように味わっていたルナへ急に話が降られビクリと体を震わせ急いで飲み込み、何の話が行われていたのかと目をパチパチとさせる姿に肩を震わせるアンミラと男爵夫婦。


「ボレオ男爵がお勧めの冒険者へ依頼を出してくれるそうよ。ルナも賛成でしょ?」


「えっ、あ、はい、もちろんです。リロリアルさまを守る盾は多い方が……信用できる方々なのですよね?」


「腕は確かだと聞いている。それに女性だけのパーティーだから王女殿下も安心できるだろう」


「そ、それでしたらお願い致します」


 ソファーに座りながら深々と頭を下げるルナ。アンミラも同じタイミングで頭を下げ、微笑みを浮かべるリロリアル。


「では、すぐに依頼を出させよう」


 そう口にして立ち上がりこの場を後にするボレオ男爵。依頼の手紙を書きに書斎へと移動し、残った女性たちは入れ替わりに入ってきた男爵家に仕えるコックが焼き上げたバウムクーヘンを切り分け、湯気を上げるそれに両手を揃えてテンションを上げるルナ。


「とても良い香りですわね」


「これはバウムクーヘンという菓子でケンジさまから直々に教わりましたのよ。ささ、熱いうちにどうぞ」


 湯気を上げるバウムクーヘンを進める男爵夫人の言葉に真っ先に口にするルナ。毒見の意味合いもあるが熱々を口に入れハフハフしながらだらしない笑みを浮かべる。


「献上品として口にした事があるけれど出来立ては初めてです。ルチルさま、それにコックの方々、感謝しますわ」


 微笑みを浮かべ口にし、湯気を上げるバウムクーヘンをナイフで切り分け口に入れるリロリアル。ほんのりと熱を持ち口内広がるバターの風味とシットリとした食感に甘さが広がり自然と表情が緩み、隣に座り口にするアンミラも同じように口角を上げる。


「気に入っていただけたようで良かったわ。あなた達も王女殿下の口に合う料理をありがとうね」


 コックたちを労い深々と頭を下げ退出するのを見送り男爵夫人もバウムクーヘンを口に入れ頬に手を当てる。


「うふふ、とても美味しいわね。留学へ行っている娘にも食べさせたいわ」


「グンマー領へ留学しているのよね。最新の算術や高度な魔法も教えていると聞きましたわ」


「ケンジ閣下が新たな技術を広めているのですわ。王都の学園よりも高度な教育を行っていると、この辺りの貴族は挙ってグンマー領へ留学させております。王女殿下も留学を考えているのですか?」


 ケンジが惜しみなく数学や建築学や料理を広めた事により多くの貴族や冒険者が集まる土地へと変わり、それにより冒険者を引退した魔導士や貴族が活躍できる場を作ろうと新たに学園を作り運営している。本来なら隠す技術も惜しみなく教えている事が広まると近隣の貴族たちは自身の子供たちをグンマー領へと送りその知識を吸収させているのである。


「いえ、中央には中央という古い習わしがありますので私が留学することはないと思いますわ。ですが、最先端の魔法や算術は習いたいですわね」


「中央貴族は王家と共にありたいと思うのは昔からです。歴史や血統を重んじるのは変化する時代に置いて行かれるという事実に気が付いても変えられないのでしょう」


 リロリアルとアンミラからの言葉に頷くルチル夫人。その横ではルナが早々にバウムクーヘンを食べ終わり、まだ食べたりないのか切り分けてあるそれを見つめている。


「おかわりならどうぞ、紅茶も新しいのを用意させますね」


 微笑むルチル夫人にパッと笑みを咲かせるルナ。王女リロリアルとアンミラもおかわりを所望し、ルチル夫人は歓迎に成功したのだと胸を撫で下ろしながらも娘と同年代のリロリアルに微笑みを向けるがグンマー領の噂を思い出して口を開く。


「そうそう、グンマー領で気になることがあるの。以前から絶界に向けて龍の目撃情報があったのだけれど、その龍がグンマー領に降り立ったと報告を受けたわ。被害などの話はなかったのだけど、もしかしたら古龍種である可能性が高いと……」


「それはケンジさまが北の魔王を討伐成された時に協力したという古龍種ではないのですか?」


「恐らくは別の古龍種だと思われるのよ。ケンジさまに協力して下さった古龍種は竜であり、蛇に手足を付けたような龍ではないと本人からも一度だけ聞いた事があるわ。でも、目撃情報がある古龍種は蛇のような胴の長い龍種なのよ。被害がない所を考えれば心配ないのかもしれませんが注意して下さいね」


 警告にも似たその言葉にリロリアルは目を輝かせ、護衛の二人は悪い病気が始まったと大きくため息を吐くのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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