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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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早朝訓練と魔導士



「準備は終えているようですが……」


 リンクスから視線をライセンと幼い金孤に囲まれたキラリへと向けるティネント。


「ふふ、今後の子育てに生かそうと思い見学させて下さい」


 微笑みを浮かべそう口にするキラリ。眉間に皺を寄せながらもリンクスへ視線を戻すティネント。


「今日はこの二人も参加します。まだ病み上がりなのは貴方も知っての通りですので、まずは私たちの模擬戦を見ながら体を解しておきなさい。痛みなどがあれば無理しないように」


「はい、宜しくお願いします!」


 ラフィーラの大声で返事をし、その横ではメリッサは頭を下げる。


「では、水なしで抗いなさい」


「ひえっ!?」


 最低限のルールだけ口にしてゆっくりと足を進めるティネント。リンクスは急いで指輪から武器を取り出し構える。取り出した武器は一メートルと少しある棒で青いラインが入り手元には魔石だろう青い石が埋め込まれており、それを手にし数歩下がり魔力を通すとそのラインが青白く輝きを放つ。


「あれは杖だろうか?」


「杖にしては握り方が剣のそれです……恐らくですが魔剣の類ではないでしょうか?」


「あれは魔剣に近いものだろう。リンクスの水の魔力に反応して青く輝いているからな」


「でも刃がないわよ? 水はなしティネントさまがいっていたから水の刃が飛び出す仕組みではないと思うけど……」


「恐らくだが、アレは魔力を入れればそれだけ強化される棒だろう。かなり昔になるが似たような赤い光を放つ棒を使う鬼を見たことがある。金棒の一種ではないか?」


「貴方、この辺りには鬼はいないと思うのだけれど、いったいどれほど昔の話なのでしょう?」


 ライセンに対して座った瞳を向けるキラリ。その間にもティネントはゆっくりと前進を続け青く輝く棒の間合いに入る。


「覇っ!」


 発光する棒が更に輝きを増しあまりの眩しさに目を逸らすラフィーラ。メリッサは両手で目を保護し模擬戦を観察しようとするがあまりの光に目を細め、幼い金孤たちはキラリの後ろへと隠れ、浮気を疑われたライセンとキラリの会話も中断する。


「無駄に魔力を使い目くらましにするとは美学も何もありませんね」


 そう口にしながらも両腕で防御姿勢を取り連続で腕に感じる衝撃に笑みを浮かべるティネント。母代わりとして育てたリンクスの成長を喜んでいるのだろうか、それとも防御する事に追い込まれた現状が楽しいのかは分からないが、口角が上がり楽しげな表情を浮かべている。


「こうでもしないと模擬戦にもならないからな。さっき、朝日を見ながら思いついたよっ!」


 風を切る音と打撃音に少ない会話だけがその戦いを想像させ、音が収まり目を開くとリンクスは距離を取り、ティネントは防御していた腕にダメージがなかったのかメイド服には一切の痛みなどはなく素直に驚くラフィーラとメリッサ。


「強烈な打撃音がしましたがダメージは一切ないのですね……」


「あのメイド服もアーティファクトなのでしょうか……」


「もう始めておったのかの」


 新たな参加者の声に振り向くとナシリスの姿があり、二人は頭を下げ顎に手を当て指差す先ではティネントが一気に間合いを詰める姿が目に入る。


「来ると分かっていれば対応もできるっ!」


 一気に加速したティネントへ先ほどと同じように青白い光を放つリンクス。だが、打撃音は一切なく二人が光に包まれるなかゆっくりとその光が上へと角度を変え、黒い影が逃げるように躍り出る。


「何で見えないのに掴めるんだよ!」


 手にしていた棒を放し転げるように間合いを取ろうとするリンクス。だが、ティネントがそれを許すはずもなく手にしていた光る棒をその場に放棄し一瞬にして追いつき転がるリンクスの後ろ襟を掴み片手でプラプラとぶら下げる。


「発想は面白かったですね。格上相手にどうやれば一本取れるかというアイディアだけは認めますが、そこに心となる強さがなければただの遊びですね……ナシリスも来たことですから魔法の訓練をなさい」


「………………はい」


 返事を耳にしてその手を放しお尻から地面へ落ち摩りながら立ち上がるリンクス。それなりに負けたことが悔しいのか顔を顰め、そんなリンクスに一斉に群がる幼い金孤たち。


「おい、こらっ!? 舐めるな! 爪を立てて登るな!」


「うむ、次はワシだの。いつもの様にワシの魔力弾無効化して見せろ。ああ、二人とお前たちは下がりなさい。その場所では巻き込まれるぞ」


 歩きリンクスに近づきながら声を掛けるナシリス。手には真っ赤な魔石が埋め込まれた杖を手にしており、ラフィーラとメリッサはすぐにその場を離れ金孤たちは両手で抱えてラフィーラの横へと素早く回避する。


「素早く回収ができるのなら毎回そうして下さいよ……」


「ほれ、リンクスもその距離でよいのか? 今日はティネントの他にも見物人が多くいるからの」


 左手を白髪交じりの髭に当て片眉を上げるナシリス。リンクスは体中に付いているだろう金孤の毛を払う仕草をしながら距離を取り、先ほど使っていた青い閃光を放っていた棒をティネントから投げ渡され受け取ると身構える。


「次は貴女たちですから見学しながらでも柔軟を済ませなさい。関節が硬ければ怪我をしますよ」


 リンクスから視線をラフィーラたちに向け先ほどもいった事を口にすると、二人は急いで手足を解し始める。


「いつも通りにワシの魔力弾を水球で無効化するのだぞ」


「はい、お願いします!」


 二人の間は二十メートルほど距離があり野球でいう所のピッチャーからキャッチャーまでの間隔だろう。


「ゆくぞ!」


 右手に持った杖を掲げると無数の魔法陣が浮かび上がり輝く赤く輝く球体がその魔方陣から一斉に打ち出される。受けるリンクスは先ほど光っていた棒に魔力を込め払う仕草をすると同じように無数の魔法陣が浮かび上がり水球がいくつも放たれる。


「ど、どちらも無詠唱っ!?」


 屈伸をしながら驚きの表情で固まるラフィーラ。

 魔法を使う際には詠唱を行う必要があるのだが、それを無視して強制的に術を行使するのは魔法における奥義であり、魔法使いから魔術士への昇進を意味する。冒険者ギルドや軍に属する魔法使いが魔導士であると認定する基準とされ、大賢者であるナシリスはその上を行くが、まだ成人になったばかりの青年が使える技法などではなく驚くのも無理はない。


「それにあの数……ツリーレオパルドへ牽制した時でも水球を十発はその場に留めていましたが、いま見える数は……」


「いま放たれているのは十五発。浮かせて待機させているのは五十発といったところでしょう。あの魔法訓練はランダムで放出される魔力弾をその場から動かずに水球で打ち払う訓練。魔力の底上げや、相手の手を観察する洞察力に、その対抗手段を素早く用意する発動の速さ。他にも軌道を素早く理解し迎撃する能力に、魔力を操作し続ける集中力も必要です。

 手数の多さならリンクスの方がナシリスよりも上ですが、一発の威力と応用はナシリスの方が遥かに上ですね。ほら、止まってないで柔軟をちゃんとしなさい」


 その言葉に更に驚くが屈伸を再開するラフィーラ。目の前の赤い魔力弾と水球のぶつかり合いを視界に入れつつも草の上に腰を下ろし前屈を器用に行うメリッサ。


「クゥ~クゥ~」


 幼い金孤たちが応援なのか鳴き声を上げ、一瞬だが右の頬を上げ水球の速度が増し赤い魔力弾への対応が迅速になるリンクス。


「これ、お前たちが力を貸してはダメだろう」


 そう幼い金孤たちに注意を促しながらも速度と数に真直ぐ飛ばしていた魔力弾に変化を付けるナシリス。


「うおっ!? 変化球とか卑怯だぞ! なら数で勝負だぁぁぁぁぁ!!」


 一気に魔法陣の数が増し水球が弾幕のように発射され辺り一面は水浸しになる中、悲鳴が耳に入りティネントが声を上げる。


「そこまで! 少しギャラリーが増え過ぎましたね」


 先ほどまでとは違い二人の派手な魔法の応酬に警備していた者や寝ていた者などが集まりその集団に水球が入り込み悲鳴が上がったのだろう。その証拠に『月の遠吠え』の弓使いの女性が頭から水を被ったように濡れており、朝から災難な事である。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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