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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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取調室と畑作り



「魔道列車は馬車とは違い快適で、眠っている間に終点まで到着しましたわ」


「それが違法乗車した者の言い分だとっ! 警備兵を舐めるなよ!」


 リロリアルの言葉にわなわなと震え怒りを表す警備兵。終点のクラウス領へと到着し素早く脱出する手はずであったが、座席で居眠りをしたアンミラの失態もあり荷下ろしをする駅員に眠っているリロリアルとルナの姿を見つかり警備兵を呼ばれたのである。

 現在は取調室で三人まとめて怒られている。


「舐めてはおりません。魔道列車の乗り心地は素晴らしかったです。あの、これを上司の方にお見せ下さい」


 ある程度事情聴取をされてからアンミラは自身の身分証を懐から取り出して見せると震えあがる警備兵。アンミラが見せた身分証は白銀の縁取りに王家が保証する近衛兵のものであり更には副隊長の文字が記載されている。同じ警備兵の中でもトップの存在といって良い身分なのである。震えあがるのも仕方のないことだろう。


「す、すぐに見せて参ります!」


 姿勢を正し敬礼して叫ぶと駆け足で取調室からでら行く警備兵に大きなため息を吐くアンミラ。その横で椅子に座りながらアイテムバックからオヤツのクッキーを取り出し口に知れるリロリアル。ルナはそれを羨ましそうに見つめる。


「あむあむ……少しパサついていますわね」


「でしたら私が処分致します!」


 大きく口を開くルナだったが手にしたクッキーはリロリアルが頬張り消えて行くクッキーを涙目で見つめ、そんな事をしている間に取調室に響くノックの音。


「失礼します」


 先ほどまでの警備兵の態度とは明らかに違う音量と一礼して入室する男は警備兵の装いをしながらも品がある中年男性で、身分証をアンミラへと返却しながらもう一度頭を下げる。


「先ほどは部下が失礼致しました。どうか、私の首ひとつでご容赦していただければ……」


「いえ、違法な方法で魔道列車に乗り込んだのは事実ですから、こちらこそ申し訳ありません」


 互いに頭を下げ合う姿にクッキーで軽く咽ながら肩を揺らすリロリアル。


「実はお忍びで行動中でして」


「そのようですな。私も昔はクラウス殿下と共に行動し何度も肝を冷やしました。もし宜しければアンミラさまと皆さまを領主であるクラウスさまに紹介したいのですが、宜しいでしょうか?」


 警備兵の柔らかい笑みに自身の主人であるリロリアルへ視線を向けるアンミラ。その行動に警備兵は椅子に座る人物が相応の権力者の娘だと認識し、目を閉じてゆっくりと頭を下げる。


「そうね。ボレオ男爵とは小さな時に会ったことがあるし、紹介してもらおうかしら。帰りの切符を用意してくれるかもしれないものね」


 そう口にすると警備の男は「ありがとうございます」と礼を口にし、ドアを開け先触れを出すよう廊下で待つ警備兵に伝える。


「今夜は温かい部屋に泊まれそうですね」


「ええ、ボレオ男爵は魔道列車のお陰で鉄鋼業が盛んになり儲けているもの。快く泊めてくれるわ」


 微笑みを浮かべるルナとリロリアル。アンミラは図々しいお願いをしていると自覚しているが、王女であるリロリアルを宿に宿泊させるには警備の観点から考えなければならず親交のあるクラウス領主なら問題ないと思い多少なり安堵する。


「それでは馬車の用意をしてありますので、どうぞこちらへ」


 ドアを開け三名を警備隊所有のなかでもグレードが一番高い馬車に乗せ領主館へと移動するのであった。







 一方、リンクスたちは静稀と共に巣穴から外へと向かい芋を植える場所を決めていた。


「この辺りは高い木がないからどこでも育ちそうだが、魔物に食われてしまいそうだの」


≪そこはお任せ下さい。アイアンアントとレッドアントの部隊を常時警備させますからね~水あめになると知れば必死になって警備してくれるはずです≫


「最初に水あめの味を教えて警備させるとは悪い奴だな」


≪いえいえ、お代官様もアリとの交渉に甘味を持って来てくれたじゃないですか~効果は抜群です!≫


 転移者と転生者のジョークに二人は笑うが付いて行けないリンクスはフリルにお願いして岩場を爪で削るよう指示を出し、自身でもカレイにお願いして砂を水で包むとウォーターカッターのように岩場を削って行く。


「水の精霊と契約したと聞いたがやばい威力だな……」


 カレイが操る砂入りの水が岩場を削る様子に顔を引き攣らせるケンジ。ナシリスも画期的な方法だと褒めたが対人戦での使用はやめるよう注意を受けている。


≪滝つぼに落とした精霊と契約するとは驚きですが、契約するだけの威力がありますね~今日中に畑の基礎ができそうですよ~≫


 念話でお礼を口にする静稀。あっという間に岩場はプールサイズに切り取られ排水の為の穴も用意し、細かくなった岩をその中に水流の魔術を使い敷き詰めていると、レッドアントやアイアンアントが近くの森から土を運び敷き詰める。


「うむ、これなら根腐りする事もないの。余分な水は砂利と下に開けた穴から排水されるの」


≪いや~助かります。後は芋と大根を植えるだけです! 本当に助かりますよ~≫


「こっちもカレイとの連携や威力の調整とかの練習になって楽しかったです。芋以外にも葉野菜や果実もありますがどうですか?」


≪果実の中のタネを植えたら生えてきますかね?≫


「完熟してから採取しているのでたぶんですが木が育つと思いますよ」


≪それならお願いします。ドライフルーツを作れれば皆も喜びますよ~≫


 アリなので表情は分かり辛いがご機嫌なのは理解ができ、リンクスも微笑みながら手持ちの果実を取り出し手渡す。


≪リンゴに洋ナシ? ミカンに似た果実とブドウもありますね~自分からはミスリルぐらいしか出せませんが、どうぞ受け取って下さい≫


 テニスボールほどの大きさのミスリルボールをレッドアントが運んできてリンクスの前に捧げると申し訳なさそうな表情へと変わるが、ケンジは「貰っておけ、これからはご近所みたいなものだろうから何か美味しいもので手に入ったら分けてやるといい」と口にし、リンクスはミスリルを受け取り持って来たレッドアントと静稀に礼をしてから指輪に収納する。


「やっぱり貰い過ぎだと思うので、何か力になれることがあったら遠慮なく言って下さいね」


 リンクスもミスリルの価値をしっかり把握しており、テニスボールほどの大きさでも金貨数十枚だと理解しているのである。


≪それなら……友達になって下さい! アリたちは友達というよりも配下的な位置づけですし、作業する上での仲間でして……ダメですか?≫


 両手を合わせ祈るような仕草でリンクスを見つめる静稀。


「はい、友達になりましょう。というか、もう友達だと思っていたのですが……」


「はいはい、私も! 私もシズキさんと友達になりたい!」


 リンクスの後ろからピョンピョンと跳ねながら両手を上げるフリルに静稀はパッと表情を変えることはなく、顔はアリそのものなので表情的には変わっていないが、雰囲気が柔らかくなり口を開く。


「ギギギギギ~」


「おいおい、念話にしないと伝わらないが、喜んでいる事だけは伝わるな」


≪はい、前世では友達と呼べるほどのひとはいなかったので大快挙ですよ! 今世ではちゃんと友達ができました!≫


 静稀もフリルのようにピョンピョンと跳ねながら喜びを表し、ケンジはそんな静稀に優しく接してやろうと思うのであった。








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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