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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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蟻の女王と魔道列車



「ギギギギギギ」


 女王の間へと到着すると先ほど聞いたハンドベルが鳴り響き、中央で涅槃像のように寛ぐアイアンアントクイーンが叫びを上げ、他の女王も丁寧に頭を下げ勇者ケンジを迎い入れる。


≪こちらが冬の魔王を打ち取った勇者ケンジさまです。そして! 私が元住んでいた世界の人でした! いや~世界とは狭いものですね~きっと、勇者さまや人族とも良い関係を築けるはずです!≫


 両手を広げて念話を飛ばす静稀にハンドベルが盛大に鳴り響きアリたちからは歓声が上がる。特に大きな鳴き声を上げるアイアンアントクイーンからの叫びは重低音でお腹の中に響くほどである。


≪はいはい、皆さん! 喜ぶのはそこまでです! これから女王様方よりありがたいお言葉を賜りますので静かにして下さいね~≫


 再度念話が飛ぶとピタリと歓声とハンドベルが止まり静かさに包まれる女王の間。ただ、女王たちは誰がその有り難い言葉をいうのかと互いに顔を見合わせる。


≪それではアイアンアントクイーンさまより、お言葉を賜りたいと思います!≫


 静稀の念話にレッドアントクイーンとマジックアントクイーンはホッと胸を撫で下ろし、選ばれたアイアンアントクイーンは手をアタフタとさせるが一呼吸してから声を上げる。


「ギギギギギ、ギギギギギ、ギギギギギ、ギギ」


≪冬を終わらせた勇者には感謝しているそうです! 自分が生まれる前の事でその辺りは詳しく存じませんが、この辺りも寒さに覆われアリが住むのには極寒の地だったと窺っております。その冬を止めてくれた功績に我々は感謝しております!≫


 司会進行をする静稀が両手を上げると多くのアリたちから歓声が上がりハンドベルが鳴らされ盛り上がる会場。ただ、ケンジは何を見させられているのだろうかという気持ちでいっぱいであった。


 アリたちの文化が予想以上に発展しているのは静稀のお陰だろうが、無茶振りのようなスピーチをさせられている女王の扱いには同情するぞ……


 若干呆れながら話が進み、アリたちからは北の魔王を冬の魔王と呼び、寒くて住み辛い環境を改善させた勇者ケンジに感謝しているという事実を伝えられ、褒美に静稀が作り出す金属を与えるという説明がなされ、更にはこれから人族とアリで貿易したいという提案が持ち上がったのである。


「こちらとしては互いにまだ信用できないかもしれないが、良好な関係が築ければと思う。そうだ、これらは女王たちへ献上致します。我が領で生産している水あめと蜂蜜に乾燥させた果実になります。是非、お納め下さい」


 ケンジがアイテムボックスのスキルから樽に入れられた水あめや蜂蜜を入れた壺とドライフルーツを入れた竹で編んだ籠を積み上げるとアリたちからは今日一の歓声が上がり、女王たちも声を上げ喜びを示し、静稀が手を上げるとその歓声はピタリと止まる。


≪どれも美味しそうですね~そうだ! 水あめはこちらでも作っても大丈夫でしょうか?≫


「ああ、かまわないが、作り方を知っているのか?」


≪はい、デンプンを酵素の力で糖化させるのですよね~夏休みの自由研究で作りましたよ~ジャガイモからデンプンを取り出して大根おろしの汁を入れて作りましたね~あっ、ジャガイモと大根のタネとかあれば購入させて下さい≫


「それなら持ってますよ。たしかアイテムボックスに入れてあるので、えっと、これですね。芋はこれでもいいですか?」


 リンクスが指輪の収納から家で育てている芋を入れた麻袋と大根のタネを入れた小さな革袋を取り出すと静稀は手揉みしながら近づき≪ありがとうございます~≫と礼を口にする。


「野菜を育てる事もできるのか?」


≪そこは試行錯誤ですね~巣の上に畑を作れば大丈夫でしょうし、良質な土は森から運べばすぐにでも畑が作れますからね~これからは色々と育て大農園を作るのも楽しそうです≫


 アリでありながら農家へと転向するのかと呆れ顔なケンジだが、その挑戦する姿勢を素直に尊敬しているのか優しい顔へと変わる。


「シズキは変わったアリだが昔のお前に似ているな。ほれ、空に向かって使えもせん魔法名を叫んで練習したり、口からブレスのように炎を発射させてみたり、空を飛ぶ練習といって二階から飛び降りたりとの」


 ナシリスの言葉にお礼を口にしていた静稀とリンクスにフリルが振り返り、ケンジは顔を赤くしながらナシリスの口を押えようと飛び付くが、ナシリスも分かって揶揄っているのかすぐに距離を取りシールドを展開する。


≪自分はステータス! と何度も叫びましたね~出ませんでしたが≫


「俺もやったよ……そこはほら、異世界転移のあるあるというか……はぁ……頼むから娘たちの前でこの話はしないでくれよ」


 ギラリとリンクスとフリルに向けひと睨みすると無言で頭を縦に振る二人。それを横目に肩を揺らすナシリスと静稀であった。








 北の魔王が討伐され三十年でアーサード王国は大きく変わった。それまでは北の小国と呼ばれ資源も乏しく農地のも多くが一年中雪に閉ざされ侵攻されるような国ではなかったが、勇者ケンジが召喚され魔王を討伐すると春が訪れ広い農地が使えるようになり爆発的に発展する事となる。

 更にはケンジが開発した魔石を使った魔道列車の開発や酪農の知識などから多くの新しい文化が広まり、物流が発展すると更なる好景気に見舞われている。が、災害や飢饉などで亡くなる者も多かったが魔道列車の開発のお陰で迅速な救助と救援物資の搬入が可能になった事で多くの人命が救われ、人口もうなぎ上りで増え、近年ではアーサード王国の発言力は近隣の国から認め求められるように変わった。


 そんなアーサード王国を走る魔道列車内で王女リロリアルは毛布をかぶりメイドのルナと共に荷物に隠れている。


「これが王女の移動と誰も気が付きませんわね」


 貨物室内の狭い木箱の中で普段絶対にできないだろうドキドキ感を味わい笑みを浮かべる王女リロリアル。


「気が付かないというか、気が付かれたら問題になるのです。そもそも、魔道列車に空席がないのなら明日にすべきだったのではないですか?」


 眉間に皺を寄せるルナ。


「仕方がないじゃない。荷が全て腐った商人からチケットを買ったのだから……私が指定席に座っても良かったのよ? もちろんルナだって」


「それはそれで危険なのでアンミラをそちらに座らせ私たちが木箱に押し込まれたのです。お嬢さまをひとり座席に残してはそちらの方が心配になります」


「まあ、それでは私が問題児のようではありませんか」


「問題児だからこんな移動方法を取っているとしか……」


 狭い木箱の中からジト目を向けるルナ。木箱なのだが元々動物を入れるため格子状になっており、相手の視線も確認でき吹き出すのを我慢して肩を揺らす王女リロリアル。


「これでは奴隷にでもなった気分ですわね」


「お嬢さま、間違ってもその様な言葉を口にしてはなりません。我が国では奴隷は重罪を犯した鉱山奴隷だけです。私のような容姿端麗でパーフェクトな美貌の細腕では石を運ぶ事もできません」


「あら、ルナはゴーレムを錬成できるのではなくて?」


「確かにゴーレムの錬成はできますが……しっ! 静かに!」


 息を殺し向かって来る足音に耳を傾けるルナ。リロリアルは毛布をかぶり耳に神経を集中させる。


 貨物室のドアが開いた音に体をびくつかせるが「お飲み物をお持ちしました」と声を掛けられホッと胸を撫で下ろす二人。湯気を上げるカップを持ち商人風の変装をするアンミラが木箱に近づき温かいお茶を手渡そうとするが格子状の木箱のサイズでは入れることができず冷めた視線を受け、仕方なしに短刀で格子のひとつを破壊し温かい飲み物を提供するのであった。








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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