ケンジと静稀と文化
ケンジは黄金に輝く鎧を着こみナシリスと共に絶界の空を北西に飛んでいた。いつ魔物に襲われても対応できるよう剣は抜き身で背中からは光の翼を生やし飛ぶ姿は北の魔王を討伐した姿であり、その横を杖に乗り飛ぶナシリスは懐かしく感じながら警戒し目的地を前に高度を落とす。
地上では手を振るリンクスとフリルにエルフが数名おり、ナシリスとケンジの到着に丁寧に頭を下げ出迎えるエルフたち。
「おう、待たせたな」
片手を上げ皆へ簡単に挨拶を済ませているとケンジの視線に入るこの世界では見慣れない紅白の縁取りと巨大な花のオブジェ。
「異世界でパチンコ屋の入口って……こりゃ間違いなく転生者が関わっているな……」
半分呆れ顔を浮かべるケンジ。視線の先にある巨大な二つの花輪には『本日開店アリの巣ダンジョン』という文字が刻まれている。
「静稀さんが念話で言っていましたが、ケンジさんはやっぱり読めるのですね」
「ああ、日本語だからな。だが、この大きな花はやり過ぎだろ……」
パチンコ屋の新装開店などに飾られる巨大な花輪を前に見つめているとその花の間から顔を出す蟻人。
≪えっと、はじめましてです。気に入っていただけましたか?≫
念話を受けたケンジは視線を落として顔を出す静稀に目を細める。
「君が静稀さんだね。初めまして、勇者としてこの地に呼ばれ魔王を討伐したケンジです。絶界の下にある街の領主をしています」
≪これはご丁寧に、自分は静稀です。日本での記憶を持つ蟻人です。ささ、立花氏もあれですし、こちらへどうぞ≫
ペコペコと頭を下げながら自己紹介をする静稀にケンジも頭を下げ、花輪で飾られた入口へと案内され中へと入る。リンクスたちは以前に入った事もあり驚きはなかったが、ケンジは内部に浮かぶ光球に照らされた空間に驚き、進むにつれ現れるアイアンアントやレッドアントにマジックアントたちが頭を下げる挨拶をする姿に驚く。
「ん? 鈴の音?」
≪はい、勇者さまを出迎える為にハンドベルを皆に教えました。まだまだ拙いできですが聞いていただけると嬉しいです≫
先を行く静稀が手を広げるとまばらだったベルの音がピタリと停止し、手を振り下ろすと心地の良いベルの音が洞窟内な響き、マジックアントたちが片手にベルを持ち演奏する姿が吹き抜けの一角が光球に照らされ現れる。
「ほう、これは見事だの」
「すごくきれいな音色です……」
「こんな事もできるのですね。アリさんたちはやっぱり凄いや」
ハンドベルを奏でるマジックアントたちを前に一同は感心しながらその音色に耳を澄まし、ケンジは苦笑いを浮かべていた。
おいおい、文化レベルが蟻を遥かに凌駕しているぞ……それにあのベルは銀? いや、薄っすらだが発光しているからミスリル製か? はぁ……ミスリルの鉱脈はないとナシリスから報告を受けていたが……にしてもだよ。どうして軍艦マーチをハンドベルで演奏するのか……ああ、本当にパチンコ屋をイメージしているのか? それともただの悪ふざけか?
同じ日本に生きた者同士として知っている曲にしたのだろうけど、俺はパチンコなんてしたことないっての……
ケンジがある意味驚いていると曲が終わり一行が拍手をするとマジックアントたちは一斉に頭を下げ光球が消え、静稀が歩みを進める。
≪どうですか? まだまだ練習が足りないと思いますが楽しんでいただけましたか?≫
歩きながら念話を送る静稀にキラキラした尊敬の視線を向けるフリルが追い掛け興奮した様子で口を開く。
「すごかった! とってもすごかったの! 心がファッファッて! 踊るようだった!」
「うむ、フリルがいうように心が湧きたつような曲じゃったの」
≪喜んでいただけたようで良かったです。いや~あの曲を聞くと海を思い出しますね~≫
送られてきた念話にパチンコの常連だったのだろうと苦笑いを浮かべるケンジ。
「俺は未成年でこっちに来たから知識としてだけ知っているが、」
≪それはもったいないです! パチンコは心が躍り奮い立つ、座ってできる店側とのバトルなのに~≫
念話の内容にずっこけそうになるのをなんとか堪えるケンジ。パチンコを知らないリンクスなどは素直にそれを信じ、座って戦うという想像できないパチンコに興味を持ったのか口を開く。
「座って戦うとなると避けるのが大変そうですね」
≪避けるというよりも釘で妨害されるが正解ですかね~どんなに熱い演出でも外れる時はハズレますから~ケンジさんは領主という偉い立場ですし、どうです? 異世界パチンコとか≫
「悪いがギャンブルは手を出さない事にしている。あっちでもそうだったがギャンブルで破滅する奴もいるからな。こっちじゃ破産申請とかもないからギャンブルで背負った借金は鉱山送りだからな……悪い、ここが鉱山だったか?」
≪あはははは、そうですね~鉱山だとわかったのは住んでからですが、ここは鉱山ですね~銀と鉄に金が少々採掘されています。あの壁とかは黒と赤が見えませんか?≫
静稀が足を止め指差す先には光球に照らされた壁があり、斜めに入る地層には滲んだ赤と黒いラインが入り所々にはキラキラとした乱反射する輝きが見える。
≪赤い層からは鉄が採掘でき、光球によって輝いているのが銀鉱脈ですね~≫
「ミスリルの鉱脈はないと報告されていたが、先ほど演奏に使ったハンドベルはミスリル製に見えたが?」
≪ああ、あれは私のスキルで造り出したミスリルですね~こうやって銀鉱脈に手を添えて、生成! ほら、この通りです!≫
静稀が壁に手を当てるスキルを使うと壁の一部が剥がれ落ち、手にはミカンほどの大きさの銀の塊が現れる。
≪こうして生成した銀に新たにスキルを使えば、錬成! ミスリルの完成です≫
静稀の手が輝き魔力を帯びて姿を変える銀の塊。光が治まるとスキットルの形をしたミスリルがその手に上に現れる。
「なっ!? 銀をミスリルに変えるスキルとかチート過ぎるだろ!」
目の前で起きた奇跡的な現象に思わず声を上げるケンジ。リンクスたちは既にみた事があり驚くことはなかったが、ミスリルという希少金属を使い小さなフライパンを作るのはどうなのだろうかとモヤモヤした気持ちを抱える。
≪銀はミスリルに、鉄は魔鉄と呼ばれる魔力を宿した鉄に、銅も同じように魔力を宿したものへ変わりますね~金だけは無理でしたが、こうしてまたスキルを使えば思うがままの形に変化しますよ~≫
静稀の手の上で形を変え、球状になり真四角へと形を変え、最終的にはうにうにと人型に形を変えビームライフルを構える某白い悪魔へと姿を変える。
「ははは、異世界でガン〇ムを見ることになるとは……言い値で構わないから売ってくれ! できれば他のモビルスーツも欲しい!」
最初は乾いた笑いで現実逃避気味のリアクションだったが、その希少性と日本を思い出す品にテンションを上げ叫ぶケンジ。
≪いえ、お近づきの印にこれは無償で構いませんよ~でも、再現できる作品は多くないので、女王様方への謁見の後にしましょう≫
手にしていた某白い悪魔をケンジへ手渡すと浮かぶ光球へと近づき目を輝かせて見つめるケンジ。それを不思議そうに見つめるリンクスたち。
≪ザ〇のような姿の鎧とかを量産してもカッコイイかもしれませんね~≫
「ああ、それは良いかもな! って、どう考えてもやられる未来しか見えないだろ!」
異世界人同士の会話について行けないリンクスたちなのであった。
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