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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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オークションとリロリアル


 

 会場へ熱気に包まれ提示した金額が更に上がり、この日一番の金額で落札されると大きな拍手が送られる。


「………………私のお小遣いではやっぱり無理だったわね」


 熱気に包まれる会場でぽつりと呟いたのはこの国の第二王女であるリロリアル・フォン・アーサード。美しい金髪には軽くウェーブが掛かり俯いた衝撃でバネのように上下に揺れ、その瞳には諦めの色が窺える。


「絶界の素材はどれも高価で貴重な物です。用途も多くあり多くのものが悔しい思いをしたようです。お嬢さまには申し訳ありませんが金貨百枚程度では……」


 横に立ち俯く王女へとどめを刺したのは王女の専属メイドであるルナ。紫色の髪の毛が印象的で分厚い眼鏡を掛けたメイドからの言葉にキッと睨むように顔を上げたリロリアルはVIP席から立ち上がると部屋を後にし、追い掛けるルナ。

 まだオークションは続いており席を立つものはいないが長い廊下を速足で進みオークション会場を後にする。


「そもそも、なんでセット売りなのよ! 私が欲しいのはアーマードベアの瞳と心臓が欲しいだけなの! それだけなら金貨百枚でも十分でしょう!」


「確かにそうですね。ですが、魔術ギルドが全て買い取ったとなればそれらは有効活用されますね。王家が圧力を掛けるわけにもいきませんし……またの機会に掛けましょう」


 先を進むリロリアルに声を掛けるルナ。どちらも表情が暗く支配人だろう男は頭を下げ言葉を掛けずに王家の馬車を呼ぶよう手はずを整える。


「もう、私の野望が遠のいたわ!」


「野望などと口にしないで下さい。変に疑われては貴族共に突かれますよ」


「私は政権なんかに興味はないの! これは常に公言しているから私を持ち上げる派閥がないのよ! それよりも野望よ! 私は精霊と仲良くなりたいだけなの! ああ、なんて可哀想な私なのかしら……」


 ロビーのソファーに腰を下ろしたリロリアルは泣き真似のように両手で顔を覆うが、専属メイドのルナは微笑みを浮かべる。


「お嬢さまが精霊などと契約をしたら私の負担が二倍になりそうです。ある意味私は良かったと思いますけどねぇ」


 その言葉に口を噛みしめたまま顔を上げるリロリアルはルナを睨みつける。が、急な笑顔へと変わりその異様さに身震いをするルナ。


「お嬢さま、もしかして何やら悪いことをお考えでは?」


「あら、そんな事はないわよ。ただ、名案が浮かんだだけよ。うふふ、オークションで落とせないのなら現地に取りに行けば良いじゃない! ルナは昔、凄腕の魔法使いだったのでしょう?」


「いえ、私は中の上程度の魔導士です」


「大賢者ナシリスさまの弟子だった事もある『爆風』と呼ばれた魔導士さまでしょう?」


 口元を引くつかせるルナは王家の馬車が入口に到着したのを確認するとニヤニヤと視線を向けるリロリアル王女の手を取り立ち上がらせ、その背を押して外へと向かう。


「お嬢さま、馬車の準備ができましたので行きましょう」


「ええ、そうね。『爆風』にお願いされては急がなくてはね~」


「お嬢さま、本当にその二つ名で呼ぶのは勘弁して下さい……支配人たちの顔を見ましたか? アレは可愛そうな人を見る目でしたよ! これでまた私の婚期が遠のいたではありませんか!」


 馬車に乗り込みながら肩を揺らすリロリアル。ルナは馬車に乗り込むと眉間の間に深い皺を作り不機嫌をアピールする。が、リロリアルは対照的に微笑みを浮かべて口を開く。


「街を半分も吹き飛ばす『爆風』なら素敵な人がすぐに見つかるわ」


「冒険者ならそうでしょうけど、ガサツな者しかいない冒険者なんてお断りです! 私は子爵家以上に使える執事と結婚がしたいだけです! 貴族からのしがらみが薄く高収入! おまけにロマンスグレーな髪とスッとした体型が好きなだけです!」


 自身の理想の男性像を口にするルナ。リロリアルは肩を揺らして笑い声を上げる。ある意味不敬罪にでもなりそうなやり取りなのだが、王女であるリロリアルが気に入っているので問題はないのだろう。


「ルナの好みは理解したわ。で、実際のところルナはアーマードベアに単独で勝てるのかしら?」


 笑うのをピタリと止めた王女リロリアルからの言葉にルナは口と目を閉じ、オークションに出品されていた毛皮の大きさや骨格に魔石からその強さを想像する。


「不可能ではありません……」


「では!?」


「いえ、普通に戦ったのでは分が悪いです。そうですね、森の中だと仮定して、前衛に近衛兵を三名、アーマードベアが一頭で、こちらに気が付いていないのなら確実に倒せるかと……」


「それって近衛兵はいるかしら? どう考えても魔法一撃で倒す前提じゃないかしら?」


「その通りです。しかし、初段が外れた場合に身の安全を考えれば近衛兵に盾になってもらう必要が出てきます。頭を狙い撃ちするのであればもう少し簡単なのですが、必要なのはアーマードベアの瞳と心臓。そうなると狙うのは首がベストでしょう」


 一撃で致命傷を与えるのなら頭部を狙うか心臓を狙うのが一番だろう。だが、王女リロリアルが所望する瞳と心臓を傷つけず回収するには首だけを狙い倒すしかなく、腹などは固い鎧のような皮や毛に覆われ更には強靭な腹筋がその威力を殺すだろう。


「ルナの言う通りね。でも、『水遊び』なる冒険者は体に一つの傷もつけることなく討伐したそうよ。同じようにはできないのかしら?」


 オークション開始前に信じがたい事実を司会が説明し、会場が大いに沸いた事を思い出すルナ。


「水魔法による窒息死ですか? 私では不可能でしょう。そもそも私に水魔法の特性がありません。もっといえば、水魔法の特性があったとしても窒息させるほどの水量を維持し続ける魔力操作を考えると……師匠でも不可能だと思います。仮にそのような魔導士がいたとしたら宮廷魔導士にスカウトすべきですね~」


 半信半疑といった表情でリロリアルへと視線を向けるルナ。


「オークションを盛り上げるための嘘というのも頷けるけど、『水遊び』は大賢者ナシリスさまの弟子。そんな嘘が通るとは思えないわ……うん、こちらも調査すればいいわね~」


 ニコニコと笑みを浮かべる王女リロリアル。ルナは大きなため息を吐きながらも一王女が旅に出る許可が簡単に降りるはずがないと心のどこかで期待していた。








「おお、なら私も同行しようじゃないか!」


 ルナの期待とは裏腹に王城へと戻った王女リロリアルが国王へと恨み節で報告すると、前向きというよりも前傾姿勢な回答が髭の生えた口から発せられ苦笑いを浮かべる。


「お父さまがですか!?」


「ああ、ケンジと会いたいからな! それにグンマー領では多くの新しい料理と酒が生まれている! 私だってたまには休暇を取り、」


「貴方? 休暇も良いですが外交の予定をまず確認なされませんと、それに明日は聖王国からの使者や竜王国からも……私が覚えているだけでも会食続きですわ」


 冷ややかな瞳を向ける王妃ファランロリアルに国王であるアラジリラルはルナのような苦笑いを浮かべる。


「うむ、私も行きたいが……アンミラよ、其方が付いていれば娘を守れるだろう。すまぬが頼めるか?」


 王室のサロンの入口で控えていた紫色した髪が印象的な近衛騎士に声を掛けるとその場で片膝を付くアンミラ。


「ついでにコジロウを連れて行きなさい。ケンジに名付けてもらい立派に育った姿を見せればラフィーラ嬢を落とせるかもしれないわ」


 この場にいない息子の話を出し連れて行くよう命令を出す王妃ファランロリアル。リロリアルは丁寧に頭を下げ了承し、グンマー領への視察兼アーマードベア狩りが決定するのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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