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水遊日和  作者:
第二章 アリとダンジョン
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巨大なサギハンと調査の一時中止



「『水遊び』はザコを頼む! 俺がアレを倒す!」


 中級ポーションを口にして傷の癒えた『北の黒剣』のリーダーがロングソードを構え叫び、それに応じるように更なる咆哮を上げる巨大なサギハン。リターンマッチがしたいのだろう。が、リンクスは頷きながらも新たな魔方陣を浮かべる。


「その前に防御力を削りますね! カレイは他のサギハンを頼む!」


 リンクスの声に≪ボクに任せて!≫と念話で叫ぶと海水がズズズと動き砂浜へと移動し、砂を含んだ三角錐へと変化すると一気にサギハンたちを襲い始め歓声を上げる冒険者たち。聖女ラスティネラも目の前の光景に目を輝かせ聖騎士団長から羽交い絞めにされながらリンクスへと飛び付かぬよう堪える。

 一方、浮かべた魔法陣からは湯気を上げる熱水球が放出され両手で防御する巨大サギハン。腕で防御をしてもその熱に耐えられないのか悲鳴を上げ、逃げ出そうとするが新たに魔法陣が浮かび上がり熱水球が全身を襲う。


「あれだけ苦戦していた相手だが可哀想に見えるな……」


「生きたまま茹でられているぞ……」


「あ、あの、俺がとどめを……」


 各リーダーたちからの声を耳に入れながらもリンクスの脳内では魚は熱湯でぬめりを取るというナマズの捌き方が浮かんでおり、昼食時だなとお腹を鳴らし緊張感に欠けるが、カレイが操作する水と砂の混じった円錐状の力の行使にサギハンたちは体に穴を開け力なく倒れる。


「リンクスさまはやはり素晴らしいです! 想像の女神もごもごもごもご」


「聖女ラスティネラさま! お願いだから極秘事項を叫ばないで下さい!」


 リンクスの活躍に目を輝かせる聖女だが羽交い絞めにされ叫ぶ姿を聖騎士団たちは引きながらも次々に倒されるサギハンたちに安堵の表情を浮かべ、身をよじって苦しんでいた巨大なサギハンも次第に声が小さくなり倒れ、固まっていた灰が崩れるように光の粒子へと変わる。


「あっ!? 俺のリベンジ相手が………………」


 呆気なく討伐された巨大なサギハンを前に力なく膝を付く『北の黒剣』のリーダー。彼のパーティーである女性たちもジト目をリンクスに向け、『月の遠吠え』と『赤鉄の斧』たちも助かったと思う反面、二十人以上の冒険者と聖騎士が協力して戦った相手を呆気なく倒す姿に口を開け固まっている。


≪こっちも片付いたよ~ほらほら、僕を、パートナーの僕を褒めてくれよ~≫


 リンクスの胸に飛び込んでくる手乗りサイズの人魚に「ありがとな、助かったよ」と口にし、青くウェーブの掛かる頭を優しく撫でる。


「あれって……『水遊び』の奴は疲れているのか?」


「何もない所を撫でているが……」


「いえ、あれは精霊さまを撫でているのです! 私には水の精霊が見えます! 流石は創造のもごもごもご」


 妄想で何かしらを撫でて褒めるヤバイ人だと汲み取った冒険者たちの声を聖女ラスティネラが否定し精霊を見る力があるのか、そう口にするがすぐに聖騎士副団長がその口に手を添え、羽交い絞めにしている聖騎士団長とのコンビネーションの取れた行動に聖騎士たちは胸を撫で下ろす。


「うお~スゲーアイテムをドロップしてるぞ! ほら、拳大の水属性の魔石と青い宝石?」


「これってブループラネット!? 本物なら金貨数千枚で取引された記憶がありますよ!」


「砂漠の王が生涯欲した水を操る宝石だっけか?」


「そうです! ブループラネットは水の魔石とは違い手に持って念じるだけで水を生み出すという言い伝えが……」


「なら、いならいな。それよりも水の魔石はお風呂用に欲しいから貰っても良いか?」


 リンクス自体が水魔法のスペシャリストであり、更には水の精霊であるカレイ画いることもあってか伝説と称されるブループラネットすら無価値に思え口にする。


「それなら教会で預かりましょう! 干ばつの際に使えば民たちが喜びます!」


「なっ!? それなら故郷の国に送りたい! アタイの村は砂漠で井戸水も期待ができない事が多いからね! 頼むよ!」


 口を押えられていた聖女ラスティネラが叫ぶように懇願し、『北の黒剣』の槍使いの女性が故郷を思いこちらも叫ぶように懇願する。


「その辺は適当に話し合って決めて下さい。ああ、それよりも早くみんなでサギハンの魔石やドロップ品を回収しましょう。砂に埋もれてしまえば見つけることも大変ですし、ダンジョンに取り込まれてしまいますよ」


 リンクスの言葉に砂浜に散らばったサギハンのドロップアイテムへ視線を向け慌てて拾い始める冒険者たち。多くは水属性の魔石で、他にはサギハンの爪や鱗にサンゴといったもので金銭的な価値になるものが多く、ダンジョン調査の報酬に色が付く程度だろうがこれも調査のうちでありひとつ残らず回収してまわる。


「また『水遊び』に助けられたな……」


「たまたまですから。それよりもここがダンジョン内ということですが、もしかしたらグンマー領の街から西にある発見されたてのダンジョンですか?」


 抱いていたカレイを肩に乗せながら礼を言う『北の黒剣』のリーダーに話を聞くと頷き、魔法使いの女性が口を開く。


「リンクスさまはどちらから現れたのですか? 三階層の入口は私たちの後ろで、どう考えてもあちらからやってきましたよね?」


「ああ、冒険者ギルドの依頼でアイアンアントの調査に向かって水脈に落ちまして、水の精霊のカレイに助けられ? このダンジョンに辿り着きました。水脈がこのダンジョン内に通じているのだと思います」


「大発見ですね! ダンジョンは隔離された空間という説がありますけど、それを覆しますよ!」


「これも調査内容として報告してもいいか?」


「はい、落下するような感覚があったので滝のような場所から落ちたのかもしれません。そうだよな?」


≪そうだねぇ。水脈から流れ、あっちに見える大きな滝からここに入ったねよ≫


 肩に乗るカレイが指差す方へ視線を向けるリンクス。遠くに見える大きな岩場から流れ落ちる滝をリンクスも指差し『北の黒剣』のリーダーは頷き、魔法使いは興味が勝ったのか走り出そうとするが仲間の槍使いの女性に素早く腰へとタックルしその行動を抑える。


「ちょっと、まだ何があるかわからないのに走り出さない!」


「これは調査です! 調べないと! ダンジョンの不思議を調べないとですよ!」


 そんな光景に肩を震わせるリンクス。『北の黒剣』のリーダーが魔法使いの女性をなんとか宥めるのであった。







「調査の方はここまでとして、一度地上へと戻る事にする! リンクスさん、本当に助かりました」


 調査隊の隊長である『北の黒剣』のリーダーからの言葉に多くの冒険者から賛辞の声が上がるなか、リンクスは頭を下げて口を開く。


「自分も迷子のようなものでしたので居場所が分かって助かりました。早く帰らないとティネントさんが暴走するかもしれませんので家に戻ろうと思います」


「ああ、ティネントさんは凄腕のメイド服を着た女性の方だよね。あの人も色々と凄かったが、暴走するとか怖いこというなよ……」


 若干引き攣った顔で口にする『北の黒剣』のリーダー。ただ、聖女ラスティネラがや『北の黒剣』の魔法使いなども暴走していたのにと思いながらも、ティネントが暴走したらそれこそ地形が変わるほどの結果が待つなと同じように苦笑いを浮かべるリンクス。


「では、出口へ向かうぞ! 帰りこそ気を付けろよ!」


 『北の黒剣』のリーダーの言葉に皆で頷き調査を一時中断させ、一度ダンジョンの外へと向かう一行なのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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