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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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リンクスの秘密



「それではワシも行くとするかの」


 そう口にしながら立ち上がるナシリス。ベッドから身を起こしたまま頭を下げるメリッサ。


「あ、あの、リンクスさまはまだ若いのにあれほどの強さがあるのはナシリスさまが鍛えたからなのでしょうか?」


 手にしたスープの温かさを感じながら自身では太刀打ちできなかったアーマードベアに勝利し、冒険者に混じり隊の先頭を任されるほどの実力を見聞きしたラフィーラからの疑問にナシリスはニッカリと笑いながら口を開く。


「リンクスの強さか、あれはワシとティネントが鍛えたのもあるがまわりの環境が大きいかもしれぬの。ワシは魔法の基礎を教え、対魔法使いの戦闘方法を教えたにすぎぬ。基礎体力と近接戦はティネントが付きっきりで体に覚えさせたかの……多少の不利すら撥ね退ける精神力はあると思うぞ。

 まあ、それでも今の嬢ちゃんの方が真っ当な意味では強いかもしれんの。リンクスは良い意味でも悪い意味でも普通とは違う戦い方だからな……この森の中と限定すればワシにも勝つことができるのがリンクスの戦い方じゃな」


「大賢者であるナシリスさまにも勝てるのですか!?」


 目を見開き声を荒げ驚くラフィーラ。横のベッドでも同じように驚きの表情を浮かべている。


「うむ、奴は絶界で育ち種族を越え付き合いがあるからの。お前たちも目にしたとは思うが金孤の奴らはリンクスを慕っておる。それだけでも人族にとっては脅威なのだが……古龍とも付き合いがあっての、もしリンクスが人族に殺されでもすれば怒り狂うだろうな。他にもエルフやラミアたちとも付き合いがあるからの。リンクスのまわりにはいつの間にか亜人種が集まるようになっておるのかの……不思議な物じゃな」


 不思議という単語ひとつでまとめるには納得できない表情を浮かべるラフィーラ。


「金孤だけでも伝説と語り継がれるのに古龍種までリンクスさまと繋がりがあるのですか……」


「うむ、リンクスが幼い時に金孤の子を助け気に入られたからの。あの時の事は忘れもせんの……それに古龍どもはリンクスを気に入っているのか、昨日もペプラと釣りをして大きな魚を見せてきたからの……本当の意味でリンクスの強さは自身の魔力や力ではなく人望かもしれんな。ほれ、折角のスープが覚めてしまう前に食べぬか、ワシも腹が減ったのでもう行くからの」


 そう口にしてテントを去るナシリス。二人は頭を下げ見送りまだ温かいスープを口にする。


「美味しいわね……」


「はい、レバーを使っていますがあまり癖がなく食べやすいです」


「リンクスさまの噂は度々耳にしていましたが恐ろしいですね……」


「金孤族に古龍種……どの種族を敵に回しても国が亡びる未来が見えるのですが……」


「エルフやラミアだって敵に回ったら恐ろしいわ。それなのに冒険者ギルドで大立ち回りをしたのでしょう」


「はい、調べた情報が本当なら絡まれた格上の冒険者たちの股間を狙い水球で……」


 頬を染めながら説明するメリッサに肩を震わせるラフィーラ。


「ふふ、水を遊ぶように使う『水遊び』と呼ばれた冒険者は大賢者ナシリスさまの後継者なのかもしれないわね……」


「私は気絶しておりましたが一番大きなアーマードベアに勝利したのもリンクスさまです。もしかしたらナシリスさまやティネントさま方が倒したといわれている魔物の素材もリンクスさまが仕留めたものかもしれませんね」


「そうね……その可能性もあるわね……人柄については未知数だけど街に来るのなら探らせてみましょう」


「それについては絶対に敵対しないで下さいね。お嬢さまは誤解されやすいく度々問題を起こされますので……」


 そう口にしてジト目を向けるメリッサ。口を尖らせ否定しようとしたが自身のお腹からなる音に頬を赤らめスープを口にするのであった。






 翌日になり目を覚ましたリンクスは汗ばむ自身の体に違和感を覚えて身を起こすと、ベッドには五匹の幼い金孤に囲まれており大きなため息を吐く。


「昨日はあっちの絨毯の上で塊りになっていたのに態々俺のベッドに潜ったのかよ……通りで暑い訳だ……」


 リンクスが使っているテントはテントと呼べる大きさではなく一軒家サイズで中にはキッチンや暖炉まで完備されている。これはティネントが昔使っていたアーティファクトで自身の手作りであり多くの貴重な素材と魔術を使い持ち運べる特殊な家で、手の平に乗るサイズでありながら魔力を通すと普通の一軒家になるという自称テントである。


 幼い金孤たちを起こさないよう慎重にベッドから降り着替えを済ませ窓を見ると空はオレンジに輝き、草原に登る太陽に照らされた多くのテントや焚火を囲み寝ずの番をする冒険者などが目に入る。


「ふわぁ~行くか……」


 大欠伸のあとに気合を入れ首にはタオルを巻いたリンクスが部屋を出ようとすると足元には金の尻尾が揺れ一斉に鳴き出す幼い金孤たち。


「これから朝練だが一緒に行くか?」


「クゥ~」


「よし、なら一緒に走るぞ。遅れるなよ」


 部屋を出て階段を降り外へと向かうリンクスその後ろには金孤が続き朝焼けの中を走り出す。

 テントの群れは森から五百メートルほど離れておりそこを避けて草原へと駆け出すと見晴らしが良く、遠くに見える麦畑や村が見えそちらへと足を進める。幼い金孤たちは歩幅が小さいがそのスピードはリンクスよりも早く、魔力を使っているのか足元が輝き一向に離れる様子はなく足並みを揃え草原を進む。


「三キロは走ったか? 息を上げているのもいないな」


 ジョギングを終えゆっくりと体を解しながら幼い金孤立ちを見渡すと、リンクスと同じように二本足で立ち屈伸の真似をしてそのまま後ろに転がり笑い出す。


「朝から随分と楽しそうだな……」


「ふふ、みんなは本当にリンクスのことを気に入っているわね~」


「クゥ~」


 幼い金孤の母であるキラリと、不機嫌そうな表情でリンクスへジト目を向ける父であるライセンが突如空から現れ子供たちはキラリに群がる。


「おはようございます。お二人とも早いですね」


「我らは朝が早いのではない。お前たちの為に寝ずに魔物が近づかぬよう見張っていたのだ」


「それはありがとうございます。助かりました」


「ああ、それはいい。それよりも娘たちがリンクスの寝室に入って行ったが……」


 眉間に力を入れ睨むようにリンクスを見つめるライセン。父として思う所があったのだろう。


「はい、暑くて起きましたよ。寝る時は絨毯に固まっていたのに起きた時には囲まれていて驚きました」


「あらあら、お熱い夜だったのね~」


「真夏かと思うほどに暑かったですよ……」


 若干会話がかみ合っていないがケラケラと笑うキラリと幼い金孤たち。その奥で顔を歪めるライセン。だが、顔を歪めるだけで口を出すことはなくゆっくりとこちらへやって来る気配に視線を移す。

 視線の先には三名の姿があり、ひとりはメイド服に角のあるすらっとした美人のティネント。その横を歩くのは装備を整えたラフィーラ。そして、もう一人はメイド服に笑顔を浮かべるメリッサである。


「これから朝の鍛錬が始まるのか?」


「はい、今日は移動はなしで重傷者たちの様子を見ると言われていたのですが、あの二人も重傷者だったのにな……」


 呆れならこちらに向かって来る二人を見つめていたが、慌てて柔軟運動を急いで仕上げるリンクスなのであった。








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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