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水遊日和  作者:
第二章 アリとダンジョン
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水の精霊と



 水で作られた触手に腕を取られ滝つぼへと落下したリンクスは不思議な体験をしていた。落下する浮遊感と暗闇に向かう恐怖感はあったのだが不思議と心に焦りはなく落ち着き、いつ水面に叩きつけられたのか分からずいたが、今度は横に進んでいという感覚に陥る。

 視界が真っ暗で薄い膜にでも包まれているのか水に触れているという感覚がなく、もしかしたら夢なのではないかと思えるほどであった。が、体が急に左右に移動したり上下へ移動したりしているような感じに、もしかしたら水流の中で岩などを避けているのかもしれないと暗闇に慣れ始めた目を凝らす。


「この光は精霊だよな?」


 小さく呟くリンクス。真っ暗な中でも精霊は青白く輝いており野球ボールほどの球体がリンクスの前にあり、手を伸ばせば掴めるのではないかと思える距離を一緒に移動している。薄っすらと青白く光る球体の輝きで仄かに照らされる水流と小さな泡や迫る岩。


「うおっ!?」


 思わず声を上げるが岩を回避し、そのまま流れ続ける。


≪ふふふ、声を出さないから気絶したのかと思ったけど、起きていたんだね≫


 頭の中に響く声にリンクスは静稀からの念話と同じような方法で話し掛けているのだと気が付き口を開く。


「えっと、俺をどこに連れて行く気ですか?」


≪もうすぐ着くからね。ボクのお気に入りの場所さ≫


 頭の中に響く声に不思議と優しさを感じながらもリンクスの脳内では精霊に誘拐されたという事実よりも、ティネントが心配して暴走していなければと脳裏にチラつく悪い考えに首を振って否定する。


≪ほら、ボクはここに君を連れてきたかったんだ≫


 一気に上昇し水面から飛び出るリンクス。連れてこられた場所は光を発する苔でもあるのか薄ぼんやりと光を放ち近くにあるクリスタルなどが光を増幅して神秘的な輝きの中に降り立つ。

 苔以外にも精霊なのかピンポン玉ほどの光が無数に輝き、リンクスは思わず声を漏らす。


「綺麗だな……」


≪そうだろう、そうだろう。ここはボクがヒカリゴケを集めて作ったボクだけの場所だからね。気に入ってくれたのなら連れてきた甲斐があるというものだよ≫


 頭に流れる声を聴きながらも天体ショーのような光景に目を奪われるリンクス。無数の青白い光が目の前を通り過ぎその度にクリスタルが反応して輝く洞窟内を見つめ、どれ程の時間が経ったのか分からないほど目の前の光景に圧倒されていると、ここへ連れてきた精霊の光が目の前に迫り停止する。


≪見入っているようだけどボクの話も聞いておくれよ。ボクはひとつだけ君に頼みがあるんだ≫


 優しく語り掛ける声に視線を精霊へと向けるリンクス。


「頼み? えっと、精霊と約束をすると危険な事があると母から教わっているのですが……」


≪ボクはそんな意地汚い精霊じゃないよ! ボクの頼みは簡単なことさ。君と契約してここから離れ外の世界を見たいだけさ≫


 リンクスのまわりをクルクルとまわりながら念話で話す精霊。上下に移動したりリンクスの頭のまわりを跳んだりと楽し気に踊っている様にすら見える青白い輝き。


「せっかく綺麗な場所なのにここから離れたい? それならひとりで離れたら……」


≪そうだね。ボクだけの力でそれができたらとっくの昔にやっているね。でも、それができないからお願いしているんだ。

 精霊にはそれぞれに役割というものがあってね、その役割から逃れることはできない……できるとしたら契約者を探して一緒に行動することだね。ボクはここのような綺麗な場所に行きたい! 暗く光のない水の中はもう嫌だ! 君がボクを外の世界へと連れて行っておくれよ!≫


 目の間で停止するとフルフルと小刻みに揺れる精霊。


「契約しないとここから出られないのか……でも、俺と契約しても外へは出られるだろうけど、基本的に絶界の家にいるし、たまに街へ行くぐらいで精霊さんが楽しめるような生活をしてないぞ」


≪それでもいい! 明るい光に照らされる世界を見たいんだ! ボクがここから離れて見に行ける場所は暗い水脈とアリの巣の近くまで……ボクはもっと、もっと、広い世界を感じたいんだよ!≫


 青白い光が強く輝き手で光を遮ろうとするがすぐに光は弱まりチカチカとした目を擦りながら思案する。


 この精霊は恐らく水の精霊でキラキラとした光が好きなのかもしれないな。家の近くにある湖も太陽の光に反射した光景は綺麗だったし、暗く狭い世界で長い年月を過ごしてきたと思うと外の世界を見せてやりたいな……ああ、でも、精霊との契約の仕方とか知らないがどうすれば……


≪そんなのは簡単だよ! 君がボクに名前を付け、受け入れれば魂の契約になるからね! 契約の解除は満月の夜に月を見ながら片方が願えば破棄される。 月の女神は夜を照らし契約に嫉妬する? その辺はよくわからないけど、前にここに現れた水の大精霊が教えてくれたよ! さあ、名前を! ボクに名前を付けておくれよ!≫


 青白い光を点滅させリンクスに迫る精霊。


「名前を付けると契約できて、破棄するには月に願うと……ん? 今俺って声に出していたか?」


≪うん、難しい顔で呟いていたね。ここはボクたち以外に音がないから良く聞こえたよ≫


「そっか……名前か、どうするかな……」


 腕組みをしながら目の前の青白い光球に名前を付けるべく腕組みをするリンクス。


≪できるだけボクに似合う名を付けてくれよ! ボクはこれでも水の中級精霊で凄い力を秘めているからね!≫


「すごい力を秘めた中級精霊……やっぱり水に関係した名前じゃないとだよな……う~ん、水球じゃアレだし、クラゲってほど透明感はないし、前に月がこんな感じに光って見えたけど……う~ん、名前付けって難しいな……」


 首を傾げ目の前の水精霊を見つめるリンクス。対して名が上がるたびにビクリと小さく球体の体を揺らす。


「水だろ、う~ん、すい、すい、スイスイ……スイスイはどうだ?」


≪………………もう少し良いのはないかな? 頼んでおいてあれだけど、スイスイだと威厳とかなさそうに聞こえるかな……≫


「そうか? スイスイと水の中を泳ぐイメージだと思うが気に入らないのなら、水王、水姫、スイカ、衰退、水墨、水素水、液体窒素、液状化、白湯さゆ、スープ、鶏がらスープ、出汁、お味噌汁、シチュー、カレー、」


≪それだ! ボクはカレイが良い! 華麗な水の妖精! うんうん、華のように美しいボクにピッタリだよ!≫


 水に関係のありそうな単語を呟いていると水精霊は勝手に好きな名前を選びだしテンションを上げ、テンションに比例するように光を強める。その光は目を開けていることが困難なほどに強く広がり、まわりで浮遊していた精霊たちも一緒に喜んでいるのか暗い洞窟内が白くなるほどに輝きを増す。


≪あははあはは、見てくれよ! ほら、契約が成功したよ! 花のように美しいボクに相応しい青い鱗じゃないか!≫


 念話が響き目を開けるがまだ強い光に当てられぼやける視界。徐々に視界が晴れやかになり、視点が合うと目の前には宙に浮く青い鱗が見え、青に白いラインの入った美しい長い髪と微笑みを浮かべる幼さを残した人魚の姿があり目を丸めるリンクス。


≪どうだい? ボクの新しい姿は美しいかい? 君が付けてくれた華麗カレイにピッタリな姿だろう? 君では失礼だね! ボクの相方のリンクス!≫


 自身の名を口にした記憶はないが名を呼ばれたリンクスは自然と微笑みを浮かべ、手を前に出すとカレイはその手に座り同じように微笑みを浮かべる。重さはほぼ感じられないがカレイの体温を感じ、これから一緒に過ごす相方の誕生に責任をもって世話すると誓うのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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