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水遊日和  作者:
第二章 アリとダンジョン
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アリの女王たちと滝つぼ



≪ここから先が最下層になりますね~女王様方は気さくでお優しい方々なので余程の無作法でもしない限り怒ることはないと思いますが……まあ、怒っても皆さまならあまり関係ないですね~こちらが降伏して謁見してもらう立場ですし、世界最強の古龍エンシェント種さま方ですからね~≫


 やや緊張感のない念話を受けながら足を進める一行。螺旋階段のような道を進み光球が浮かび明るさが保たれた最下層はクリスタルなどの結晶石でコーディネートされた広場へと辿り着く。まわりには滝のように水が流れ地下深くに滝つぼがあるのか煩さはないが「ギギギ」と声を上げるアリたち。

 なかでも中央には巨大といって良いだろうアイアンアントクイーンが横になり楽な姿勢を取っている。

その左右にはレッドアントクイーンとマジックアントクイーンの姿があるのだがアイアンアントクイーンの大きさから比べてしまうと明らかに見劣りするサイズで、トラックと軽自動車ほどのサイズの違いに存在感が薄く感じられるのは仕方のない事だろう。


≪こちらが古龍エンシェント種の方々です。自分たちがどう足掻いても勝てない存在ですので発言にはご注意下さい……ああ、それと自分の前世と同じ国にいた方が魔王討伐を果たし、こちらのナシリスさまがご一緒に魔王を討伐されたそうです≫


「ギギギギギギギ」


 一斉に声を出すアリの女王たちに静稀しずきは両手を上下にアタフタと同じように声を上げる。


「何やら騒がしいようですが……」


「北の魔王を討った話が不味かったのかの?」


「ん? やっぱりティネントの圧に恐怖しているんじゃね?」


 ペプラの発言にジト目を向けるティネント。フリルがビクリと体を震わせナシリスの後ろへスッと移動し、リンクスは広場を見渡し飾られているクリスタルや滝を眺める。


≪ふぅ……えっと、女王様方からは冬をもたらす魔王の討伐に感謝するとのことです。お三方が一斉に喋り始めたので聞き取るのに苦労しました。内容が同じなら一斉に喋らなくても良いと思いませんか? まったく、打ち合わせでもしてくれていたら良かったのに……と、それはそれでいいとして、自分が転生する前の国について女王様方には話しましたが、皆さんにもお伝えしますね≫


 静稀が念話を使い自身がこの世界に転生する前の生前の事を語り、OL時代の話や、結婚する前に亡くなったことや、ファンタジー小説やゲームが好きで魔法を使いたいという話に脱線することもあったがティネントたちは真剣に耳を傾ける。


「ケンジも同じような事を言っておったの。ゲームの世界が現実になったようだとの」


「竜に跨り空を飛び戦いたいと私の背に乗ろうとした事を思い出しますね。私は地を司る竜だというのに、「何で飛べないんだ!」と無茶を言われたことを思い出すとボコボコにしておけばと今でも後悔が残りますね……」


「転生の話は聞いたことがあるけどよ、世界を跨いで魂が転生するとは珍しいよな。探せば似たような事例もあるのかもな」


≪そうですね。自分もそう思い生まれてくるアリたちに聞き込みをしましたが前世の記憶を持って生まれてくる個体は未だにゼロです。自分がかなりのレアケースなのでしょう≫


「ギギギギギ」


 マジックアントクイーンがリンクスを指差して声を上げ、静稀はその言葉を念話で訳し伝える。


≪えっと、リンクスさんは精霊に愛されているですか?≫


「ギギギ」


≪微細な精霊がリンクスさんに多く付いていると、リンクスさんはもしかしたら精霊魔法が使えるのです? 凄く羨ましいです! 精霊ですよ! 精霊!≫


 話を振られたリンクスは皆から離れた位置で滝の近くまで足を運んでおり、足場ギリギリの所で滝つぼが見えないかと覗き込んでいた。自身の話題になり振り返り呆れた顔をするナシリスやティネントに苦笑いを浮かべ戻ろうとしたときであった。


「えっ!?」


 驚きの声を上げるリンクスの腕には水の触手が絡みつきバランスを崩す。滝から伸びる水の触手の力は強くあっという間に滝つぼへと落下する。


「なっ! リンクス!!」


「くっ!? 警戒していましたが、ペプラ!」


「あいよ! 任せろ!」


 リンクスが落下した滝つぼへと向かおうと風を纏い走り出すペプラ。風を司るペプラの方が素早さが高くティネント指示を受けたペプラは滝つぼへとダイブし、ティネントが続いて飛び込もうとしナシリスが待ったと声を掛ける。


「待てっ! ティネントでは溺れるぞ!」


「溺れそうになったら元の姿に戻れば良いだけです!」


「そうなったら水脈がどうなるかわからん! 下手したら地盤が崩れリンクスが岩に潰され、この巣だって無事ではすまん!」


「では、どうすれば!」


 睨むようにナシリスを睨むティネント。


「お~い、リンクスの姿はねーぞー」


 滝つぼから叫ぶペプラにナシリスはアイテムボックスのスキルを使い魔石数個取り出し魔力を注ぐ。


「水の触手を操れるとしたら水の精霊。そうなれば態々人を襲って殺めるような事はあるまい。だとすればリンクスは安全と考えるべきだの。今はリンクスがどこへ流れつくかを考えるべきではないか?」


 冷静な判断力を見せるナシリスにティネントは歯を食いしばりながらも無言で頷き、そのティネントから発せられた怒りのオーラに震える女王を含めたアリたち。


≪この水脈は地上へと流れているはずですので、地上で探索しているアイアンアントたちにリンクスさんを探すよう念話を飛ばします! 川辺を探索し人族を探して下さい! これは最優先でお願いします! 繰り返します。川辺を探索し人族を探して下さい! 絶対に敵対しないようお願いします!≫


 静稀が地上へ出ているアリたちへ念話を送り、風の力を使い戻ってきたペプラはフリルに向かい叫ぶ。


「フリル! オレたちは空から探すぞ!」


「は、はい!」


≪でしたらこちらの通路を使って下さい! この滝の裏側からすぐに外へ出られます!≫


 そのまま来た道を戻ろうとしたペプラたちに念話を送り近道を教え、ペプラとフリルは頷き滝の裏へとまわり走り、ナシリスは大きく息を吐き集中すると魔力を込めた魔石を滝つぼへと落とす。魔石の輝きが消え滝つぼに飲まれると目を瞑り、更なる集中で地下水脈へと流れた魔石を探知の魔法を使い追い掛ける。


「くっ! こういった時に役に立てない自分が情けないですね……私も念話を使い絶海の古龍たちを使い探索させましょうか……金狐やエルフにも協力させた方が……」


 ぶつぶつと呟きながら最善策を探るティネント。彼女自身は強力な力を持つ古龍種であっても水の中を探索する能力は皆無であり、リンクスの母として役に立てないという気持ちに対して拳を握り締めて頭を回転させる。


「うむ、わかったぞ!」


「本当ですか!?」


「水脈は複数に別れておるの。そのまま東へ向かうものと、南に二本、西に一本だの。すまぬがペプラに念話を送り、おい! ティネント!」


 水脈の調査結果を口にしたナシリスの言葉を受け滝の裏へと全力で走るティネント。


「私は一番遠いであろう西に向かいます! 何かあれば念話で伝えなさい!」


 そう言葉を残し消えるように走り去り、呆気に取られる静稀。ナシリスは深いため息を漏らしながらも「協力してくれ……」と小さく言葉を漏らすのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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