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水遊日和  作者:
第二章 アリとダンジョン
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アリの巣探訪

 あけましておめでとうございます。 今年もよろしくお願いします。



≪この辺りから坂道になっていますから注意して下さいね~≫


 脳内に響く念話に違和感を覚えながらも足を進めるリンクスたち。洞窟内は鍾乳洞が連なりどこまでも深い谷が見え、下の方にはぼんやりとした明かりが確認できる。時折、アリたちの声が「ギギギ」と聞こえ、マジックアントが光の魔法を使い光球を打ち上げ足元を照らしてくれ特に困ることなく進む一行。


「光球を使いこなすのもそうじゃが、洞窟を手入れして巣にするとは凄いものじゃな……」


 感心したように呟く大賢者ナシリス。


≪いえいえ、居抜き物件みたいなものですから~それよりも滑りやすいので注意ですよ~本当ならエレベーターでも取り付けて最下層まで行ければよいのですけどね~≫


「エレベーター? それがあれば早く下りられるのかの?」


≪そうですね~滑車を使って自動でビューンと下に到着ですね~一度だけミスリルで滑車を作り実験しましたが上手く行かなかったですね~どうしてもアリたちの手の爪が鋭すぎてワイヤー代わりに使っていた植物の蔓が切れてしまって……鋼鉄製のワイヤーでも用意できたら違うのかもしれませんが、アリたちの手は基本的にひっかけたり切り裂いたりするためのものですから上手くいきませんね~≫


 先頭を歩く静稀の念話を頭に受けながらナシリスは蟻人アントマンの知性に驚いていた。エレベーターという仕組みは話しながら大体を理解し、井戸などで使われている滑車の理論を思い浮かべる。


「アリたちにワイヤーを引かせ下まで降ろさせるのだな」


≪個室のようにして下す感じですね~落下スピードが上がった時に強制的にブレーキが掛かるような仕組みでも開発しないとですね~見て下さい。レッドアントたちが育てているキノコの栽培場です。地上から必要な葉を持ち込みまして湿度を整え栽培しています。人が食べると毒なのでお分けできませんがレッドアントたちにはご馳走なので大人気ですね~≫


 指差す先には広間があり多くのレッドアントが葉を積み重ね、所々から顔を出している赤いキノコ。手のような形をしておりおどろおどろしく見えるが毒キノコの代名詞とされるカエンタケである。レッドアントたちの好物で猛毒なのだが耐性のあるアリたちが食べ体にその毒を取り込み、ギ酸と共に敵に吐く凶悪なスキルである。


「自分たちでキノコを育てるとはの……静稀殿が友好的でなければ多くの犠牲が出ていたかもしれんの……」


≪いえいえ、自分の命乞いに耳を傾けてくれたことこそ感謝です。レッドアントは臆病で籠城を得意としますが、どうしても体のサイズが小さく狙われやすいですからね~そうそう、ここで取れたカエンタケは下の女王の間へと運ばれます。レッドアントが食べると香り高く甘い味がしますよ。それでは先へ向かいましょう≫


 広間を後に先を進む一行。途中、アイアンアントたちが捕まえ解体する処理場や、マジックアントが魔法を覚える広い水場などを見学したのだが、どの場所でも悪臭などはなく湿度が若干高いが寒いなどということはなく快適な空間にティネントは口を開く。


「この地下空間は快適な温度に調整されているのでしょうか? それに解体場の時にも思いましたが悪臭などがないですね。何かしらの工夫があるのでしょうか?」


≪それに気が付くとは驚きです。実はプロペラと呼ばれる技術を使い空気を循環させています。他にも巣のまわりをぐるりと回る空洞を作り火の魔法を使い巣全体を温めていますね~日の魔石が連鎖的に反応させているお陰で巨大な鍾乳洞全体を温められていますね~もっと先へ行くとプロペラを回す係のアイアンアントや空気をコントロールしているマジックアントたちにも会えますが、寄りますか?≫


 後ろへ振り向き首を傾げる静稀。ティネントは興味があるのか頷き、≪では、ご案内しますね~≫と快く案内を始める静稀。二手に分かれている道に差し掛かり登り坂へと進み、次第に頬を撫でる風が強くなり遠くを指差す静稀。


「おっ、こっちにも明かりがついたな」


≪マジックアントたちが先回りをしてくれましたからね~見て下さい、っといっても風が強くてアレですね。少しだけプロペラを止めてもらいましょう≫


 静稀は早歩きで先に進みマジックアントたちへ念話を飛ばすと、ゆっくりと風が治まり巨大なプロペラが姿を現す。


「大きなものが六つもありますね……」


「全てミスリルで作られていますが理由があるのでしょうか……」


「少し曲がっているから後ろから風を受けると回転する仕組みだな。風車とかに近いのかもな」


≪その通りです! プロペラは風車と同じような作りで、風車は自然の風を受け回転という力を生みますが、プロペラは自身で回すことによって風を起こします。この機能を使い巣穴の中の空気を新鮮なものにしていますね~≫


「ギギギギ」


≪ええ、プロペラの説明をしています。この技術が広まれば色々な分野の文化が花開きますからね~自分たちだけで使うのはもったいないですからね~≫


「ギギギギギギ」


≪そうですね~技術は広めた方が便利になりますね~マジックアントさんたちは知性が高く理解力があって助かります≫


 風の魔法を使っていたマジックアントと念話と会話で話す姿に大賢者ナシリスは顔を引き攣らせる。


 シズキ殿はケンジのような高度な文明の知識を持っているのだな……もしも敵としてこれらの技術が発展しておったらと思うと恐ろしいの……念話だけでも統率の取れた動きができるというのに、文化という単語がでるとは……絶対に敵に回さず友好的にすべきだの……


 ひとり静稀の危険性に気が付いたナシリスが思案していると、ペプラとティネントがプロペラに近づき話し合う。


「これを使えば寒い日にも温かい風を寝室に送れるんじゃねーか?」


「可能かもしれませんね。この体だと寒さに弱く湯たんぽを使わないと眠れませんから便利かもしれませんね」


「湯たんぽも温かいが部屋全体が温かくなるのなら使いたいよな~」


「屋敷の改造を考えても良いかもしれません……」


≪それでしたら床暖房などもお勧めですね~家の床に熱が回るような管を通せば足が温まりますので冷え性の人には快適ですよ~≫


「確かに床が冷たいと足から冷え動きたくなくなります。是非、取り入れましょう」


「オレも賛成!」


「オレも賛成って、ペプラの家は別にあるだろう。それに冬場は滅多にこっちに来ないのに部屋だけ要求するとかよ」


 リンクスの言葉にペプラはニッカリと笑顔を作り、フリルは巨大なプロペラを前に口を開けたまま視線を向け続けている。


「シズキ殿はもしかしたら日本という場所を知っておるのかの?」


≪日本! 知ってます! 知ってますよ!! もしかして自分と同じように日本から転生した人がいるのですか!!!≫


「いや、転生ではなく勇者として呼ばれた者を知っておるのだ。ケンジというもので魔王を倒し、この絶界から近い街を治めておる。うむ、やはりケンジと同郷であったか……」


 予想が当たり顎髭に手を添えて頷くナシリス。話を聞いていたティネントは目を細め静稀へ視線を向け、リンクスも静稀に視線を向けて口を開く。


「ケンジさんが治めている街では美味しい料理や酒が新しく生み出されています。もしかしたら水あめや日本酒とかも知っていますか?」


 リンクスからの言葉を受けその身をプルプルと震わせる静稀。


≪知ってます! 知ってますよ! 水あめはでんぷん質を分解させ糖化させる甘いヤツですよね! お祭りのときに割りばしをこうグニグニさせて食べました! 日本酒はあまり好きではなかったですが成人式の日に父から勧められて飲みました! ああ、この世界にも日本人がいるのですね! 会ってみたいなぁ……≫


 叫びを上げるように念話を送り、身振り手振りを加えてテンション高く念話を送る姿が不思議と女性のように見え、違う意味で目を細め警戒するティネント。


「今度ケンジを連れてきた方が良さそうだの。水あめや蜂蜜なども街で買ってやるかの」


「ギギギギギ!? ギギギギギギ~」


 ナシリスの言葉に更にテンションを上げ、念話を忘れ喜びの声を上げる静稀なのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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