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水遊日和  作者:
第二章 アリとダンジョン
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ジャイアントアント



 巣の入口を壊しながら這い出てきた巨体に剣を構えるリンクス。フリルも龍状した右手を構える。が、思いのほかジャイアントアントの動きは遅く、音を立てて崩れる入口からでられないのではと少しだけ安堵しながら距離を詰める。


「出る前に一撃入れてくるからな。フリルはその場で待機してくれ」


 そう口にして走り出すリンクス。長く爪がある太い腕が引っ掛かっているのか巨大な頭を出しグイグイと体を左右に振り這い上がろうとするジャイアントアントに違和感を覚えるが、出て来る前に首が落とせれば勝ちが確定すると全力で距離を詰め高く飛び上がり金属音が木霊する。


「硬っ!?」


 多少のへこみを付けた頭部を視認するが、それ以上に腕が痺れ距離を取って魔方陣を構築し氷球を放出する。この程度で決着が付くとは思っていないが十個ほどの氷球がジャイアントアントの頭部へと勢いよく向かい金属音が何度も響き、手応えの無さを感じつつも体の半分ほどが巣から出ると、防衛していたアイアンアントの数匹も一緒に巣穴から現れフリルがフォローに向かう。

 先ほどとは違い手刀の形でアイアンアントを瞬殺し、勢いそのままにジャイアントアントの前足へ向かうが一歩遅く振り上げた前足がフリルを襲う。


「きゃっ!?」


 両手を龍状にして防御するがジャイアントアントの振り上げた前足はフリルには当たらず目の前に大きなクレーターを作り慌てて逃げ帰りリンクスの後ろに隠れ、リンクスは今の動きから違和感から確信へと変わり、手を閉じたり開いたりしながら痺れが早く取れるよう動かし口を開く。


「フリルは気が付いた? アレを見て」


 指差した先では完全に巣穴から登場したジャイアントアントの姿があり、まわりには数匹のアイアンアントの姿も確認できる。更に巨大なクレーターにも数匹のアイアンアントがおり、陥没した場所から這い上がりジャイアントアント目がけ歩みを進めている。


「ん? アイアンアントが増えてる?」


「ああ、増えてる。でも、それ以上にジャイアントアントの動きが不自然だ。自分が腕を上げて振り落としたとして、距離感を間違えることってあるか?」


「ん? どうだろ……この体に慣れすぎると龍に戻ったときにたまにあるかも……空から木の実を採ろうとして手が届かなかったりとか?」


 首を傾げるフリル。


「そんな感じだな。あのジャイアントアントもそれに近い状態なのかもな。例えば生まれたてだったり、急に大きくなったり、中身がアイアンアントの集合体だったり……」


「あっ! アイアンアントが腕の関節に入ったよ!」


 フリルの視線の先ではアイアンアントがジャイアントアントの腕の関節に入る姿が確認でき、ジャイアントアントの腕の関節へ視線を強める二人。関節の間には複数のギラリと光る光沢が見え、何本もの細い鉄の腕が視認でき確信する二人。


「ジャイアントアントの張りぼての中に入って多くのアイアンアントが動かしているな」


「うん、アイアンアントは巣穴から出てきたんじゃなくて、関節から落ちてきたんだ」


 二人で向かい合い視線を合わせ頷くと手の痺れも治まり剣を握り走り出すリンクス。フリルも見せかけのジャイアントアントだと知るとリンクスの後を追い龍状の両手を構える。


「ギギギギギ」


 雑音のような叫び声を上げるジャイアントアントに対してリンクスは気合を入れて大地を蹴り手首の関節目がけ横薙ぎに剣を振るう。甲高い音が響き切断することはできなかったが流れるようにその場を通り過ぎ、フリルからの手刀を同じ場所に受け転がるジャイアントアントの鋭い爪のある手。


「やった!」


 小さくガッツポーズを取るフリルに対して素早く魔方陣を展開させ水流を発動させるリンクス。バランスを崩しながらも巨大な左腕がフリルへと向かいリンクスの判断の方が早かった事もあり水流を横っ腹に受け吹き飛ばされ、その直後に通り過ぎる巨大なアリの左腕。


「フリルは気を抜くな~」


 ペプラからの気の抜けた叫びに転がりながらもリンクスの水流に助けられたのだと知り気合を入れ直すフリル。

 無理な姿勢から巨腕を振ったジャイアントアントは右腕の先がない事もあってか更にバランスを崩し左肩から地面へと倒れアイアンアントが数匹落下し、リンクスはチャンスだと魔方陣を新たに構築する。


「熱水球!」


 一瞬にして二十もの魔法陣が浮かび上がり熱を帯びた水球が出現するとジャイアントアント目がけ一斉に発射され、フリルは態勢を立て直し大地を蹴りリンクスと合流すると断末魔のような悲鳴を上げ関節が崩壊し崩れ落ちる。


「あれ? 倒した?」


 関節ごとに崩壊するジャイアントアントの姿に目をパチパチとさせ驚くフリル。リンクスも同じように驚いていたが一斉に逃げ出すアイアンアントの姿に現状を理解する。


「熱さに驚いて中にいるアイアンアントが逃げ出しているのかもな」


 叫び声を上げジャイアントアントの甲殻から逃げ出すアイアンアントは反撃をするという選択肢はないようで、蜘蛛の子を散らすように逃げ出し空洞になったジャイアントアントの甲殻が虚しく転がる。


「全部逃げ出したようだが、本当に中身がないのな……」


「あれだけ大きかったし、力も強く感じたけど呆気なかったね……」


 龍状の指先で中身のないジャイアントアントの甲殻をツンツンと突くフリル。見守っていた三人もリンクスたちと合流しそれぞれに興味深げに甲殻を確認する。


「何とも珍しいアイアンアントでしたね。巨大なジャイアントアントのような甲殻に多くのアイアンアントが入り操るとは……」


「うむ、擬態する魔物は多くおるが甲殻を使い、自身を強く見せるとはの。驚きじゃわい」


「前に赤角虎ブラッドタイガーの皮を被った狐を見たことあるけど、それよりも凄いよな。多くのアイアンアントが中に入って体を動かすとか絶対大変だろ」


「指揮を執っていた個体がいたのでしょう……これが量産されれば脅威になるかもしれませんね……」


 顎に手を当て空になった口角を見つめるティネント。


「脅威になりますかね? 熱水球を受けただけで逃げ出しましたよ」


「熱水球というのが良かったのかもしれませんね。熱さに驚いたアイアンアントが指揮から解放されたのでしょう。それにこのジャイアントアントの甲殻はすべてミスリルで作られています。もし、指揮を執る個体が魔力を上手く扱えたのなら熱を通すことはなかったでしょう」


 ティネントの言葉にリンクスは言葉を失う。ミスリルは魔力が通りやすくアイアンアントが強化魔法や属性魔法が使えるようになればそれこそ難攻不落のジャイアンアントの歓声である。動きが多少遅くとも戦車のような装甲と魔法による攻撃でもされれば人類への大きな脅威になるだろう。


(あ、あの~そろそろ降参しますので、命ばかりは助けていただければ……)


 脳内に響く声に目をパチクリとさせるフリルとリンクス。ティネントとナシリスは素早く戦闘態勢を取り、ペプラは「念話も使うのか!」と驚きの声を上げる。


(あのあの、本当に敵意とかはないので命の保証をお願いします! なんならこのミスリル甲冑はお譲りいたしますので、どうか、どうか、命ばかりはお助けを~~~)


 念話で命乞いをする相手にティネントは空になっている頭部へ視線を向け、震えながら出て来る念話の主。見た目は赤いアリなのだが四足歩行で歩き現れ、震えながら両手を合わせて頭を下げる姿に更に驚く一同なのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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