金孤(マジックフォックス)
金孤が先頭を進むようになると移動速度は一気に増し、警戒に引っ掛かると金孤族の男が真っ先に走り瞬殺し、その後をリンクスが金孤の子たちと走り指輪に収納するのを繰り返す。
「俺たちの出番は終わったみたいだな~」
「私たちよりも遥かに格上だものね……」
「ブラッドマンティスにデススパイダーを瞬殺とか……」
「それに超美形……」
「リンクスを追い掛けるのも可愛いよな~」
仕留めた魔物を回収するリンクスを追い掛ける金孤の子供たち。こちらは見た目こそ狐なのだがまだ幼さが残りサイズもラグビーボールほどで可愛らしく、アーマードベアで疲弊した精神が癒しを求めるのか後ろで隊列を組み進む者たちの心を癒していた。
「蟷螂系の魔物とか隊列を組んでいたら犠牲者がでたかもな。やっぱりライセンさんは凄いですね」
「あの程度倒せないようではこの森に住む事などできぬ。それよりも、妻の希望を頼むぞ」
「えっと、砂糖ですよね。ブラッドマンティスの魔石と素材だけでも相当な量の砂糖が買えますよ。ああ、でも、時期によっては売ってない事があるので、」
「それは困る! 族長からも砂糖の購入は念を押されている! 婆さまが怒り狂うのだけは阻止しなければならんのだ!」
「怒り狂うって……できるだけ交渉はしますので……」
「頼むぞ! 本当に頼むぞ! 優しく見えても女は甘い物の前では鬼に変わるのだ! 絶対に頼むぞ!」
リンクスの手を掴んで頭を下げるライセンの姿に肩を揺らす冒険者の『月の遠吠え』たち。コボルト族ということもあり耳がよく後ろの隊列には聞こえていないのかリンクスに対して手を握り頭を下げる姿に多少の誤解が生まれているが、そんな二人にライセンの妻であるキラリが笑みを浮かべ肩を叩く。
「誰が鬼かな?」
笑顔だが笑ってない瞳を向けられた二人は魔物よりも遥かに怖いキラリの表情に悲鳴を上げるのであった。
行よりも速いスピードでキャンプ地として使っていた場所へと戻ることができた一行は兵士と冒険者が一丸となってテントを設営し夕食の準備に取り掛かる。
本来なら冒険者が先導し安全確認を徹底して森の中を進むのだが、その安全確認を金孤族の中でも屈指の実力者が務めた事や最後尾をティネントという世界屈指の実力者が勤め、追ってくる魔物をひと睨みで退散させたのも大きいだろう。重傷者も人数に対して少なく、素直に担架で運ばれスピード重視で森の入口へと日がある内に辿り着けたのである。
「人族のチームワークは素晴らしいですね。はじめから訓練しているのでしょうか?」
「我らのような者には布の家など必要ないが、真となる棒を立て繋ぎ布を被せ簡単な家を作るスピードは参考になるな」
「私が本来の姿で寝ているだけで魔物たちは逃げ出します。リンクスやナシリスにはもっと立派な魔道具の家があるので問題はないですね」
「古龍であるティネントさまと比べてはどの生物も劣等種ですわ」
「子供たちはテントが気に入ったのかはしゃいでいるな」
建てたテントから顔を出し尻尾を振る姿に微笑みを浮かべながら見つめる女性冒険者たち。兵士長は待機していた隊と合流し、今回の森の調査の報告を済ませている。
「それにしてもティネントさまも料理をなさるのですね」
大鍋をかき混ぜながらスープを作るティネントの姿が珍しいのかキラリとライセンが不思議そうな顔を浮かべ、「その為のエプロンです」とドヤ顔を浮かべるティネント。
「前に送った木苺のジャムはティネントさんが作った物ですよ」
「あれは美味しかったです! 甘みの中に酸味と果実の香りが封じ込められお母さまも虜になっておりましたわ」
リンクスの言葉に両手を合わせて微笑むキラリ。ライセンは何やら思い出したのか顔を歪ませる。
「あの甘味は恐ろしいものだった……女性が皆で徒党を組んで……ああ、あの厄災を思い出すと……今でも恐ろしい女性たちの顔が……浮かび……」
両手で顔を押さえ蹲るライセン。どうやらティネントが作った木苺のジャムで金孤の女性たちが甘味に目覚め色々とあったのだろう。
「砂糖は必ず買って帰りますので安心して下さい。最悪は王都まで行けば必ず買えると思いますから」
地面に膝を付いていたライセンにリンクスがしゃがみ手を肩にかけ希望ある言葉を口にすると、手で覆っていた顔を見せ「頼む……」と口にする。
そのやり取りを見て大きなため息を吐きながら「最悪は王都ですか……」と呟くティネント。
「王都まで行くのは避けたいが、そろそろ料理の方はどうかの?」
「レバーの煮込みはこんなものでしょう。重傷者を優先に配って下さい」
「うむ、血を作るにはレバーが良いからの。あの嬢ちゃんや腕をくっつけた兵士には食わせんと力が出ないだろうからの。リンクスも手伝え」
そう口にしながらトレーにティネントが作ったレバーが煮込まれた具沢山のスープを乗せ歩き出すナシリス。その後を同じようにトレーに乗せて後を追うリンクス。
足を進めキャンプ地の一角にある重傷者が集められた場所に辿り着くとナシリスを見た女性の兵士は敬礼し、すぐに中に入って確認を取る。
「ラフィーラさまはお会いするそうなので、そのままお入りください」
テントと行っても軍用の大きなテントで立って生活できるほどの広さがあり、その中へと足を進めると担架に即席の足を付けたベッドから身を起こしたラフィーラとメリッサの姿があった。
「二人とも大きくなって見違えたぞ」
リンクスは持ってきたレバーのスープを女性の兵士に渡し毒見をさせ、安全が確認できたことでそれを二人へと渡す女性兵士。
「このような作法で申し訳ありません……それに助けていただき感謝致します」
受け取ったスープには手を付けずにお礼を口にするラフィーラ。血が足りないのか血色が悪く青白く見える表情には影が入っているようで、隣で同じように頭を下げるメリッサ。
「うむ、運がお前たちを生かしたのだろう。友の子の窮地が救えただけでもワシは嬉しく思ってしまったがな。ほれ、冷める前に食べるといい。レバーを使った料理は血を作るからの」
顎髭に手を当てニッカリと笑顔を作るナシリス。リンクスは気まずさを感じその場を後にしようとしたがラフィーラに声を掛けられ足を止める。
「あ、あの、リンクスさま、ですよね? ありがとうございます……リンクスさまが冒険者ギルドに収めていただいている貴重な素材や魔石は領内だけではなく王都でも活用させていただいております」
「ああ、それは自分ではなく師匠やティネントさんが狩ったものなので気にしないで下さい」
「それでもです。運んで下さるだけでも本当に助かっております」
膝に乗せたスープに顔が入るか心配しそうになるぐらいに頭を下げるラフィーラ。リンクスはこれ以上いては寛げないだろうと「自分は他の重傷者にスープを届けるので」と断りを入れてテントを去り、兵士が多く横になっているテントへとスープを届ける。
「多少癖がある味ですが薬だと思って我慢してでも食べて下さい」
「いや、美味いぞ! 遠征で温かなスープがくれるだけでもありがたいからな!」
「薄味だがコクのあるスープだ。レバーも臭くないからおかわりしたくなる味だよ!」
重傷を負いまだ顔色が悪く横になっているが食欲はあるようでホッと胸を撫で下ろすリンクス。医療班だろう兵士からもお礼の言葉を受けテントを後にするのであった。
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