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水遊日和  作者:
第二章 アリとダンジョン
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巣穴と実践



 エルフたちから手を振られたリンクスたちは先を急ぎながら東へと進み絶界の中でも木々が少ない地域へと辿り着く。まばらに生えた木々と大きな岩に付着した苔などが目立つこの地域はアイアンアントの領域であり、虫系の魔物が少なく岩に鉄が含まれているのか赤い岩が多く目立つ。


「二人とも見なさい。アレが偵察アリです。巣から離れ餌となる虫や獣を探し持ち帰るのが仕事です。アレを討伐して下さい」


 ティネントが指差す先にはメタリックな光沢を放つアイアンアントがおり、強靭な顎には体の半分ほどもある牙が目立つ。サイズ的には50センチほどだがその牙で噛み付かれれば指などは簡単に斬り落とされるだろう。


「奥に見えるのはアリの巣だよな?」


「うむ、巣の前には兵隊アリが門番をしておるの。侵入するにしても手早く処理しなければフェロモンと呼ばれる特殊な匂いを分泌し仲間を呼ぶからの」


 アリの巣と思われる洞窟の前には数匹の兵隊アリが常に首を動かし監視をし、巣からは偵察アリが数匹出撃するのが確認できる。ティネントが指差した偵察アリはこちらへと向かっており、リンクスは自身のロングソードを指輪の収納から取り出して鞘から慎重に抜くと、鞘は肩に掛ける。


「だ、大丈夫ですよね?」


 リンクスの裾をクイクイと引っ張るフリル。リンクスは後ろを向きフリルに優しく声を掛ける。


「こっちに向かってきているのは二匹ですから一匹ずつ仕留めましょう。ギ酸と呼ばれる毒を飛ばすことがあるらしいですが、フリルだったらいつものように動けば簡単に躱せるから自信を持って戦って下さい」


「は、はい……」


 自身無げに頷くフリルだが既に片手を龍へと変えており、強靭な鱗と爪の存在にどうやっても勝てるだろうと思うリンクス。


「フリルは強い! 心配なのはリンクスだからな。アイアンアントは鉄のように硬いから関節を狙って攻撃しろよ」


 元気を取り戻したペプラからの言葉に頷き向かって来るアイアンアントへ奇襲を仕掛けようと木の裏へと身を隠すリンクス。まだ裾を持っているフリルもリンクスの後ろに隠れるが龍へと戻した右手はどうやっても木からはみ出ており、手の形をグーにしたりチョキにしたりと軽いパニックである。


「落ち着いて下さい。アリの視力は低いらしいのでフリルの手は緑色をしているので木の葉に見えているはずです」


 そう声を掛けるとフリルは目をパチパチとさせ、理解できたのか「が、頑張る」と小声で返し、リンクスは体を木の後ろに隠しながら間合いを計る。こちらに向かって来るアイアンアントは縦に並び先頭をリンクス、後方をフリルが担当することを簡単なハンドサインで決めるとリンクスが深呼吸をしてから二人で頷き合う。


「よし、行くか!」


「はい、頑張る!」


 剣を構え一気にトップスピードに加速するリンクス。それに気が付いたアイアンアントは「ギギギ」と声を上げスピードを落とし、そこへ飛び出したリンクスからの上段の一撃が首へと入りあっさりと頭部が地面に転がる。


「私も!」


 フリルが飛び出し後方にいたアイアンアント目がけ走り、龍状の右腕を振り上げ真直ぐ下す。金属音と破裂音が響きちょっとしたクレーターが生まれ、その衝撃にリンクスが吹き飛ばされそうになるが身を低くして耐え、クレーターの中心には木端微塵へと変わるアイアンアントの姿があり、フリルは呆気なく散った姿に安堵する。


「フリルは警戒! リンクスは回収をしなさい! 次が来ますよ!」


 ティネントの言葉に慌てて立ち上がりフリルの一撃で吹き飛ばされたアイアンアントの頭部が転がるのを見て、巻き込まれないよう気を付けなければと心の中で注意を促し回収作業を開始し、フリルは次が来るという言葉にアワアワしながら巣穴の方へ視線を向ける。

 ぞろぞろとアイアンアントが巣から出て来る姿に顔を青くするフリル。


「あれだけの衝撃なら地面深くにあるアイアンアントの巣にも響くからの。様子を見に出て来るのは自然だの」


「拳で潰すんじゃなくて爪を使って頭を落とすべきだったな。毎回地面に穴を開けてちゃ地の精霊から嫌われるぞ」


「少し数が多そうですね。私も手伝いましょうか……」


 ナシリスとペプラからの指導にしょんぼりと肩を落とすフリル。リンクスはクレーターの中で息絶えたアイアンアントの甲殻や砕け散った魔石を指輪の収納機能を使い回収すると「次があるから気を落とすなよ。練習して成功させればいいだろ」と声を掛けると、顔を上げて涙を薄っすら浮かべながらも大きな声で「うん!」と頷く。


 遠目に見えていた巣からは大量のアイアンアントたちが姿を現しリンクスたちに気が付くと一斉に向かい、あまりの数の多さに顔を引き攣らせるリンクス。が、そのアイアンアントたちはすぐに散り散りに逃げ出す。


「ちょっと威嚇しただけですべて逃げ出すとか気合が足りませんね……」


「気合というよりは本能だの。ティネントに睨まれれば大抵の生物はそうなるの」


「オレだって逃げ出すぜ。相手は選びたいもんだろ」


 ナシリスとペプラからの言葉に眉間に深い皺を作るティネント。逃げたアイアンアントたちは巣へと帰らずに真逆に走り北へと向かう。

 アイアンアントの他にも岩に擬態していた亀の魔物やナナフシのように木に擬態していた魔物なども擬態を解き逃走する姿にフリルはキラキラと尊敬の眼差しを向け、リンクスはどうしたものかと思いながらもこの先には人族や亜人の村などもないためそれほど心配していないが絶界に多少混乱するかもと思案しながら状況を確認する。


「出てきたアイアンアントは逃げましたが地下の巣にはまだいっぱいいますよね?」


「うむ、一度ですべてのアイアンアントが出て来ることはまずないの。防衛の戦力を残すのが普通じゃの」


「入り口が狭いが掘れば広いことが多いぞ。アイアンアントは鉄も食べるが魔物だって食べるから貯蔵する場所とか作ってダンジョンに近い巣とかも見たことあるしな」


「この辺りの地下は絶界から流れる水で浸食され空洞が多いところが多いです。ミスリルの鉱脈は期待できなくともアイアンアントやクイーンアントの甲殻や魔石は使い道がありますから根こそぎ採取してしまいましょう」


「根こそぎ採取……頑張らないとですね……」


 龍状の手を握り締めるフリルはやる気を出すがリンクスが肩を軽く叩き声を掛ける。


「フリルは頑張り過ぎないようにな。さっきペプラも言ったが爪をアイアンアントの首に当てれば倒せるからな」


 その言葉にコクコクと頷くフリル。が、地面が揺れ巣の入口からは巨大なアイアンアントが顔を出し、顔を青くする二人。


「ジャイアントアイアンアントだの」


「おお、でかいな! あれならフリルの全力も耐えそうだ!」


「丁度良い相手かもしれませんね。二人で協力して仕留めなさい」


 ティネントの発言に鬼かとツッコミを入れたくなるが、隣でガクガクと震えるフリルにリンクスは優しく肩を寄せて口を開く。


「フリル落ち着け、ジャイアントだろうが弱点は一緒だからな。寧ろ大きければ関節も大きくて狙いやすいからな。俺が先に出て注意を反らすからフリルは足の関節を狙ってくれ。危ないと思ったら古龍の姿になってもいいからな」


「は、はい……えっ!? でも、リンクスは大丈夫なの? あんなに大きなアリの攻撃じゃ一撃でも受けたら……」


「そこは任せろ! これでもペプラから逃げ切った事もあるからな!」


 ニッと笑って答えるリンクスにフリルは笑みを浮かべ、気合を入れてこちらに向かって来るジャイアントアイアンアントを迎え打つ準備をするのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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