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水遊日和  作者:
第二章 アリとダンジョン
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エルフの乳母



 次第に元気を取り戻すペプラの口数が増え若干のウザさを感じながらも、背中に背負うエルサリーサと会話している事もあってかそのまま放置で歩みを進める。

 エルフたちが先導しながら魔物に警戒し到着したエルフの村は壮大な世界樹を中心とし、まわりの木々の上に作られたツリーハウスが印象的であり、下には大きな池や畑が目に付く。


「ティネントさまが来られたぞ!」


「敵意はないので安心してくれ!」


「エルサリーサを保護してくれたぞ!」


 先導していたエルフたちが叫ぶとツリーハウスから顔を出すエルフたち。誰もがホッとして表情を浮かべている。


「こんな遠くまでティネントさんの威嚇が届くのか……凄いな……」


 改めてティネントの凄さを感じていると背負っているエルサリーサが口を開く。


「ゾクッとしたら体が動かなくなってすごく怖かったの……」


「古龍の威嚇だからな~そりゃ怖いよな~」


 ペプラが優しくエルサリーサの頭を撫でると目を細め、それを耳に入れたティネントはペプラへとジト目を送る。


「まあ、なんにしても無事に辿り着いたから良かったの。家はどこかの?」


「あの家になります」


 一件のツリーハウスを指差すエルフ。ツリーハウスには縄梯子がぶら下がっておりそこを登るのかと思っていると背中から重さがなくなり、ペプラが抱き上げ軽くしゃがむと勢いよく飛び上がり悲鳴が木霊する。


「ひゃわぁぁぁぁぁぁ」


 エルサリーサの悲鳴にエルフたちの視線が集まるがツリーハウスの床に着地すると歓声上がる。特に子供たちからのキラキラした視線を受けたペプラはドヤ顔であった。



「ペプラお姉ちゃんすごい! ぶわーって! ぶわーって! すごいの!」


「あはははは、喜んでくれたのなら良かったぜ。でも、お母さんが怒っているからちゃんと叱られろよ~」


 ツリーハウスの玄関には熱を出し看病をしているエルサリーサの母親が鬼の形相を浮かべており、保護されたという声と背中に背負われたエルサリーサの姿に母親として色々と察したのだろう。


「この度は娘が迷惑を掛け申し訳ありません」


 鬼の形相を戻しペプラに頭を下げる母親。ペプラは「気にするな」と一言だけ口にするとリンクスの前へと降り立ち、見方を失ったエルサリーサは顔色を青く変え母親に怒られるのであった。






「アイアンアントの巣の調査に来たのですか……ここより東は虫の魔物が多く危険でしたが、最近はその魔物たちが減り代わりに植物系の魔物が増えております。恐らくはアイアンアントが増え勢力圏が変わりつつあるのかもしれませんな」


 エルサリーサを送り届けたリンクスたちは行けの前の広場でお茶をしながらエルフの長老から話を聞いていた。元から親交のあるエルフたちは気さくにリンクスたちを迎え入れ育てている果実や蜂蜜を使ったお茶を入れ出迎え、長老というに若く見える中年エルフがイケメンスマイルを浮かべている。


「冒険者ギルドからはアイアンアントにミスリルが含まれていたので鉱脈があるかも知れないと調査を頼まれたのですが、それはどうでもよく、アイアンアント相手にリンクスとフリルがどこまで戦えるかですね。ミスリルの鉱脈があればあったで冒険者たちがこの絶界で採掘し持ち帰れるとは思えませんし、護衛の依頼をされても私たちは断るのでエルフたちには迷惑を掛けません」


 ティネントの言葉に目を見開く村長エルフ。ミスリルはエルフたちからしてもお宝であり、魔法を通しやすいという特性はエルフからしても自分たちの力として有効である。ナイフや矢の素材として確保したいのだろう。


「アイアンアントを相手にするようになるまで育ったのですか……リンクスも大きくなりましたね」


 そう声を掛けるのは村長の妻でリンクスを卵の時から知る人物である。卵の状態で十五年過し、卵から孵り十五年で今の姿になったリンクス。赤ん坊時代をティネントとナシリスから相談され身の回りの世話の仕方を教えた人物でもある。


「人とは本当に早く大きくなり驚きました。あの頃はエルーラがいてくれて本当に助かりました」


「私も若返った気持ちになれましたし、子供も生まれたのですよ」


 そう口にしたエルーラが視線をツリーハウスに向けると、まだ幼さの残る顔立ちの少年が窓から顔を出している。


「400才も離れた弟ができたと娘も喜んでいます」


 エルフの寿命は長く平均して千年は生き、世界樹の果実を食べ続けることでその寿命は更に増える。この集落でも千歳越えのエルフは数名存在し、この長老もその一人である。


「400才も年が離れた子がいるとは驚くの。人族ではまずあり得んからの」


「古龍だと当たり前だな。オレとフリルはもっと離れているしな」


 コクコクと頭を縦に振るフリル。古龍種はエルフどころではなく永遠を生きる種であり自身の年齢を正確に理解しているものも少なく、歳の差が千年あっても不思議ない生物なのだろう。ただ、それだけ長く生きる事もあってか、生まれる数も少ないのが現状である。


「で、リンクスは池に住む魚が気になるのか?」


 お茶をしているすぐ近くにある池を見つめるリンクスの態度にペプラが口を開くと。こちらも黙って頷き視線を池へと戻す。


「ここは世界樹さまの影響もあり魔物が少ないので大きな魚や魔魚などはいないな。上流にも強力な結界を張り侵入を防いでいるのでマスなどを網の罠で獲るが興味があるかい?」


 優しく微笑むイケメン村長にリンクスは視線を戻して顔を左右に振り否定する。


「いえ、罠よりも釣りが趣味で……できれば釣りがしたいなぁと……」


 ティネントへ向け視線を移すリンクス。ティネントはそんな無表情でお茶を口にしガックリと肩を落とすリンクス。


「調査が終わったら遊びに来るといい。元気な姿を妻に見せてくれれば喜ぶからな」


「ふふ、そうですね。リンクスが赤ちゃんの頃を思い出します」


「うむ、あの頃は本当に世話になったからの。今のリンクスがあるのはエルーラのお陰じゃからの」


「はい、覚えてはいませんがティネントさんからもその話は聞いています。本当にありがとうございます」


 座りながらだが頭を丁寧に下げるリンクス。ティネントも感謝しているのか一緒に頭を下げる。

当時のティネントは子育てした事があっても古龍種の子育てであり、人族の赤子と比べれば抵抗力は段違いで、おむつなどの文化もなく、ナシリスの方がまだ常識的であった程である。

 タイミング良く挨拶に来たエルフたちが子育てのフォローを申し出て、エルーラが適任だと乳が出るエルフの女性と共にリンクスのお世話役に就いたのである。


「いいのよ。元気に育ってくれたのが嬉しいもの。困ったことがあったら力になるから言ってね。でも、ティネントさまの方が頼りになるかしら」


「ティネントさまなら大抵の事は問題なく収めてくれるからな」


 村長夫婦が笑い合うが先ほどティネントの威圧で恐怖状態になり襲われたエルサリーサを思い出すリンクス。ティネントも思い当たる節があるのか肩頬をピクピクとさせ、ペプラはニンマリと口角を上げる。


「あまり長居しては迷惑になりますよ。ささ、そろそろ向かいましょう」


 気まずさを感じたティネントの言葉に席を立つ一同。アイアンアントの巣へ向かうのであった。







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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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