表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水遊日和  作者:
第二章 アリとダンジョン
57/108

保護したエルフとキラキラ



「遅いですよ。私が間に合わなければ子のエルフの少女が飛びサソリに食べられていましたからね」


「怪我をしておったが毒の治療と傷は塞いだからの。リンクスは温かい水で濡らした布を用意せい」


 リンクスが追いついた時には飛びサソリというサソリにトンボの羽を付けたような魔物は討伐されており、大賢者ナシリスの横にはエルフだろう耳の長い少女が横たわっている。いている衣服は所々破れて血が付いているが顔色が良く、意識はあるようで涙を流しながらもお礼を口にしている。


「えっと、温水球。後は布を出して、濡らして、大丈夫ですか?」


「うん……ありがと……」


 魔方陣が浮かび水球を放出させながら操作し、指輪の収納から取り出した清潔な布を濡らすと横になっている少女に手渡すリンクス。受け取った少女はお礼を言いながら受け取り涙を拭う。


「フリルたちも来たようですね。二日酔いならば早々に状態異常回復ポーションを飲めば良いのです」


 フリルに背中を押され追いついた青い顔したペプラにジト目を向けるティネント。その視線にフリルがブルリと身を震わせ、当人は気が付いていないのかそれとも気が付かないふりをしているのか気にしていないのか、マイペースな足取りで浮かんでいる温水球に顔を突っ込み飲み始める。


「飛びサソリが五匹も出るとは運がないの。ティネントが間に合って良かったの」


「飛びサソリの毒は気付け薬になります。針も加工すれば色々と使えますから回収して下さいね」


 まだ震えるエルフの少女の横で頷くリンクスは立ち上がりバラバラになった飛びサソリの魔石や毒腺や針を探しに動き出す。

 飛びサソリはこの辺りに生息する魔物でそれほど強くはないが群れる習性があり、攻撃方法も毒針を飛ばすという危険な攻撃方法を取り、更には威嚇に対しての耐性が高くティネントの威嚇もある程度は無効化したのだろう。その結果としてエルフの少女が恐怖状態になり、そこを飛びサソリに襲われたのである。


「無事で良かったが仲間のエルフたちとは一緒に行動しておらんかったのかの?」


「うん……お父さんが怪我をして熱が出たから、熱さましに効く薬草を探しに森に入ったの……そしたら急に体が震えて、足が動かなくて、怖くて怖くて、うぇ~ん」


 状況を口にしながら最後には泣き出すエルフの少女。原形を留めていない飛びサソリから目的の素材を探しながら、リンクスはこれってティネントさんの威嚇がなければこの少女は逃げられたのでは? と思案する。


「来たようですね。エルフがこちらに向かってきますよ」


 ティネントの警戒範囲にエルフの集団が入ったと口にすると、泣いていたエルフの少女は顔を上げる。


「ティネントさま、ナシリスさま、リンクスお兄ちゃん、助けてくれてありがとう……」


 仲間の話が出たことでピタリと泣き止み、新たにお礼を口にしてひとりひとりに視線を向けて頭を下げるエルフの少女。絶界のエルフの里はもうすぐ近くでありティネントの威嚇に気が付いたのか恐怖心を押さえてこちらに向かって来ているのだろう。


 数分ほど待機していると木々が揺れ、次の瞬間には一列に現れ頭を下げるエルフたち。その光景にポカンと口を開ける少女とリンクス。


「ティネントさま、どうか怒りをお静め下さい! 我らに非があるのであればお教え長えないでしょうか!」


 五名で現れたエルフは膝を震わせながら頭を下げ、リーダーの男がそう叫ぶと吹き出して笑い出すナシリス。ペプラはまだ二日酔いから回復していないのか叫ぶ声に眉間に皺を寄せ、フリルは突然現れ頭を下げるエルフたちに恐怖したのかペプラの背中へと隠れ様子を窺う。


「私は怒ってなどいません。それよりもエルフを保護したのですが……」


 威圧のスキルは既に解除しておりリンクスは危険がないよう辺りを警戒し、顔を上げたエルフたちは安堵の表情を浮かべるが少女の存在に気が付くとお礼を述べながら保護した少女へと急いで足を向ける。


「エルサリーサ! なぜひとりで森に入った!」


「お前の父は熱で倒れているだろう!」


「どうして森にいる! まだ熱が高く父の看病をしているはずだろう!」


「ティネントさま、エルサリーサを保護していただき感謝します!」


 一斉に少女へ詰め寄るエルフたち。保護したエルサリーサはフルフルと震え、横にいたリンクスは口を開く。


「あの、怖がっているので優しくしてあげて下さい。先ほど飛びサソリに襲われたばかりで、大人に詰め寄られては話しづらいですよ」


 震えるエルサリーサはリンクスからの助け舟にスッと背中へ隠れ、エルフの大人たちは申し訳なさそうな表情へと変わる。


「確かにそうだな……」


「だが、ひとりで森を出たのはダメだ。そうでなくとも最近は魔物が活発に動いていると注意したばかりだろう」


「その調査でお前の父であるエルサルが……」


 詰め寄っていたエルフたちがリンクスの言葉に多少なり反省したのか頭を下げ、各々口を開く。


「魔物が活発化しているのですか?」


「はい、ここひと月ほど虫系の魔物やウサギにイノシシにオオカミどもが縄張り争いをしているのか……村には結界もあり入ってくる事はないのですが、多くの魔物と遭遇することが多くなっております」


「この娘の父であるエルサルも調査の為に毒を受け……」


「毒といってもそれ程強力なものではなく、熱がそれなりに出ますが熱が出きってからではないと体内に胞子が残り危険なため解熱剤が使えず……」


「胞子ですか? それはキノコ系の魔物?」


 リンクスが首を傾げるとエルフたちは一斉に首を横に振る。


「魔物ではなく毒キノコです」


「パパが調査でお土産に取ってきたのが毒キノコだったの。それを食べた数人が毒にあたって熱を出してるの……」


 背中から聞こえるエルサリーサの声にずっこけそうになるが、フルフルと震える小さな手を腰に感じるリンクスはティネントへ視線を向ける。


「では、この子が森にいる理由は解熱剤が村にないと思い採取に来たのですか?」


 ティネントの問いかけにコクリ頷くエルサリーサ。


「あの毒は熱が上がり切っていないと解熱剤が飲めないだろう」


「誰もエルサリーサに説明していないのか?」


「医療組は何をやっているのだ!」


「何をやっているのだではありません。皆で反省なさい。エルフの村はすぐそこですから送り届けます。リンクスはその子を背負って運びなさい」


 ティネントの言葉にエルフたちは気まずそうな表情を浮かべ、リンクスはしゃがむとエルサリーサはピョンと背中に飛び付き落ちないように手を添える。その光景にティネントとナシリスは表情を緩め、ペプラの背中から様子を窺っていたフリルは目をパチパチとさせ可愛らしく笑うエルサリーサに釣られ笑顔へと変わる。


「お兄ちゃんありがとう。えへへ……」


 背中からお礼と照れ笑いを受けたリンクスは辺りを警戒しながらも元気が出て来たことに安堵しエルフたちと一緒に村へと足を進める。


 エルフの村は絶界の東側にあり世界樹と呼ばれる巨大な木の根元に作られ、多くの果実や薬に使える草木を育て生活をしている。森では採取できない塩や小麦などは冒険者として出稼ぎをする者たちが買い届けている。


「お兄ちゃんはキラキラだね。精霊さんが集まってる」


「集まってる? 最近精霊がよく見えるようになったが、キラキラ?」


「うん、小さな精霊さんはキラキラなの。小さな精霊さんが集まるとキラキラなの」


「へぇ~リンクスには微細な精霊が集まっているんだな。オレには小さいのは見えないが精霊にモテて良かったな」


 十五分ほど歩き体調も回復してきたペプラからの言葉に複雑そうな表情を浮かべるリンクスなのであった。








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ