夕食はかば焼きを
「豪華な夕食じゃの」
リビングのテーブルには多くの料理が並び、なかでも巨大なナマズのかば焼きを前に喜ぶナシリス。ペプラも焦げた醤油の香りにグルグルとお腹を鳴らしている。
「ナマズのカラアゲも揚がりましたよ~」
ニコニコと笑みを浮かべ山盛りのカラアゲを運ぶフリル。ティネントから料理を教わりご機嫌に運ぶ姿は看板娘といえるだろう。
「こっちはナマズの味噌汁だそうです」
鍋を運び椀に葉野菜とナマズを煮た味噌仕立てのスープを注ぐリンクス。ティネントが領主館で教わった料理をこちらで再現して振舞い、ナシリスは日本酒を取り出し、ペプラは素早くカップを用意したカップの横に自身で用意したカップを置いて笑みを向ける。
「まったくペプラはちゃっかりしておるの」
「へへへ、ちゃっかりでもしっかりでもいいからオレにも頼む」
「私はこちらを開けましょうか」
ウイスキーの瓶を開封するティネント。ペプラは一瞬迷う素振りをしながらも日本酒が入れられたカップを手に取り素早く口に入れ夕食が始まる。
「ぷはっ、次はウイスキーだな」
「フリルはまだお酒はダメですね。リンクスはどうしますか?」
「明日はアリの調査だろ。オレはやめておくから皆は飲み過ぎるなよ。あむあむ……おお、街で食べたカラアゲよりも美味しいな!」
「本当ですか! 頑張った甲斐がありますね!」
リンクスからの誉め言葉を素直に喜ぶフリル。ティネントに教わりながらだがフリルも確りと手伝い、まな板事魚をカットしたり、温めた油へ勢いよく魚を入れ小火を起こしたり、砂糖と塩をしっかりと間違えたりと色々あったがティネントが注意し大事にはならず料理はテーブルに並んでいる。
「これも美味い! 匂いが香ばしいから気になってたけど絶品だぜ!」
「うむ、ナマズの美味い脂と甘くてしょっぱい味付けが良いの。米と一緒に食べても合いそうだの」
「本来はウナギで作る料理ですがナマズでも美味しくできましたね」
ティネントもナマズのかば焼きを口に入れその味に満足したのか小さく何度も頷く。
「本当に美味しいですね。解体が大変だったし料理も初めてで迷惑を掛けてしまいましたが、こんなにも美味しい料理が作れたことが嬉しいです」
「確かに大変でしたね……ですが、料理は場数。料理の回数だけ腕が上がると思いなさい。これは料理以外もそうですが経験は貴女の力です」
「はい……頑張ります!」
ティネントからの言葉に背中を押されたフリルはこれからも料理を頑張ろうと決意する。
フリルのような古龍は料理せずとも空気中の魔力を数だけで満たされるのだが、ティネントの料理やグンマー領で食べた料理に感心を持ち自身で料理がしたいとティネントに教えを乞いていた。その結果、初めて作った料理を皆から褒められ、これからも料理を続けて行くだろう。
「酒にも良く合って美味いな。フリルは良い嫁になりそうだの」
「オレの妹だからな。良い嫁になるに決まってるぜ」
「えへへ、リンクスも美味しい?」
照れながら視線を送ると大口を開けナマズのカラアゲを口にしながら頷くリンクス。
「やった……」
小声だが小さなガッツポーズを取るフリル。リンクスは咀嚼して果実水で流し込むとフリルへ視線を向けて口を開く。
「まわりがちゃんとカリカリで肉汁が溢れて美味いぞ。下味も確りついて本当に美味い。生臭さがないのもいいな」
「当たり前です。私が指導したのですから」
ドヤ顔をするティネントと、なぜかドヤ顔をするペプラ。フリルは笑顔を咲かせて自身も大ぶりのカラアゲをフォークで刺して口に運ぶ。
「ナマズは生息場所にもよるが泥臭さがあるからの」
「へぇ~これはまったく泥臭くないぞ。良くやったフリル!」
「皮を剥くときにお湯を掛けると生臭さが減って皮が剥きやすくなるとティネントさまに教わりました」
「この池は定期的にそこに溜まる泥を精霊にお願いして流しているので泥臭さはあまりありませんが、確りと皮を剥くことで泥臭さはある程度減らせます。それにコックから日本酒と生姜を使えば臭みが抑えられると聞き下味に使っています。その効果もあるのでしょう」
「うむ、カラアゲからは生姜の香りがするの。それに日本酒とも相性も最高だの」
「こっちの焦げ焼きも美味いぜ」
「焦げ焼きではなくかば焼きです」
ペプラの間違いを訂正するティネント。ナマズのかば焼きが多少焦げている事もあってか、連想し間違えて覚えたのだろう。
「なあなあ、かば焼きって、本来はカバをこうやって串に刺して焼くのか?」
「さあ、そこまでは聞きませんでしたね。カバは食べたことがありませんが、ペプラはあるのですか?」
「ないな……見た目もまん丸だし意外と美味いかもな。今度狩って来ようか?」
「見た目からして脂肪が多そうです。それよりも明日はアリの巣の調査ですからあまり飲み過ぎないようにしなさい。二日酔いで動けない場合は置いて行きますからね」
ウイスキーの瓶に手を掛けたペプラへジト目を向けるティネント。その横でナシリスは日本酒をカップに注いでいたが半分ほどで手を止める。
「うむ、アリは数が多く、アイアンアントとなれば危険性もあるからの。地面から急に現れたり罠のように待ち構えたり毒を吐く個体もおるからの。このぐらいにしておくかの」
「でもアリだぜ? 鉄で固めようが爪でサクッと片付くだろ」
指をクイクイとさせるペプラ。
「目的はアリの殲滅ではなく調査です。ミスリルの鉱脈があるかどうか調べるだけですから内部まで足を運ぶ必要があります。アリの巣は中が狭く本来の姿で戦う事はできませんからね」
「そう考えると危険そうですね……」
フリルが呟きリンクスが頷く。
「ですからリンクスの剣の修行に持ってこいです」
「は!?」
ティネントの発言に思わず声を上げるリンクス。ペプラは自身の足をバシバシと叩き笑いナシリスもニヤニヤと口角を上げる。
「いやいや、狭い巣の中で剣を振り回せないだろ」
「だから修行になるのです。もちろん魔法も使って構いませんし、そのフォローはフリルがしなさい」
「ふぇ!? わ、私がリンクスさんのフォローですか!?」
急に白羽の矢が刺さり立ち上がり叫ぶフリル。
「ええ、貴女も古龍として未熟です。リンクスと一緒にアリ退治をして見るのも良いでしょう」
「で、ですが、私はフォローできるほど強くは……」
「それは分かっています。二人で協力して戦えば良いのです。人間たちは協力することで己に足りない力を補い戦い白の魔王ですら討伐したのです。人間にできて古龍にできない事などないのですよ」
「そ、それはそうですが……」
「俺も頑張るからフリル、力を貸してくれ」
リンクスも席を立ちフリルと向かい合い声を掛け、フリルはリンクスの瞳を見つめ静かに頷く。
「フリルは手や足だけを元の姿に戻して戦えば良いでしょう。部分的に体を戻すのはこの姿の時に有効です。自然と空気を吸うように扱えることができれば貴女の武器にもなりましょう」
満足気に話し終えたティネントは日本酒を入れたカップを口に運び、リンクスとフリルは腰を下ろす。
「二人で協力して頑張ろうな」
「はい……頑張ります……」
ニッカリと笑みを浮かべるリンクスにフリルも笑顔を浮かべるのであった。
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