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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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グンマー領とウコッケイの小屋



「お父さま! 私もダンジョンの探索に加えていただきたいです!」


 屋敷に戻ったラフィーラからのお願いに顔を歪める領主ケンジ。神から直接受けた神託なので疑うことなく調査を決め、冒険者ギルドで話し合いが行われグンマー領で活躍する冒険者に指名依頼を出したのだが、その日のうちに鼻息荒く参加を希望するラフィーラ。


「それは許可できないのは理解しているだろうに……はぁ……俺だって行きたいが書類が溜まっているんだ。ラフィーラはまだダンジョンに潜った事がないだろう」


「ですから、」


「ですからじゃない! だからこそ生まれたてのダンジョンの調査はベテランに任せるに決まっているだろう。どんな危険が待っているかわからんものあるが、冒険者に花を持たせるのも必要な事だからな。ラフィーラはつい先日、絶界に入り悔しい思いをして力不足だと認識できただろう」


 最初は厳しく否定したがゆっくりと優しい口調へと変わるケンジ。領主として、勇者として、父としての言葉に反論することなく頷くラフィーラ。


「はぁ……俺もダンジョンで力いっぱい戦いたかったがなぁ……はぁ……リンクスはいいよな……今頃はアイアンアントの巣の攻略に向かって楽しんでいるだろうし、ナシリスも暴れ回っているだろうな……はぁ……」


 自身が覚えた剣術なり魔法を思う存分使い戦うことができるだろう二人を羨むケンジ。ラフィーラもコクリと頷きそれができたのならどれだけ楽しいだろうと思案する脳筋親子。ラフィーラの後ろで佇むメリッサもアイアンアントとの戦闘を脳内で思案し口角が少しだけ上がり、ラフィーラと共にアイアンアントとの戦闘を妄想する。


「ダンジョンよりも早く金孤ちゃんたちと会いたいです……次はいつ来てくれますか?」


 午前中に別れた幼い金孤たちを思い出しラフテラに抱き付くラフォーレ。ラフテラはそんな甘えん坊を優しく抱き上げ撫でながら口を開く。


「冒険者ギルドに任せているオークションが開かれるまでひと月あるからその後ね。ふた月後には会えるかもしれないわね。もしかしたら、もっと早いかもしれないわよ」


「ううう、早く会いたいです……」


 ギュッと抱き付くラフォーレを優しく抱き返すと眠気が勝ったのかスヤスヤと寝息を立て、そのまま立ち上がりベッドのある寝室へと足を向けるラフテラ。メイドが先を進みドアを開け廊下を進み、それを見送ったケンジは口を開く。


「ラフィーラに何かあったらラフテラやラフォーレが悲しむ事も頭に入れておきなさい。もちろんパパだって悲しくて書類仕事をサボるかもしれないぞ」


 その言葉にラフィーラは笑い、ケンジも一緒になって笑い和やかな空気へと変わるサロン。


「そういえば、リンクスさまと戦ってどうでしたか? 暗く距離がありましたが私もリンクスさまの剣技を目にできましたが素人とは思えない腕をしていました」


「ああ、そうだな。あれで素人だとしたら恐ろしいが……アレックスの剣を受け取ってくれて良かったよ……剣筋もアレックスに似ていたし、絶界で鍛えた足腰も立派だったな。努力次第で俺だって越えられるだろうな……」


 手放しでほめるケンジにラフィーラは悔しさを覚えるが、同時にライバルの誕生を喜び脳内でふと再生されるお姫様抱っこ。顔がみるみる赤く変わり耳まで赤くなるとケンジがジト目を向ける。


「もしかしてリンクスに惚れたか? なら縁談を進めるが」


「なっ!? そうではありません! まだ、まだ大丈夫です!!!」


 そう叫び部屋から飛び出すラフィーラ。一礼してメイドのメリッサが後に続き、ケンジは「まだか……」と呟き執事のポールへと視線を向ける。


「脈はあるかと思いますが、お嬢さまは恥ずかしがり屋なのか、奥手なのか、フォローが必要ですな」


「ああ、そうだな……娘を取られるかもと思うと悔しさもあるが、リンクスは創造の女神シュレインさまに祝福された存在であり、親友の魂を持つからな……少しだけだが楽しみだと感じている自分がいるよ……」


「それも親心でしょう……私もメリッサが嫁に行く時は、私よりも強い者にしかやる心算はありません」


 それだけ言うと口を瞑り姿勢を正す執事のポール。


「俺もだよ……どちらにしてもリンクスには今よりも強くなってもらわないとな……」


 リンクスへ期待するケンジはサロンから執務室へと足を向けるのであった。






 ウコッケイが眠りから覚め辺りを見渡すと見慣れぬ風景に戸惑うも、目の前に置かれたいつもの餌に首を傾げつつ口に運ぶ。


「コケー」


 その味に満足したのか大声で鳴き寝ていたウコッケイたちも目を覚まし同じように餌を啄む。その姿を見たティネントは無言で頷き満足気にその場を後にする。


 育てられているウコッケイはケンジが品種改良を行い卵を良く生みながらもサイズが小さいコカトリスである。石化の魔眼などは使えないがコカトリスである証拠の逞しい尻尾があり、猪程度なら問題なく排除できる実力がある。

 そんなコカトリスたちは餌を食べ終え新しい環境を視界に入れると歩き出し、自分がこれから住む場所を探す。小さな丘の横には小屋らしいものがあり、その屋根は長く日陰ができており、暑い日にはそこで休めるなと考えているかどうかは分からないが歩みを進める。


「なあ、なあ、あれコカトリスだよな?」


「コカトリスですか? ケンジさんはウコッケイといっていましたけど」


「小さいがコカトリスだと思うぞ?」


 首を傾げながらウコッケイを見つめながら談笑するペプラとリンクス。その横にはフリルの姿もありペプラと同じように首を傾げている。


「コカトリスはもっと大きい種です。亜種なのかわかりませんが半分以下のサイズですね……」


「だよな。うちの火山にも生息していたが三倍は大きかったもんな!」


「三倍も大きかったら飼うのが大変そうですね。このサイズで良かったですよ」


「だな! 早く卵を産んでくれよ~ティネントが美味しい料理にしてくれるからな~」


「お姉さま、あまりその様な事をいうのはどうかど……」


「だって、ティネントの奴は卵を産んだら美味しくて冷たいお菓子にしてくれるって約束したぞ。オレはティネントが作る料理が一番だと思っているが、甘味や酒は世界一だ!」


「それってどっちも一番じゃないか?」


 リンクスのツッコミに顎に手を当てて首を傾げるペプラ。


「確かに……一番だな! リンクスは幸せ者だぞ~世界一の料理を毎日食べられるからな!」


「ペプラだって世界一の料理をふらっと来て味わっているだろう」


「ああ、そうだよな! 知らぬ間に幸せだったぜ~フリルも良かったな」


 話を急に振られたフリルはいつもの様に聞き流し、檻で囲まれた敷地をグルグルとまわるウコッケイたちを見つめる。


「コカトリスはあまり飛びませんがウコッケイもそうなのでしょうか?」


 小さな疑問が浮かび口にするフリル。すると答えは後ろから聞こえ振り向くとナシリスがゆっくりと足を進めフリルの隣に立つ。


「ウコッケイは飛ばんの。ウコッケイはコカトリスの亜種と走り鳥との子だそうだの。たまたま見つけたのをテイムしたらしいの。次世代にはコカトリスと掛け合わせ小さな種を増やしたと聞いたが……壮観な顔つきじゃな」


 赤いトサカには貫禄がありサイズも鶏よりも一回り大きく太い尻尾を鞭のようにしならせる姿に頷く一同。


「俺はまたすき焼きが食べたいが……」


「あれは卵がなくても美味かったぞ」


「ですが、卵につけて食べるのも美味しかったですね……」


「うむ、あれは美味かったの……日本酒と一緒に口の中で溶ける肉がまた食べたいの……」


 各々ですき焼きの味を思い出しながらウコッケイを見つめるのであった。






 これにて第一章は終了です。次章はアリの巣調査とダンジョン調査の予定です。

 少し日が開くかもしれませんが読んでいただけたら嬉しいです。

 

 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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