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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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助っ人登場



 死後硬直はしていなかったがイマイチな味のアーマードベアの肉を焼き食した一行は日が落ちる前に少しでも距離を稼ぐべく足を進める。重症を負った者は木の枝を使い布で巻いた即席の担架に乗せ兵士や冒険者などが運び、ラフィーラとメリッサも同様に担架に乗せられ運ばれている。

 最初こそ拒否したが、大賢者と自称するナシリスとティネントからの「休むのも戦士の務め、次に動ける時に活躍しなさい」という言葉と、「弱いのだから大人しく守られていろ」という厳しい言葉に従うしかなかったのだろう。


「なあなあ、『水遊び』はパーティーを組まないのかよ。もしひとりで限界を感じたら俺たちの所に来いよ」


「そういうのはいいです。自分が冒険者になったのは師匠たちが狩る魔物の素材を売るためだしさ。俺としてはゆっくりと静かに釣りでもして生活ができればいいしさ」


「なんだそれ。まるで引退した農家じゃないか」


「そうだな、そんな生活が理想だよ……はぁ……魔法の修行や体力作りに剣の稽古だとかは才能がある奴がすべきだろ。俺みたいなひ弱な奴はおとなしく生活するのが一番だな」


 自分に言い聞かせるように話すリンクスに『月の遠吠え』のリーダーは一緒に先頭を歩きながら笑い、他のメンバーたちも笑い声を上げる。


「あんまり大きな声で笑うなよ。先頭は気配を察知して一早く後ろに伝えないとだろ」


「ああ、そうだね。でも、気配を察知するのは得意だから心配無用だね」


「私たちはコボルトの中でも耳が良いからさ」


「リンクスだって囮として水球を先に行かせて警戒しているんだろ?」


「あの水球は血を落とした熊肉の骨を粉にして包んでいるからな。狼や虫系の魔物は鼻が利くから襲うとしたらそっちを先に狙う。植物系の魔物は待ち伏せ型が多いから注意しろよ」


 リンクスが言うように鼻が良い魔物は血を洗い落としても微かな血の臭いを感じ取り襲って来ることが多く、水球の中に砕いたアーマードベアの骨を入れ前方に飛ばし囮とする作戦は有効だろう。ただ、それにより近くにいる魔物を無駄に集めてしまう可能性もあるが、姿が見えていれば対応ができることもあり大賢者ナシリスとティネントはこの作戦に同意し、連れの冒険者や兵士たちも了承済みである。


「魔力は大丈夫なのかい?」


「熊との戦いもそうだったけど、かなりの量の魔力を使っただろ?」


「そこは大丈夫だよ。ひとよりは魔力が多いとジジイからいわれているし、ティネントさんも魔力量だけは褒めてくれるからな」


「魔力量だけって、ひとりでアーマードベアを倒した実力があるのにかい?」


「ああ、倒し方に美学がないとかいわれるな……特訓をするとか……思い出したら疲れが……はぁ……」


 その言葉に『月の遠吠え』たちが肩を揺らし、前方に飛ばしていた水球へ向けヒョウ柄の毛皮が躍り鋭い牙によって割れ、武器を手に戦闘態勢へと入る一行。


「ツリーレオパルドだ! 上からの奇襲に気を付けろ!」


 『月の遠吠え』のリーダーが叫び声を上げ後ろの者たちが警戒し大賢者ナシリスはすぐにシールドを複数展開して聖職者や担架で運ばれている者たちを庇い、最後尾のティネントは察知していたのか落ちている枝を拾い上から襲おうとしていた豹へ枝を投げつけ木々に縫い付ける。


「凄い……拾った枝でツリーレオパルドを仕留めるなんて……」


「三頭全てに命中……」


 担架に担がれ上を見ていたこともありティネントの投石ならぬ投枝の技術に目を見張るラフィーラとメリッサ。落ちている枝を正確に投げ素早い動きをする豹に当てるだけでも凄いが、更に威力がありその身を貫き絶命させられなかったが木々に縫い付けるほどの一撃を拾った枝で行ったことに、どれだけの技量を持っているのかと驚愕したのである。


 やはり絶界の森に住むだけあって賢者ナシリスさまと同様に凄い人なのだろう……


 アーマードベアの戦闘で気を失っていたラフィーラは素直に自分より遥かに格上なのだと理解し、メリッサも同じような投げナイフを使う身としては鋭くもない枝を使い魔物を仕留める技量に驚きを通り越して呆れ顔である。


「よし! 仕留めた!」


「次来るぞ! 今度はニードルラットだ!」


 『月の遠吠え』が連携しツリーレオパルドの首を刎ね討伐し、それと入れ替わるように眉間に鋭い角のある仔馬程のサイズのネズミが数匹現れリンクスはすぐに水球を無数に放出して牽制し、ティネントは枝を補充しながらいつでも手助けできるよう目を光らせる。


「正面から五匹! 左から五匹!」


「げっ!? 右からは別の魔物が来るよっ!」


 『月の遠吠え』たちに混じりリンクスが追い払うようにニードルラットへ水球を当て、新たなニードルラットが現れ、次いで金色の毛並みが木々を駆け抜け踊る。


「ん、あの狐は敵じゃない! 絶対に敵対するなよ!」


 そう大声で叫ぶリンクス。『月の遠吠え』たちは突進してくるニードルラットの攻撃を隊列に突撃させぬよう気を引き、すれ違いざまに柔らかい首筋へ剣を突き刺し弓を構え足を狙う。


「本当に敵じゃないのか!」


「ああ、あいつらは大丈夫だ! 絶対に敵意を向けるなよ!」


 大声で会話しながらニードルラットを意識して立ち回っていると金色の毛並みがニードルラットを踏みつけるように着地する。日本の尻尾がゆらりと振れ鋭い目つきが冒険者と兵士へ向けられ、リンクスが声を掛けるとボキリと首が折れる音が響き、尻尾を振りながらリンクスの下へと掛ける狐。


「ここはお前らの縄張りじゃないのにどうしたんだよ」


「クゥ~クゥ~」


 甘えたような鳴き声を上げリンクスが差し出した手に頬を擦り付ける狐。


「マジックフォックス!」


 目を輝かせ叫んだのはリンクスが使う水球魔法に興味を持った少女の魔法使いで、マジックフォックスという魔物はその名の通りに魔法を使う狐である。大人になると馬車サイズにまで成長し、尻尾が九本にまで増えると討伐ランクはSランクという最高位の化け物である。ただ、目の前のそれはまだ幼さを残しており成犬サイズよりも小さく愛らしさがあるのだがニードルラットを踏みつけ魔法で首の骨を折る実力を有している。


「助けに来てくれたのは嬉しいがこの辺りは危険だぞ」


「クゥ~クゥ~」


「お前たちの気配が消えたので様子を見に来たのだ」


「この子はリンクスが心配で走り出したのよ。他の子たちも追いかけようとしたから大変だったわ」


 幼いマジックフォックスを撫でていたリンクスの隣にいつの間にか現れ口を開く二人。ひとりはラフな服装なのだが人族ではない黄金の耳と五本の尻尾がある青年。もう一人は妖艶な雰囲気がありこちらにも黄金の耳と尻尾が揺れている。


「金狐が出て来てはこの者たちが怯えるだろう。ワシらは少し街に向かうだけだ」


「獣臭さが移る。すぐに山奥へ帰るがいい」


 ナシリスとティネントもリンクスたちの下へと向かい口を開き、残ったニードルラットは二人と一緒に現れた幼いマジックフォックスが討伐を完了し、『月の遠吠え』たちは武器を収め警戒しながらも金色の美しさすらある尻尾を見つめている。


「そう邪険にするな。見れば手負いの者を庇って森を抜けたいのだろう」


「私たちが守って森の外まで案内するわ。それでお願いなのだけど」


「砂糖ですね……って、おいおい、皆で一斉に囲むな! 舐めるな! 尻尾がくすぐったいだろう!」


 両手を合わせる金狐の女性からの提案を先に口にしたリンクスは五匹の幼い狐に囲まれ毛塊になり文句を叫ぶが、その手は優しくモフモフと撫で続けるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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