ラフォーレの説得と鳥貴族
第二食堂が畳ということもありその場に座り直しラフォーレと視線を合わせるリンクス。身長差もリンクスが座ることでラフォーレの方が高いがそのまま口を開く。
「ラフォーレにはテイムという魔物や動物と仲良くなるスキルがありますよね」
優しく話し掛けるとコクリと頷きその場に座り足を崩すラフォーレ。幼い金孤たちはそのまわりに寄り添い、キラリも横に座ると微笑みを向ける。
「うん、動物さんと仲良くなれるのです。怖い魔物さんも仲良くなると怖くないとお母さまがいってました」
「そうだね。ライセンさんが前にいっていましたが、テイムを使う人族と一緒に旅に出た金孤が世界を歩き人々や亜人を助けた話も聞きましたか?」
「うん、悪い人をいっぱい倒して困っている人を助けました。私もそういう人になりたいです!」
ムフゥ~と鼻息荒く言葉を〆るラフォーレに、横に座るキラリが優しく頭を撫でて微笑みを浮かべる。
「でも、まだ幼い金孤たちは力も魔法も弱く危険だよね」
「うん……」
「だからね。金孤たちが人化の術を覚えてからでも遅くないと思う。そうなれば金孤たちも力を付けて身を守れるし、ラフォーレの事も守ってくれる。キラリさんやライセンさんたちが本当の力を出せば魔物を追い払うことも容易いだろうし、今まわりにいる幼い金孤たちが大きくなればできるようになるよね」
「うん……」
静かに頷くラフォーレに罪悪感が浮かび、リンクスは申し訳なく思いながらも言葉を続ける。
「ラフテラさんもいっていましたが、金孤たちの毛並みはとても美しいですよね?」
「うん……」
「もし、悪い人たちに幼い金孤たちが狙われたら美しい毛皮を剥ぎ取って命の危険があるのはわかる?」
その言葉に目を丸くし赤くなっていた瞳から大粒の涙が流れ失敗したなと思うリンクス。
「これは例えだから必ずそうなる訳じゃないけど、その可能性もあるって話です。でも、この街にいれば狙われることもある。だから、自分で身が守れてラフォーレも守れるようになってから一緒に過してはと皆が提案しています。ですよね?」
畳に四つん這いになり項垂れていたライセンへと話を振るリンクス。ラフォーレはぐすんと鼻をすすり、流れる涙を優しく拭うキラリ。
「ああ、その通りだ。別れは寂しいが一生の別れではない。お前たちが大きくなれば必ず会わせその時にもう一度考えたらいい……だからお父さんを嫌いにならないでほしい……」
四つん這いの姿勢で語るライセンに説得力など皆無だが、心の中で頷いてくれと祈るリンクス。
「絶対です? 約束です?」
涙を流しながら口にするラフォーレに四つん這いの姿勢で頷くライセン。リンクスも頷き抱いている幼い金孤がクゥ~と甘えた声を上げる。
「本当に、本当です? パパみたいに嘘いわないです?」
再度問うラフォーレに勇者であっても子供の約束を破るのかと土下座するケンジの姿を思い浮かべつつも頷くリンクス。ライセンも大きく頷き「その約束は必ず守る。娘たちよ、私は約束を破らないだろう? 信じて欲しい」と口にすると、ラフォーレを囲んでいた幼い金孤は一斉に鳴き声を上げる。
「破るわね」
「破るのかよ!」
キラリの一言に思わずツッコミを入れるリンクス。だが、そのツッコミにラフォーレが吹き出し、まわりを囲む幼い金孤もキャッキャと笑い多少だが場の空気が緩和され顔が熱くなるリンクスは更に口を開く。
「俺がたまに街に来る時に誘って連れて来るからさ。長くても三ヶ月に一度は街に来るからその時にでも一緒に連れて来るよ。キラリさんやライセンさんも手伝って下さいよ」
「ああ、任せろ! 安全に娘たちを送り届けよう」
「私もその意見には賛成ね。砂糖や水あめを定期的に補充ができるのなら村の者たちもきっと賛成するわ。いえ、賛成というよりも一緒に来たいと言い出すかもしれないわね……」
「そうなのです?」
横に座るキラリに潤んだ瞳を向けるラフォーレ。
「ええ、絶界の甘味は果物と蜂蜜だけだもの。砂糖や水あめのような甘味はみんな大好きなの。ラフォーレちゃんのことも大好きよ~」
取って付けたように言葉にするキラリだが、ラフォーレは抱き付きグリグリと額を擦り付け、まわりを囲んでいた幼い金孤たちも同様にグリグリと額を擦り付ける。
そんな姿にホッと胸を撫で下ろすリンクス。ライセンもこれで落ち着くだろうと四つん這いの姿勢から畳に寝転がり大きなため息を吐く。
「では、今度来たときにまた手合わせを願えますね」
後ろから聞こえた声に振り返ると笑みを浮かべるラフテラとラフィーラの姿があり、後ろにはメイドのメリッサと執事のポールが同じような笑みを浮かべている。
「えっと、それは構いませんが、見ていたのなら助けて下さいよ。約束は守りますが子供の涙は見ていて辛いですよ」
「あら、私はリンクスくんが立派な父親になれると思って安心したのよ。ねぇ、ラフィーラ」
ラフテラからの弄りにみるみる顔を赤く染めるラフィーラはゆっくりと後ろへ数歩下がると全力で逃げ出し、それを追うメリッサ。リンクスは呆気に取られながらも抱いていた幼い金孤が離れた感触に振り向き、次の瞬間にはラフォーレからダイレクトアタックされ額をグリグリとされながら「約束です! 絶対です! 約束です!」と叫ばれ、みぞうちをグリグリされながらも優しく頭を撫でるのであった。
「これがケンジのいっていた食用の卵を産む鳥ですね」
ティネントは屋敷の裏にある鶏舎へと訪れ、これから持ち帰る鳥の育て方や習性などを飼育員とメイドから教わっていた。広い敷地に建てられた鶏舎は密閉した空間で大量に育てる日本のブロイラー式ではなく、柵で囲み鳥たちが運動できるよう広い空間が取られ三ヵ所に小屋が設置され好きに休めるようになっている。
「この種は走り鳥の亜種捕まえ育て、卵を多く生む鳥同士を掛け合わせました。三日に一度は卵を産みますよ」
「ケンジさまはウコッケイと名付け、この街以外でも育てております。鳥の病気に注意し複数個所で育てることで全滅を避けているそうです」
元気に柵のなかを走り回るウコッケイと名付けられた鳥は鶏よりも一回り大きく力強い足と鱗のある尻尾が特徴的で、雑穀や乾燥されたトウモロコシなどを突いている。
「餌はアレでないとダメですか?」
「いえ、基本的には雑食ですね。ただ、肉や魚をやると肉が臭くなりますので雑穀を与えております。特にトウモロコシと呼ばれるあの小さな実は卵の色も良くなり健康に育ちますね」
飼育員の男が得意気に話し、ティネントは真剣に耳を傾けながら湖畔の家に鶏舎を設置する場所を考える。
「予定では雄と雌を三羽ずつ頂けるとのことですが、運ぶ時の注意などあれば教えて下さい」
「こちらで専用のバッグと目隠しを用意しておりますので、目隠しをして羽に注意しながらバッグに入れていただき、睡魔の魔法を掛けます。あまり揺らさないよう注意して頂ければ一日は安全に運べると思います」
「一日ですね。それなら問題ありませんね。それにしても走り鳥が三日に一度も卵を産むとは驚きですね……」
「はい、我々も苦労しましたが、何よりも領主さまが努力なさり実現されました。今では市場にも出回り王都でもウコッケイを育て、王さまから勲章を授与されたほどです。親しい貴族からは鳥貴族と呼ばれるほど喜ばれております!」
飼育員の男がドヤ顔で話す内容を耳にし、鳥貴族と揶揄おうと心に決めるティネントであった。
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