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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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吹き飛ぶ第二食堂



 私は夢でも見ているのでしょうか……目の前ではティネントさまと呼ばれる古龍種のメイドが水の女神アクアラさまと喧嘩をしているのですが……

 元はといえば騎士であるヤザンさんが酒屋に出かけ交渉をと……そこで大賢者ナシリスさまに無礼な態度を取ったのか頭部鎧を壊され、翌日には楽しみにしていたカレーの屋台で大賢者ナシリスさま方に無礼を働き領主さまへその謝罪と報告に来ただけなのに……

でもでも、ラフォーレさまには良くしていただき、金孤ちゃんたちは可愛くて……

 そして、この状況……

 私はただ、最先端の教育が施されているこのグンマー領で色々と学べればと思い……いえ、本当は憧れの勇者さまや勇者さまの娘であるラフィーラさまに会いたかったのもありますが、勉学のためにこの地へとやってきたのですが……ああ、お父さま、お母さま、ニッケラは今、女神さまとメイドの戦いをまじかで見ていますが……キラリさま頑張って障壁を維持して下さい! ライセンさまも頑張って下さい! ああ、障壁にヒビが……


 完全に巻き込まれる形で目の前の暴風のような魔力と神力のぶつかり合いを見つめるニッケラ。水の女神アクアラが現れリンクスへ近づこうとした次の瞬間にはティネントの鋭い蹴りがその顔面を捉えニッケラの真横に吹き飛ばされ、慌ててキラリやライセンが子供たちを避難させ、ポールもラフォーレや金孤たちを素早く部屋の隅へと非難させライセンが結界を施しキラリが更にシールドで覆い安全を確保する。


「ああ、私のカレーがっ!?」


 第二食堂に吹き荒れる魔力と神力よって壁は吹き飛び料理が四散し叫ぶラフィーラ。そんな中でもペプラは目の前の光景をケラケラ笑い、リンクスは吹き飛ばされないよう壁が残る部屋の隅に移動して器に入れられているすき焼きを口に入れる。


「リンクスさま、食べていないでティネントさまを止めていただけませんか?」


 シールドの内側から顔を引き攣らせながら口にする執事のポール。リンクスとしては吹き飛ばされる前に出された料理をすべて味わいたいのか、頷きながらも霜降り肉を使ったすき焼きを口に入れ咀嚼する。


「いいぞ~もっとやれ~あははあはは、ん? ありゃ、またヤベーのが来た……」


 日本酒をラッパ飲みして女神とメイドの戦いを機嫌良く観戦していたペプラだったが、光が発光したと同時に出現した存在に顔を引き攣らせる。


「アクアラ……まだ懲りていなかったのですね……」


 そう口にして指をパチリと叩くとその身は黄金の鎖に捕縛され、言い訳ができないよう口にも黄金の鎖が巻かれ簀巻きになる水の女神アクアラ。ティネントにも同じように黄金の鎖が襲い簀巻きにされ転がる。


「ペプラはなぜ止めなかったのかしら?」


 片膝を立てた胡坐あぐらで酒瓶に手を掛けて顔を引き攣らせたペプラへ、グッと身を寄せ前屈みになる創造の女神シュレイン。


「い、いや~創造神さま、水の女神とティネントの戦いに水を差しちゃ悪いと思って……危険になったら止めようと思ってはいたんですよ……本当です。リンクスもそうだよな!」


 すき焼きを口に入れ咀嚼しながら頷くリンクス。そこへ剣を持ち戻った勇者ケンジと大賢者ナシリスは見晴らしの良くなった第二食堂を見渡し口をあんぐりと開け固まる。


「ななな、何があったらこんな事になるんだよ!! 俺の屋敷が、料理が、酒が……お前たち、怪我はないか!」


 意識を再起動させ叫ぶ勇者ケンジは結界内にいる妻や子供たちに振り向き声を掛け、コクコクと頷く姿に胸を撫で下ろし、創造の女神シュレインにジト目を向ける。


「教会でも同じような事があったらしいが、水の女神さまの暴走はそちらで管理して下さいよ……はぁ……」


「その様にきつく言い聞かせたのですよ。ですが、私も今回のこれはやり過ぎだと思いますので厳重に処罰を下します。それに……」


 そう口にして手を払う仕草をすると壁が吹き飛び散乱した料理や酒は時間が逆再生するように動き出し元の姿へと戻る。


「これで良いでしょう。もし、今の戦いで心を病んでしまうような事があったら教会へいらして下さい。私の権限で恐怖した記憶を消去させましょう」


 そう振り向き口にする創造の女神シュレインは子供たちに向け微笑みを浮かべ背後には無駄に後光が射し、手慣れた手つきで椀を取りしれっと玉子を割り入れて元に戻ったすき焼きを口にし、黄金の鎖で簀巻きにされた水の女神アクアラとティネントがミノムシのようにドタドタと動くさまを見て顔を歪ませる。


「少し静かにしていなさい。折角の料理が不味くなるでしょう」


「そうだぜ。余興をするにしてもツマミがなくなっちまったら楽しくないよな!」


 ひとりその戦いを楽しんでいたペプラがしれっと創造の女神シュレイン側に付きリンクスからジト目を向けられるが手にしていた日本酒を口に入れる。


「ほら、あなた達も食事の途中でしょう。私はこれで帰りますが本日は申し訳なかったわね。次からはこの阿呆が顕現できないよう手を施すから安心なさい」


 そう言いながら軽く拘束されている水の女神アクアラを足で小突き、開いている手には二本の未開封の酒瓶を手に光の粒子へと変わり去ろうとするがリンクスが待ったの声を掛ける。


「あ、あの、ひとついいですか?」


「あら、まだ何かありますか」


「えっと、祝福でしたっけ? あれがあると聖王国に連れ去られるとジジイから聞きまして、できたら祝福を消してもらいたいのですが……ダメですかね?」


 創造の女神シュレインからの祝福は教会関係者からしたら神子として扱われ、これまで前例が数件あるがすべて聖女へ送られたものである。それが一人の男に顕現し与えられたのは初めてであり、グンマー領の教会関係者はどうにかしてリンクスの傍仕えを派遣する口実を考えているのが現状である。大賢者ナシリスとティネントに止められ聖王国へ知らせるような事にはなっていないが知れば大変な騒ぎになるだろう。


「………………では、私が神託でリンクスに迷惑を掛けないよう伝えておきましょう。では、騒がせて申し訳なかったです」


 光の粒子が消え去ると黄金の鎖で巻かれていた水の女神アクアラの姿も消えるがティネントだけは黄金の鎖で巻かれたままであり、その身をバタバタとさせ続け安全だと判断したのかシールドと結界を消すキラリとライセン。


「一時はどうなるかと思ったけど……みんな、痛いところとかないかしら?」


「クゥ~クゥ~」


「金孤ちゃんたちは大丈夫そうです。ニッケラちゃんも大丈夫です?」


「はい……痛いところはありませんが神さまを初めて見てしまいました……」


 まだ放心状態で口を開くニッケラ。この日の事は一生忘れられない出来事になるのは仕方のない事だろう。


「ま、また神さまを見て……それに謝罪もしていましたわ……」


「私も……見ました……」


 教会に続き巻き込まれたラフィーラとメイドのメリッサも放心状態で口を開き、リンクスはすき焼きのおかわりに動き、それを自然と給仕を再開させる執事のポール。


「リンクスさま、普段からこのように神々が降臨なさるのですか?」


「いえ、神さまは教会で一度見て、今回ので二度目ですね。それにしてもこのすき焼きという料理は美味しいですね」


「お口に合ったのなら幸いです。このすき焼きに使われている肉は特別に育てたオウミンと呼ばれる牛の魔物です。野生のブラックカウに聖水や良質な葉野菜を与え育てている特別な肉ですので、気に入っていただけたのなら農園の者たちも喜んでいるはずです」


 すき焼きのおかわりを受け取り口にするリンクスなのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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