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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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ラフィーラの逃走と緊急事態



「うへぇ~泥だらけ……」


 腫れる頬を押さえるリンクスの手にはザラリとした泥の感触が伝わり、水球を出現させ顔を洗い指輪の保存機能からポーションを取り出し口に入れる。


「ううう、あの、申し訳なかったですわ……でも、」


「でもではありませんお嬢さま。殿方の上に馬乗りになって往復ビンタを止めるまで続けるとか……」


 ポーションを飲み頬の腫れが引いたリンクスの元へと現れたラフィーラに謝罪を受け、メリッサは言い訳するラフィーラへジト目を向ける。


「いえ、自分の水球や水流で地面が濡れた結果ですし、ラフィーラさんも自衛のためにした事ですから」


 申し訳なさそうな顔をしながらそう口にするリンクス。だが、それを聞いたラフィーラは顔を更に赤くし「そ、そうですわよね……ささ、汚れを落とすためにもお風呂へと入って下さい。無理に試合して頂きありがとうございましたわ」と早口でまくし立て速足で領主館へと向かう。


「お嬢さま!? えっと、失礼します! お嬢さま! 待って下さい!」


 領主館へと走り出したラフィーラを追い掛けるためリンクスへ一礼すると全力で追い駆けるメリッサ。それを呆気に取られながら見つめるリンクスであったが背中に付着した泥から浸透する水の冷たさに体を震わせ、その様子を見ていたポールは肩を揺らしながら口を開く。


「体を冷やす前にリンクスさまも御入浴されて下さい。屋敷の風呂はラフィーラさまが使うでしょうから警備兵用の風呂場を使って下さい。警備兵用の風呂も温泉仕様になっていますからゆっくりと楽しんで下されば幸いです」


 執事のポールに微笑みを向けられたリンクスはお礼を口にして歩き出そうとする。が、鐘の音が響き傍にいたポールが眉間に深い皺を作る。


「これは緊急事態発生ですかな……失礼いたします」


 ぬかるんでいる訓練場を全力で走り屋敷へと向かうポールに唖然としていると警備兵たちも走り出し訓練場に一人取り残されるリンクス。


「緊急事態とかいっていたが……寒っ! これじゃ風邪引くよな……泥だけでも落としておかないとか」


 魔方陣を展開し水球を数個浮かべると更に魔力を込め湯気を上げる水球。それを軽く手を触れ熱さを確認すると手足に付いた泥を流し、更には水球を集め体を覆う。


「ふぅ……温かいが、警備隊のお風呂ってどこだ? あっちが屋敷だからあっちの屋敷だと思うけど……せめて場所だけでも教えてくれたら……」


 屋敷とは別にある大きな屋敷へと足を向け歩き出す。


「リンクスよ! 行くぞ!」


 空から掛けられた声に振り向くと杖に乗っている大賢者ナシリスの姿が見え緊急事態という単語が頭にチラつき、遅れて空から登場した鎧姿の勇者ケンジに本当に何があったのかと指輪の収納機能からサーフボードを取り出すリンクス。


「いったい何があったのですか?」


「龍だっ! 西の門に龍が現れたらしい! リンクスやナシリスの知り合いだと困るから確認してくれ! 違ったら俺が斬り伏せるから付いて来てくれ!」


 焦りの表情を浮かべ叫ぶ勇者ケンジに頷きサーフボードに足を乗せ魔力を流すリンクスは一気に加速し目的地である西の門を目指す。杖に乗り先を行く大賢者ナシリスと共に空を行く勇者ケンジは背中から翼を生やし空を駆け、その姿に勇者という名に恥じない強さを持った凄い人だなと思っていると視線の先が開け丘から眼下に広がる街並みが視界に入り、更には高い壁が遠目に見え顔を引き攣らせるリンクス。


「ありゃペプラかの?」


「ペプラの他にもう二頭見えますね。いや、一匹はでかい魚かな?」


「なら、お前たちの知り合いなんだな」


「そうですね。でも、そうしてペプラが……」


 遠目に見えた龍の姿によく遊びに来るペプラという古龍だと確認すると一気にスピードを上げる大賢者ナシリスと勇者ケンジ。リンクスもフルスピードを揚げサーフボードの水流を唸らせ追い掛ける。

 街中で水流を上げ走りながらも人がいない場所を選び自然と車道を走るリンクス。時折馬車の御者や乗っている人に街の人々から驚かれるが緊急事態のため道を急ぐ。


「あんなにも人が集まっているとか、下りないだめか……よし、あの階段を使って超える!」


 西門は固く閉ざされ噂を聞き付けた人々が群がり塞がり、リンクスは視線の端に映った階段へ視線を走らせ一気に速度を上げサーフボードの角度を上げ水流の威力も上げ突き進む。

 その事に気が付いた人々から声が上がり指差されているが、今はペプラが暴れないよう会って話すのを優先し、複数いる警備兵の間を抜け高い塀を一気に飛び降りる。


「おっ! リンクス!」


 高い塀から飛び降りたリンクスをいち早く発見したペプラ。その姿は龍ではなく人型へと変わっており片手を上げニッカリと笑顔を向け、その横では大賢者ナシリスが説教の途中だったのか眉を吊り上げ、勇者ケンジは後頭部を掻きながらリンクスの姿を見て胸を撫で下ろす。


「よっと、上手く着地できたが……この巨大な魚? それに隣の人は古龍さん?」


 地面に着地したリンクスを指差し笑うペプラ。その後ろに隠れるよう顔を出すペプラに似た角を持つ少女。


「リンクスは何で水塗れ、いや、スライムに飲み込まれているんだよ! あひゃひゃひゃひゃ!」


「スライム………………ああ、泥汚れが気になって忘れていたな」


 自身の身に纏わせていた温かい水球を解除するとその水が一気に下へと落ち、それを見た少女が目をパチパチとさせる。


「ほら、リンクスに会いたかったんだろ? 挨拶はできるよな?」


「うん……」


 ペプラに優しく頭を撫でられ頷く少女は一歩前に出るとペコリと頭を下げて口を開く。


「ペプラの妹でフリル! ペプラと一緒にリンクスの成人の祝いを取ったの!」


「どうだ、凄いだろ!」


 ドヤ顔を浮かべるペプラとキラキラした瞳を向けるフリル。まだ幼さの残るフリルの笑顔の横には十メートルはある巨大なクジラが横たわっており「確かに凄いが……」と口にして呆れ顔のリンクス。


「リンクスの成人を祝ってくれるのは嬉しいが時と場所を考えよ。龍の姿で現れては人々が怯え騒動になると口を酸っぱく言っておったのに、まったく……」


「悪かったよ~でも、このクジラは美味いんだぜ。煮ても焼いても美味いからな。オレだって数日開けてから届けようとしたが、フリルがどうしてもって」


 ペプラに責任を押し付けられたフリルはサッとまたペプラの後ろに隠れ、大賢者ナシリスもまだ幼く見える少女が言い出したとあればこれ以上追及できないとリンクスへと視線を向ける。


「そっか、ありがとうな。大切に食べさせてもらうよ」


 そう口にするとパッと笑顔を咲かせるフリル。リンクスは巨大なクジラに手で触れ指輪に収納するとフリルは目を丸めて驚き、その後ろでは勇者ケンジが盛大なため息を吐き「ナシリスはどうしたらいいと思う? 夕食に誘っても問題はないと思うか?」と小声で話し掛け、静かに頷く大賢者。


「ん? そりゃ嬉しいがオレらがいたら迷惑にならないのか?」


 声を小さくしたが古龍種のなかでも風を司るペプラの前では問題なく聞き取れ、逆に気を使われる勇者ケンジは顔を引き攣らせる。


「良かったな。街には水あめや変わった酒も売っていたから、ヘックシ!!」


 盛大なクシャミをするリンクス。両鼻から溢れた鼻水を見て爆笑するペプラとフリル。勇者ケンジと大賢者ナシリスは大きなため息を吐くのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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