表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
4/108

水球の秘密



 アーマードベアに勝利したリンクスたちは現場の責任者だろう兵士長から挨拶を受け、忙しそうに治療をする聖職者や兵士たちを手伝うべく動き出す。大賢者は怪我の治療を手伝い鋭い爪で飛ばされた兵士の腕を治療しながら接着し、痛みに堪えながらも指が動き確認が取れるとまわりから歓声が上がり大賢者の名が伊達ではない事を証明する。


 ティネントは血の臭いに魔物が集まってくるのを警戒し森に向け睨みを利かせ、リンクスは倒したアーマードベアを特殊な指輪型の魔道具に収納していると冒険者から声を掛けられ顔を歪める。


「よう! 『水遊び』 本当に大賢者さまの弟子だったんだな!」


「ああ、『月の遠吠え』だっけ? 久しぶりです」


 声を掛けてきたのは冒険者の中でも中堅でCランクの『月の遠吠え』と呼ばれるパーティー。全員がコボルト族で成人男性よりは低い身長と青い犬耳がトレードマークな男女混成のグループである。


「凄かったよ! 水遊びと呼ばれるだけあって凄い水魔法だった!」


「逃げ足も速かったな!」


「ギルド会館を水浸しにした話は聞いたが凄いのな!」


「その収納アイテムも凄い! あんなに大きなアーマードベアを五頭とも収納できるとか、どんなアーティファクトだよ!」


 リンクスの左手には深い紫色の指輪があり、その手でアーマードベアに触れると一瞬にしてその姿が消えるように収納される。これはティネントがリンクスの為に作った物で初めてアーマードベアを単独で倒した祝いに送った物のである。


「大きな荷物を運ぶ時には便利だな。次は……」


 リンクスは視線を走らせ逃げるように『月の遠吠え』から離れ次のアーマードベアの回収に動く。


「あの、あの、少し宜しいでしょうか?」


 声を掛けてきたのは杖とローブを纏った如何にも魔法使いという姿の女性で、「少しなら」と返すリンクス。


「先ほどの水魔法、凄かったです! 初級の魔法でありながら、それだけを使ってアーマードベアを倒すなんて驚きです! 何発もの水球を打ち、顔に集め溺れさせたのですよね! どうしてアーマードベアが振り払えなかったか疑問が湧きまして!」


「ああ、あれは初球の水球ですが普通よりも多めの魔力を込めて破壊されないようにしていますね。それと魔力操作で水球同士が集合するようにしています。試しに見せましょうか?」


「是非! お願いします!」


「そしたら濡れても問題ないように袖を捲くって腕を出して下さい」


 その言葉に急いで両手の腕の袖を捲る魔法使い。その間に複数の水球を出現させ宙に浮かすリンクス。


「右腕で水球に触れて下さい」


「は、はい……」


 恐る恐る浮かんだ水球に触れる魔法使い。次にリンクスは振れていない水球を振れている水球に優しくぶつけ合体させる。二つの水球が混ざり大きさが増し、驚いた表情を浮かべる魔法使い。


「では動かしますね」


「す、凄い! 水球同士を融合させるだけでも凄いのに手から離した水球が動いています!」


 融合した水球は魔法使いの手から腕へと移動しウニウニとその姿を変える。


「自力で剥がそうとして下さい」


「はい、えっ!? 持てないです! これなら溺れさせることができますね!」


 水球を手から放そうと手を振るが離れず、手袋を外す要領で水球を剥がそうとするがそれも無駄に終わり目を輝かせる魔法使い。


「魔力を手で覆って振り払えば簡単に取る事ができます」


 そう口にしたのはティネントであり、得意気なリンクスにジト目を向け、向けられたリンクスは「残りを回収してきます」と逃げるように走り出す。


「ふぁっ!? 簡単に外れました! 魔力で腕を覆う……これって強化魔法ですよね?」


「ええ、魔力には魔力をぶつけるのが一番早いですから。それで、貴女は何故リンクスに色目を? 私の息子に近づきどうする心算だったのでしょうか?」


 ギラリと光る視線を向けるティネントに魔法使いは首を横に振り「そんなつもりはないです」と大声を上げその場を逃げ出す。先ほどアーマードベアと拳で語り合っていた実力を目にして恐怖したのだろう。


「これだから人族は……ん? 狼の気配でしょうか?」


 逃げ出した魔法使いから視線を森に変え瞳に力を入れるとティネントのまわりに陽炎が立ち昇り、一部の冒険者が剣を抜こうとし兵士長も慌てて立ち上がり異変に気が付き騒然とし始め、そんな中、治療を受け終わり意識を失っていたラフィーラとメリッサが目を開き急ぎ戦闘態勢に入ろうとするがナシリスが優しく声を掛ける。


「安心なさい。ティネントが魔物を追い払っただけだ。それにしても二人共大きくなったの」


 優しく掛けられた言葉にラフィーラは目を見開き驚き、メリッサは立ち上がり頭を下げようとするがよろけ、慌てて近くにいた女性の兵士に手を添えられ体制を保つ。


「ナシリスさま、ナシリスさまに助けていただいたのですね……」


 そう口にしながら悔しそうに唇を嚙みしめるラフィーラ。メリッサも兵士に抱えられゆっくりとその場に腰を下ろしながらお礼を口にする。


「うむ、ワシは一匹だけじゃったがな。ティネントとリンクスが残りを狩り熊は今回収しておるよ。それにしてもまだ成人に成り立てだというのにこの危険な森に入るとは……あいつの指示か?」


「いえ、私が無理にお願いして……メリッサにも迷惑を掛けたわね」


「私が父ほど強ければ……」


「どちらも一流ではあったがお前たちを止めるべきだったな。ワシらが来なければやられておったかもしれんのだぞ」


 その言葉に頷きながらも拳を握り締めるラフィーラ。メリッサは深く頷きながらも自身の力を過信して魔剣に魔力を込めすぎ破壊した事を思い出し反省モードへと移行する。


「で、ですが、父はもっと幼い時にアーマードベアと戦い勝利したと!」


「ああ、勝利したが、その時はワシがいたしレレネやアレックスもな。四人揃って一匹を狩るだけで精一杯だったの……その時に深手を負い町まで引き戻ったのだよ。今のお前たちと同じようにな」


 視線を強め勇者一行の語られない過去を話すナシリス。勇者として語られる物語は美談が多く辛勝し森から逃げ帰った話など語られるはずもなく、驚きの表情を浮かべるラフィーラとまわりの聖職者や兵士たち。


「魔王討伐は本当に苦しい戦いであったのだよ……多くの兵士や冒険者が力を貸してくれたが多くの犠牲もあったのだ……その上に立ち続け街を作ったケンジをワシは尊敬するよ……」


 酷く寂しそうな表情を浮かべ口を閉ざしたナシリスに「回収終わりましたよ~」と明るい声を掛けしんみりとした空気をぶち壊すリンクス。


「お前は気が使えるが空気が読めないのう……まあ良い。回収が終わったのならこの者たちを連れて森を抜けるぞ。重傷を負った者たちは戦えないからリンクスが先頭でティネントが最後尾だ」


「うぇっ!? 先頭ならティネントさんの方が適任じゃ」


「阿呆が、これだけの人数を守りながら森を抜けるとなれば最後尾が一番危険なのだ。間にはワシが入り注意するから先頭はリンクスとコボルトの冒険者で来た道を戻れ」


 ナシリスの言葉に耳を立て尻尾を振る『月の遠吠え』たち。伝説として語り継がれる勇者一行の賢者に指名され嬉しかったのだろう。ただ、もうひとり指名されたリンクスは心底面倒臭そうな表情を浮かべる。


「これじゃ今日中に街に辿り着けないよな……三十人分の食事の用意も考えないとか……」


「ふっ、うふふふ、心配することが食事のこととは驚きますね」


「まったくじゃの。まあ、リンクスは月に一度は街までひとりで下りておったしの」


「休憩ついでに熊を一匹ばらしますか?」


「うむ、冒険者や兵士で解体が得意なものは手伝ってくれ。あのサイズになると解体も一苦労だからのう」


 ナシリスの言葉に冒険者と兵士たちが集まり巨大なアーマードベアの解体ショーが始まるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ