リンクスVSラフィーラ
訓練場に距離を取ったリンクスとラフィーラは互いに武器を構え執事のポールからの開始の合図を待つ。
「では、互いに礼! はじめっ!」
ポールの声があたりに響き共に頭を上げると一気に加速するラフィーラ。リンクスは琥珀棍を構え一気に加速するラフィーラを迎え打つべく構える。
「はぁぁぁあぁ!」
手にしたソートソードが流れるように走り頭部を狙った振り下ろしの一撃を琥珀棍で弾くが、回転しその弾かれた一撃の力を利用して追撃するラフィーラ。リンクスも短い棍棒を使い慣れているのか弾いたのとは逆をぐるりと回転させラフィーラの更なる一撃を受けつつも魔方陣を展開し、慌てて後ろへと飛び退く。
琥珀棍という武器は防御主体のようですね……棍棒にしては短いですし、かなり手馴れていますわ……それにあの魔方陣から放たれるだろう無数の水球を考えると迂闊には近づけないわね。初手で倒せるとは思っていませんでしたし、手数を増やして一気に畳みかけたいわね……
手にしたショートソードを構え直すラフィーラは背を前屈みにして踵を浮かせる。その姿はまるで虎が獲物を狙うような迫力があり、ギラリとリンクスを狙う瞳には力が込められる。
対してリンクスはリラックスしたような表情を浮かべており、ラフィーラから飛ばされてくる強い視線を受け流すよう琥珀棍の中心を持ち、上下どちらからでも受けられるよう構え水球を放つ。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
一度に複数の水球を放ち、それを最短で躱し潜り回避しながらトップスピードにまで引き上げソートソードを引き力いっぱい突きを放つラフィーラ。水球を回避しながらの突きはやや下から放たれ、その後の回避など考えていないのか地面を蹴り加速する。
「怖っ!?」
思わず出たリンクスの言葉に外野の警備兵たちは頷くが、メリッサはそんな事を言う余裕があるのかと目を細め、ポールも同意見なのか眉間に深い皺を作る。
突きの一撃は空を切り、身を反らせ回避するリンクスは水球で追い打ちを掛けるが水球も空を切り、突きの威力そのままに左手を軸に急転換して地面を掛けるラフィーラ。
「まだまだですわ!」
ギラリと光る瞳には闘志が宿り新に放たれた水球を左手で弾き一直線にリンクスを襲う。
「うおっ!?」
水球を左手で弾く事を予想し多目に魔力を込め水球自体の強度を高め払った左手に付着するよう工夫した心算が、水球はあっさりと四散する。左手にも魔力が込められているのだろう。
数日前に倒したアーマードベアにはこの方法で水球を放ち口と鼻を塞ぎ窒息させたのだが、流石にラフィーラの口と鼻を塞ぐのは試合ということもあり躊躇ったリンクスは手で払うと予想して錘にでもなればと水球を放ったのだが、キャンプ地で冒険者の魔導士に対処方法を教えた会話を耳にしていたのか、左手には確りと魔力を込め水球を弾き驚く。
突きによる連撃の対処は難しい。理由は簡単でラフィーラが手にしているショートソードの刀身はレイピアに似た造りになっており身幅も薄く軽い。振り下ろす一撃や払う一撃とは違い点での一撃は捉えることが難しく、払うにしても難度が格段に上がるのである。
そんな突きを琥珀棍で払うリンクス。突進しては鋭い突きを放つラフィーラもいつしか足を止めゼロ距離で突きを交えた連撃へと変わり、琥珀棍が青い光を宿し防戦一歩になったリンクスは距離を取ろうと一気に後ろへと下がる。が、ラフィーラの戦い方は突きという突進技であり、リンクスが後ろへと大地を蹴ると同時に呼吸を合わせたかの如く突きを放ちその距離が離れることはない。
くっ!? ペプラよりもしつこいのかよ! でも、これならっ!
浮かせていた魔法陣はもうかなり後方に見えるが一斉に打ち出すリンクス。魔法陣から放出された水球はリンクスの元へと向かい風を切る音でラフィーラが離れると予想するも、更に早さを増した連撃は次第に上着を掠める。
「やばっ!?」
そう声に出したリンクスは足元に魔法陣を出現させと同時に水柱が噴き上がり上空へと回避し、ラフィーラは突然現れた水柱に驚く間もなく弾き飛ばされ、一瞬とはいえ水柱から立ち昇った水流が弱まりバランスを崩すリンクス。
「一瞬で水流の魔法陣を構築するとは驚きです……」
「水流も初級の水魔法ですが、あの威力では中級といっても過言ではない……人ひとりを浮き上がらせる程の威力……ん? なるほど、魔法陣を工夫していますね。水球を見た時に違和感がありましたが、複数の水流をまとめて放出するよう改造したのでしょう……恐ろしい才能を感じますね……」
空中でバランスを崩したリンクスが落下し、下ではそんなリンクスを見上げショートソードを構え立ち上がろうとするラフィーラ。先ほどまで水流が上がっていた場所へ水球が通り過ぎ、先に立ち上がったラフィーラが突きのモーションへと入る。
リンクスは水柱で濡れた地面に背中から落ちながらも琥珀棍へ魔力を通し、向かって来るラフィーラに備え片手をぬかるむ地面に付く。
「覇っ!」
リンクスが立ち上がっていないこともあり下段へと突きを放つラフィーラ。地面に手を付きバランスを取りながら青く輝く琥珀棍で払うリンクス。
両者の突きと払いがぶつかった瞬間に衝撃音が響き、次の瞬間には水で濡れた地面に足を取られズルリと前方へと踏ん張っていた右足を滑らせるラフィーラ。リンクスも地面に付いていた手を滑らせ大きく身を半回転させる。
「これは……」
「そこまでっ!」
メリッサが顔を赤くしながら両手で顔を押さえ、ポールは大きな声で試合を止め素早く二人の元へと駆け付ける。
「うぇっ!?」
「なっ!?」
ぬかるむ地面の上で仰向けになりラフィーラの下敷きになったリンクスは情けない声を上げて驚き、ラフィーラはこれ以上ないほどのゼロ距離でリンクスの顔をと向き合い恥ずかしさからか身を反らせ、審判をしていたポールの「そこまで!」という試合停止の声を無視して放たれるビンタ。
観戦する警備兵たちは大盛り上がりでアクシデントを喜び、駆け付けたポールに手を貸され抱き起こされるまでラフィーラからの馬乗りになっての連続往復ビンタを受け続けるリンクス。
「お嬢さま、そのぐらいに……」
「えっ!? あ、はい……ご、ごめんなさい……」
正気を取り戻したラフィーラからの言葉に両頬を赤く腫らしたリンクスの感想は「女怖い……」であった。
「赤牛のスジ肉を長時間煮込むことで独特の食感を出し、更にはワインと合わせることでコクを出すのですね……骨をオーブンで焼き出しを取るのはした事がありますが、玉ねぎも同じようにローストして煮込むのですか……」
「随分と熱心にメモを取るのだな」
「息子にために最高の料理を作りたいですから……あちらの窯からは変わった香りがしますが、あれは?」
厨房では見慣れぬ巨釜から上が湯気の香りに興味を持ったティネントが指差し、熱心にメモを取る姿に触発されたコック長が話し掛けていた。
「ああ、あれは米を炊いているのさ。ケンジさまの故郷の主食で小麦に似ているが粒のままああして炊き上げる。ゆで卵のような香りがするだろが、カレーにも良く合って美味いぞ。塩で丸めるだけでも美味いし、なかに具を入れたおにぎり何て料理もあるからな」
「なるほど……今日はその米は食べられますか?」
「おう、カレーと一緒に出すからかけて食べてくれ」
ニッカリと笑いながら話すコック長にティネントも自然と微笑みを浮かべるのであった。
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