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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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少し手伝いましょう



「少し手伝いましょう」


 そう声を上げた次の瞬間にはティネントの姿は消え一頭のアーマードベアが吹き飛び木々へと衝突し、目を見開き驚きの表情を浮かべるメリッサ。兵士や冒険者たちも驚き、アーマードベアすらも驚いているのか誰一人動くことはない。


「あ、あの、あなた方はもしかして……」


「私はティネントです。あそこにいるジジイは元勇者一行の………………なんでしたっけ?」


「大賢者だ! チェーンバインド!」


 真っ赤な魔石が埋め込まれた杖を掲げるとアーマードベアの一頭のまわりには魔法陣が現れ無数の鎖がその手足に巻き付き拘束する。呆気に取られていた事もあってかすんなり拘束されたアーマードベアは我に返り引きちぎろうと力を入れミシミシと音を立てる鎖。


「ほれ、今のうちに退避せい! 怪我人を運び出し治療せい!」


 ナシリスの声に兵士たちは一斉に倒れている仲間を引きずり広場の隅へと向かい、冒険者たちも吹き飛ばされたラフィーラの下へと向かう。


「一匹はお任せしても?」


 指をポキポキと鳴らしながら短剣を構え動き出すところであったメリッサへ声を掛けるティネント。無言で頷き、仲間がやられた事に数秒遅れで怒りを示し唸り声を上げるアーマードベアへ視線を向け大地を蹴る。

 森の中だというのに二名のメイド服を着た女性が動く姿に兵士たちは夢でも見ているのかと現実逃避気味に思ったのは仕方のないことだろう。


「どれ、たまには本気の魔術を披露しようかのう」


 兵士が落とした剣を拾いぶつぶつと詠唱を口にするナシリス。手にしていた剣に赤く文字が輝き魔法陣が浮かび上がるとその手を離し浮かび上がる。


「剣が浮いたぞ!」


「あれはエンチャントか!?」


「大賢者さまの魔法をこの目で見られる日が来るとは!」


 兵士たちから歓声があがり盛り上がるなか、右腕を拘束していた鎖が飛び散り悲鳴があがり、浮いている剣に手を掛け力ある言葉で開放する。


「魔道砲……」


 その言葉に浮いていた剣が反応し一気に加速し、右腕で向って来る剣を叩き落そうとしたのだろうがその腕を貫き、更には胸を貫き、それでも止まらなかった剣は体を突き抜け木々の間を抜け飛び去り、アーマードベアはゆっくりと前に倒れ大きな赤い染みを作る。


「久しぶり過ぎて手加減ができんかったか……家に当たっていなければいいが……」


 自分たちが進んできた方角ということもあってか、そんな心配をするナシリスであった。


「アーマードベア程度では準備運動にもなりませんね」


 そう口にしながらアーマードベアが振り下ろした腕を片手で止めるティネント。手には鋭い爪があり当たれば人の体など簡単に切り裂かれる一撃なのだが、ティネントの前では力不足なのかあっさりと受け止められ、掴かんだ腕を捻りその巨体が転がり熊生初の投げ技を受け驚きながらも更に怒りを込めて立ち上がるが、目の前には紺色のメイド服が躍りそれが熊生最後の光景となる。

 振り抜かれた右足の一撃はアーマードベアの眉間を捕らえ太く強靭な枝が無理やり折られた様な音が広場に響き、後ろへ力なく倒れ絶命する。


「凄い……私も負けてられませんね!」


 もう一人のメイド服を着たメリッサは手にしていた波打つ形のナイフに力と魔力を込め輝き、一気に加速しアーマードベアへと交差する。手にしている武器がナイフということもあってか致命傷にならないが、斬撃耐性のあるアーマードベアから出血が起こり交差する度にその数が増し、メリッサの実力が窺える。


「ほう、魔力剣ですか……刃渡りを考えれば仕方のない事かもしれませんが、まだまだですね……」


 ティネントがため息を漏らし素直な感想を口にするが兵士や冒険者たちはアーマードベアを圧倒するメリッサの戦いに歓喜し、メリッサもこのまま戦えば問題なく倒せると思ったのだろう。だが、状況は一変する。


「グマァァアッァア!!」


 咆哮を上げ怒り狂い両腕を上げたアーマードベアに、チャンスだと魔力を更に込め輝きを増すナイフ。だが、その瞬間にナイフが爆散し慌てて飛び退くがアーマードベアは追撃し、体勢が崩れそうになった着地の瞬間に巨体のタックルをもろに喰らいその身が宙に舞う。


「はぁ……仕方がないですね……」


 宙へ打ち上げられたメリッサは既に意識がなくタックルを停止させたアーマードベアは勝利を確信するが、視界は赤く染まりその生涯を終える。


「少し力を入れ過ぎましたね……」


 先ほどまで宙を舞うメリッサを見つめていたアーマードベアが立っていた場所にはティネントが立っておりメイド服のスカートに付いた血を見つめ反省し、空を舞っていたメリッサを空中でキャッチするナシリス。杖に跨り高速で飛行し助けたのである。


「やれやれ、ポールの娘も大きくなったが、まだまだだの……」


 ゆっくりと着地し得意の回復魔法を使い折れた腕を回復させるナシリス。淡い光に包まれながら安らかな表情へと変わったメリッサを安全な場所へと運んでいると木々が倒れる音が響き慌てて逃げるリンクスの姿が目に入る。


「早くくたばれよっ! でか熊がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 全力疾走しながら文句を口にする姿にナシリスは笑いを堪え、ティネントは顔を引き攣らせる。


「手助けが要らない分だけましでしょうか……」


 小さく呟き逃げるリンクスを見つめるティネント。


 リンクスを追うアーマードベアは五頭いた中でも一番体格が大きく群れのリーダーでその大きさは二階建ての家ほどはある。そんなアーマードベアから逃げ回りながらも水球を浮かべ打ち続けているリンクス。

 追い掛けて来るアーマードベアの顔には多くの水球が集まりその呼吸を阻害し、術者であるリンクスを倒せば顔から離れない水球が消滅すると理解しているのか必死に追い掛け、必死に逃げながらも水球を新たに宙に浮かべ放つリンクス。


「そろそろでしょうか」


「そうだの。あれだけ動き回れば肺の酸素も使い切るわい」


 メリッサを冒険者たちの下へと届けたナシリスがティネントの横に付きリンクスの戦い方を見つめ、予想通りに急激にスピードを落としフラフラと倒れるアーマードベア。その数歩前でリンクスも大の字で倒れ、肩で息をしながら安堵の表情を浮かべ呼吸を整える。


「もっとスマートに戦えるよう明日から特訓です」


「うむ、勝ち方にも拘るのが一流だからの。ワシも賛成だの」


 二人の言葉を耳にしたリンクスはうんざりとした表情を浮かべ、勝ちは勝ちだろうと心の中でぼやくのであった。








 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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