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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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雑貨屋へ



 店を出た一行は歩きながら次の目的地へと向かうのだが人通りがそれなりに増え、商店から顔を出し手を振る者やすれ違いざまに二度見する者など、大賢者ナシリスとラフィーラの人気に驚かされるリンクス。ティネントは不機嫌な顔で屋台や商店をチラ見し、最後尾を歩くメリッサは不審な者がいないか目を走らせる。


「おっ! あの店に寄ってもいいですか?」


「え? ああ、雑貨屋ですね。あの店は風変りな店主がいるので……」


「エルフの店主だの。ワシも何度か立ち寄った事があるから大丈夫じゃろ」


 その提案に不安があるのかラフィーラが止めようとしたが大賢者ナシリスが問題ないと許可を出し、急ぎ足で店へ向かうリンクス。

 店内に入ると蔓で編まれた籠や布製品なども多くあり、中へと足を進めると古びた剣や槍なども壁に飾られ、宝石も扱っているのかガラスのケースに入れられ輝いている。そんな店内を進み目について商品を手に取るリンクス。


「あった! 竿は……う~ん、強度を考えると竹よりも鉄の竿が良かったが……」


「長年店を開いているけど鉄の竿は見たことがないわよ」


 そう声を掛けられ振り返ると軽くウェーブの掛かった緑色の髪に緑色の瞳を向けて来るエルフがおり、リンクスは口を開く。


「竹の竿だとどのぐらいの強度がありますか? 前にこれぐらいの魚を釣って竿代わりに使っていた枝が折れそうになって」


 両手で一メートルほどのサイズを表現すると店員は微笑みを浮かべる。


「大物だねぇ。それにしても木の枝でそんな大物を釣るとは驚きだよ。その竹の竿はエンチャントしてないからそのサイズは厳しいかもしれないけど、奥にある特注品なら値が張るが強度は十倍以上だけど見るかい?」


「本当ですか! こっちが銀貨一枚だから特注品は銀貨十枚か……」


「必要ありません。耐久度を上げるエンチャントなら私が施しましょう」


 展示してある竿を見ながら悩むリンクスに遅れてやってきたティネントが声を掛け、店主はあからさまに顔を歪める。


「折角の儲けチャンスが……ん? 勇者の娘と賢者ナシリスも一緒とは珍しいねぇ」


「うむ、エルテラよ、久しいの。偏屈な父の姿が見えんが」


 店内を見渡しながらそう口にするナシリス。都内ではラフィーラとメリッサが会釈をする。


「父は町内会の集まりで、母は夏祭りの名物メニューを考えるといって主婦の集まりに……また、奇妙な料理を作らなければ良いけど……」


「エルステルはゲテモノ料理が好きじゃったからの。屋台で売っても誰も買わんじゃろうに……」


「魚の頭を串に刺して油で揚げたときは黒魔術の類かと疑いましたよ……」


「ワシはオタマジャクシをスープに入れて出された事があったの……」


 思い出しながら顔を歪める二人にリンクスは釣り針と糸を選び、鉛で作られているおもりを手にしたところでティネントが半透明の糸を指差す。


「このアラクネの糸は丈夫そうです。これにすると良いでしょう」


「ああ、その糸は水に入れると見えなくなるからお勧めだよ。隣の棚にある疑似餌も最近人気だねぇ」


「疑似餌? おお、羽虫の形をしている! こっちは芋虫も!」


 店員のエルテラの言葉に視線を隣の棚へ向けるとウスバカゲロウのような羽のある虫の形をした釣り針や、ミミズにそっくりな形と色をした疑似餌にテンションを上げるリンクス。


「作り物とはいえ本物そっくりですね」


「うぅぅ、私は苦手なのであちらのコーナーに逃げさせていただきますわね」


「ん? おお、お茶はコーヒーも売っておるの。ワシもそっちを見るかの」


 虫が苦手なラフィーラは大賢者ナシリスと共に茶葉のコーナーへと移動し、リンクスはすう種類ある疑似餌を手に取り自身が住む家の近くにある池でも見かける虫を思い出しながら選び、ティネントは微かに香るハーブの香りに引き寄せられ足を進める。


「これは……」


「それは桂皮シナモンだねぇ。薬として使われたりスパイスして使用されたり錬金術でも媒体にされるよ。仕入れたけどこの辺りの人には人気がなくてねぇ。安くしておくから買わないかい?」


「そうですね……料理にも使えそうですし……ん? この黄色いのはウコンでしょうか?」


「ええ、乾燥させたウコンです。本来は粉にして染料として使われますが、別の国ではそれを料理に使いますよ。勇者さまが取り寄せカレーという料理に最近は使われていますね」


「ケンジが取り寄せたのですか……カレーとはどんな料理なのですか?」


「複雑なスパイスを混ぜたスープのような料理でパンに付けるかライスで食べますね。露店であまり見かけませんが西の商業区には種類の違うカレー屋がありますのでそちらへ行けば食べられると思いますよ。ああ、驚くほどの辛さがあるカレーもあるので注意して下さいね」


 店員のエルテラ説明を聞き昼食はそこで食べようと心に決めるティネント。手にしている小瓶に入ったウコンと桂皮シナモンを持ちレジへと向かい、リンクスも釣り道具を持ち足を進める。


「ここで砂糖も買えるがどうするかの」


 コーヒー豆が入れられた麻袋を持つナシリスにリンクスはレジに商品を置いて向かうと壺に入れられた砂糖の値段を見て苦笑いを浮かべる。


「小さな壺で銀貨十枚もするのか……この壺全部だと手持ちじゃ足りないかもな……」


「私が紹介する砂糖の店なら交渉次第ではもう少し安くなるかもしれませんが……」


「ここで買えば良いじゃろ。足りない分はワシが出すからの。それよりも早くこの豆を使ってコーヒーが飲みたいの」


 ニッカリと笑いながら財布を取り出す大賢者ナシリス。


「その壺全部買うのですか? 流石は大賢者さまです! 今計りますね!」


 レジから飛び出し小走りで向い砂糖の壺を計りに乗せるエルテラ。その瞳は金貨の形をしており大儲けが確定した現状を喜び鼻歌が飛び出す。


「いや~これは大儲けですねぇ~全部で五キロですから砂糖だけで金貨五枚です! 釣り具の方は合わせて銀貨70枚。スパイスは……オマケして銀貨十枚です! 勇者の娘さんの手にしている紅茶は銀貨二枚ですよ」


 大賢者ナシリスが金貨六枚で支払いお釣りを受け取り、買った商品を指輪に収納するリンクス。


「あとはライセンさんから頼まれていた酒と水あめで終わりですね」


「酒? なら隣の店に入るといいよ。夏に向けて新商品を入荷したと言っていたからねぇ~他にもこのグンマー領だけで売っている特別な酒や、女性が好みそうな甘く香りの良いお酒もあるからねぇ~」


「甘く香り高い酒ですか? それは気になりますね……」


「あのお酒は瓶の中に果物が入れてあってね、長い時間を掛けて果実の味を抽出するんだよ」


 ニヤ付きながら丁寧に金貨を集め皮の袋に入れるエルテラ。


「もしかして梅酒かの?」


「あれ、知っていたのですか? 他にも日本酒と呼ばれるものや蒸留して作るウイスキーや焼酎といったお酒ですねぇ~どれもドワーフに人気で王都へ運ばれていますねぇ~」


「他国にも輸出しておるといっておったの」


「そうらしいですねぇ~勇者ケンジさまが色々な食品や酒に事業を起こし、この街は発展を続けていますねぇ~あと百年はこの街で儲けることができそうですねぇ~」


 長寿種であるエルフらしい考えに唖然とするリンクスだが、ティネントはうんうんと頷きエルフよりも長寿である古龍からしたら百年程度は短い時間なのだろう。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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