味噌の買い物と収納の指輪の作り方
一時間程であったか濃い時間を過ごした一行は司祭ロナウドとシスターたちに見送られ教会を後にし、徒歩で繁華街へと向かう。まだ時刻も十時を回ったばかりでひと気はあまりないが店自体は開いている所が多く香ばしく焼ける肉の香りが漂う道を進み、目的地だろう場所を指差すラフィーラ。
「あちらが味噌と醤油を取り扱っている店舗で、隣には塩や香辛料を扱っておりますわ」
若干のドヤ顔を浮かべながら説明するラフィーラ。味噌という単語が出た時点で素早く足を進めるティネントはその説明が終わる前には店へと既に入っており、急ぎ足で追い駆ける一行。
「ですから、味噌と醤油を取り扱っていますがすべてを購入されるのは他のお客様や顧客にご迷惑が掛かってしまうので、おひとり様の購入量を限定させていただいていまして……」
店に入るとあからさまに困っている店員の声が聞こえラフィーラは慌てて向い、大賢者ナシリスは咽返るような醤油と味噌の香りに鼻を摘み、リンクスは物珍しそうに並ぶ大量の壺を見つめる。
「ティネントさま、どうかなさったのですか?」
「こ、これはラフィーラさま!」
「私はあるだけ買いたいとお願いしたのですが、この店員が売れないと」
「あるだけは無理です。商人の方々にも大きな壺を三つまでと規制しておりまして、店内全ての量を買われてしまうと次の味噌や醤油ができるまでにはまだまだ時間が掛かり……」
店員の言葉にラフィーラは鼻を摘まむ大賢者ナシリスへと助けてという視線を向ける。
「うむ、そうじゃの。ワシは外で待っておるからの」
期待していたものとは違う言葉と行動に苦笑いを浮かべるラフィーラ。次にリンクスへと視線を向け、リンクスも理解したのか困っている店員へと近づき口を開く。
「どれぐらいなら買えますか?」
リンクスの言葉に胸を撫で下ろすラフィーラ。ティネントは不満そうだが店員も安堵した表情を浮かべ味噌と醤油の大壺へ手を添えて説明する。
「一番大きな物で銀貨五十枚になります。一般的な家庭の消費量ですとこちらの中壺で銀貨三枚になります。お土産用や冒険者の方々に人気なのが持ち運びしやすい小さなもので銀貨一枚になります。壺などの入れ物を持って買いに来ていただければ壺代は足引かせていただいてますが……」
手揉みしながら説明する店員に皮袋から銀貨を取り出し数えだすリンクス。
「一番大きな物を下さい。ああ、醤油も同じぐらい大きな物をお願いします」
「は、はい! すぐにご用意致します!」
すんなりと話がまとまり店員は慌てて壺に持ちやすいよう縄を巻き始め、口を尖らせるティネント。
「他の買い物もあるのでその量にしましょう。またなくなれば俺が買いにきますから」
「むぅ……リンクスがそういうなら……」
「リンクスさまありがとうございます。次は隣の店で塩や香辛料をお求めになるのでしょう?」
「そうですね。特に砂糖は多く買いたいですね。ライセンさんに頼まれていますから」
「塩もそれなりの量を買わないとです……ん?」
新たな来客があり視線を向けるティネント。商人と思われる男とその護衛だろう冒険者風の数名が店へと入りラフィーラに気が付いたのか会釈をして口を開く。
「おお、これはラフィーラさまではないですか」
「えっと、はい、どうもご丁寧に……メリッサ、この方々は?」
愛想笑いで挨拶し隣に控えるメリッサへと小声でされか確認するラフィーラ。顔は知っているがそれほど交流のない商人なのだろう。
「では、こちらをお持ち下さい。馬車があるのでしたらそちらへ運びますが」
縄できつく縛った子供の身長はありそうな壺を複数の店員と共に持ち上げリンクスの前に置き、リンクスは銀貨五十枚を店員に支払うと指輪で収納し瞬時に消えた大壺を見ていた商人の男は目を丸くする。
「そ、それは!? 指輪が輝き……しゅしゅしゅ、収納が施された魔道具!! いえ、アーティファクト!!!」
大声を上げリンクスが嵌める指輪を指す商人の男。そのリアクションと声の大きさに煩いと思いながらも頷くリンクス。
「もももも、もし宜しければその指輪を売って下さいませんか! 金貨百枚はご用意できますが!」
グイと身を寄せ高速で手揉みする商人の男。
「これは無理です。成人の祝いに貰ったもので、」
「そこをなんとか!」
更に身をグイグイと寄せる商人。リンクスは指輪を送ったティネントへ視線を向ける。
「金貨百枚がどの程度の価値かは理解できませんが、素材が揃っているのなら作る事ができます」
リンクスに助け舟を出すティネント。そして、その言葉に目を金貨に変えた商人が今度はティネントへと身を寄せる。
「そそそ、それは本当ですか!?」
「必要な素材はミスリルと断空鳥の爪と魔石。媒体にギガントバジリスクの心臓と古龍種の鱗に角。高次元結晶の欠片があれば収納サイズが飛躍的に増える」
ティネントが表情も変えずに口にする素材はどれも伝説的な生物の素材であり、中でも最後に登場した高次元結晶は古龍が四頭集まり互いに属性の違うブレスを融合させ三日間掛けて作る人族には限りなく手に入れることが不可能な代物である。
「はぁ~どれもおとぎ話に出てくるような素材ではないか! 商人だからと馬鹿にしているようだがラフィーラさま!」
「は、はい」
「この者たちはどこの貴族ですかな? 私はこれでも王家と繋がりのある……大賢者ナシリスさま?」
激高していた商人だったがナシリスが塩と書かれた壺を五つほど浮かせ店内へと現れ目が点になり、護衛の冒険者は英雄の登場に目を輝かせる。
「王家と繋がりのある商人が大声を出してどうしたというのかの? ほれ、塩は買ってきたからリンクスよ、収納せい」
「五つも買えるほどお金を持っていたのかよ?」
勇者ケンジから受け取った報酬はすべてリンクスが手にしており、手元にお金を持っていないと思ったリンクスの言葉にニヤリと表情を変えるナシリス。
「当然じゃ。人間社会では金が全てだからの。ついでにコショウと流行っておる粉末スパイスも購入してきたからの。味噌と醤油が買えたのなら次へ行くぞ」
マイペースに話をしながら塩の壺をリンクスの前に誘導させ置くと指輪に収納し、それを羨ましそうに見つめる商人。
「あ、あの、本当に先ほどの素材を集めれば同じ指輪を作っていただけるのでしょうか?」
激高していた商人も冷静さを取り戻したのか手揉みしながらティネントに尋ね静かに頷くことで返事をする。
「古龍の爪と角に次元長の爪と魔石にギガントバジリクスの心臓……ミスリルは手元にもあるが……冒険者ギルドに依頼を出すしかないか……大賢者ナシリスさまは高次元結晶というものをご存じでしょうか?」
壺を床に置き終えたナシリスへと問う商人。
「うむ、知っておるぞ。あらゆる可能性を秘めた高魔力の結晶体。扱い方を誤れば山三つ分は塵となる危険なものだが……ティネントよ、お前……」
ティネントにジト目を向けるナシリス。
「そちらの者が収納の指輪の素材が知りたいというので教えただけです。この世界に私以外作れるものなどいないので、素材を集めたら作って差し上げようかと」
「阿呆……作れるよりも素材を集めるのが不可能じゃろうに……はぁ……そういう訳じゃから諦めよ。ダンジョン産の手に入れやすい指輪か袋でも購入するが良かろう」
大賢者ナシリスの言葉にその場で膝を付き項垂れる商人。リンクスは壺を収納し終えると味噌屋の店員に頭を下げ店を後にするのであった。
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