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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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教会へ



 馬車に乗り込み領主館を離れると空は雲に覆われ一雨きそうな雰囲気にティネントは小さな溜息を吐き、同情するラフィーラはピクリと反応する。


「な、なにか不手際がありましたでしょうか……」


「ん? 何かありましたか?」


「ワシは何もないの。ティネントの顔が怖かったのかの?」


 その言葉に更に眉間に深い皺を作り口を開くティネント。


「私だって何もありません。ただ、雨が降りそうだなと……」


「もうすぐ夏が来るからの。どうしてもこの時期は季節風の影響で雨が降りやすいからの」


 絶界と呼ばれる巨大な山を避けるように北からの湿った風が地面の熱で温められ上空へ向かいこの地に雨をもたらすことが多い。グンマー領から南は平原なのだが東西を高い山々に囲まれており、秋には逆の現象で雨が降る事が多く水不足になる事はあまりなく住みやすい環境になっている。


「それでしたら良かったです。こちらに傘のご用意もありますのでご安心下さい」


 ホッと胸を撫で下ろすラフィーラは馬車に用意した傘を手で示す。装飾された傘は貴族以外に商人などが使うことがあるがリンクスやティネントは使ったことがなく興味深げに見つめ、ティネントがその一本を取り確かめるように見つめる。


「傘といいましたか? これはどのように使うのでしょう?」


「留め具を外して柄を持ち推すようにして開いていただければ、でもこの狭いなかで、わあっ!?」


 六人乗りの馬車の中で傘を開くティネント。結果として向かいに座っていた大賢者ナシリスの顔をグリグリと傘の先がめり込み顔が変形するが、傘に入れられた刺繍は見事な桜が描かれそれを見つめるリンクスとティネント。


「これこれ、狭い中で傘を開くでない! 地味に痛いぞ!」


「それは失礼……ですが、綺麗な木ですね」


「桜の木と呼ばれるものだそうです。父が住む世界の木だそうですが現物は見たことがなく……」


「わかったのなら早く傘を閉じよ! 頬に穴が開くわい!」


 傘の内側に刺繍された桜の木に見惚れていたティネントが閉じると頬を右手で擦る大賢者ナシリス。リンクスは笑いを堪えラフィーラも口元を抑えつつ視線を外す。


「見えて参りましたわ。あれが目的地の教会です」


 大通りに面している教会を視界に入れたラフィーラにリンクスも視線を向け大きな石造りの教会を確認する。まだ時間も早く人気があまりないように見えるが数名のシスターが箒を手に掃除をしており、停止した馬車から降りるとラフィーラは頭を下げシスターたちに挨拶をする。


「これはラフィーラさま、それに大賢者さまも!?」


 遅れて降りてきた大賢者ナシリスに視線を向け驚きながらもすぐに頭を下げるシスターたち。奥では子供たちの元気な声が響き孤児たちに勉強を教えいいるのだろう。


「今日はナシリスさまが祈りを捧げに参りましたので案内をしております。礼拝堂に入っても問題ないでしょうか?」


「はい、問題はないのですが近くで子供たちの授業をしておりますので少し賑やかになってしまいますが……」


「うむ、そこは問題ないの。子供たちが元気な方が安心するからの」


 笑いながら話す大賢者ナシリスにシスターは再度頭を下げる。


「少ないですが、どうかお納め下さい」


「これはどうもご丁寧に……では、ご案内致しますのでこちらへ」


 シスターに案内され教会へと進む一行。まだ街自体が新しい事もあり教会内も清潔に保たれ白塗りの壁に染みなどもなく管理されているのだろう。


 足を進めて門をくぐると噴水があり本堂の脇には広いスペースが取られ子供たちが走り回る姿が目に入り微笑みを浮かべる大賢者ナシリスとラフィーラ。ティネントは神聖な空気に目を細め、リンクスも見慣れないものが視界に映るのかティネントと同じように目を細め噴水を見つめる。


「やはりリンクスには見えますか……」


「えっと、あれは精霊の類ですよね。青白く輝いたカエルに見えます」


「水の精霊ですね。他にも石畳の間から多くの土の精霊が顔を出しています」


 ティネントの指摘に石畳へと視線を走らせると頭だけ出した蛇のような姿の土の精霊が顔を向けている。それも数十匹という数の顔があり思わずその場に足を止めて顔を引き攣らせるリンクス。


「どうかしましたか?」


 先を歩くシスターの言葉に精霊が見えていないのだと悟ったリンクスは「な、なんでもないです」と口にしながらシスターの足元に顔を出す多くの土の精霊に視線を向ける。


「精霊には基本触れられないので気にせず踏むといいですよ」


 そう口にするティネントは分かりやすく近くの蛇の頭を踏みつけ、踏まれた土の精霊は地面を泳ぐようにその場から離れ、シスターやラフィーラが足を進めると多くの土の精霊たちも道を譲り左右に避難する。


「ここは水と土の神を祀っておるからの。どうしてもその類いの精霊が集まるの。自然界にも多く存在するがこの地は聖女が清めた事で多くの精霊が集まりやすく、精霊自体がのんびりと暮らしておるの」


「警戒心が薄いのも問題ですね……自然界に住む精霊などは滅多に姿を見せません……」


 視線を強めると一斉に土の精霊たちは逃げ出し足を進めるティネント。ラフィーラはその話を耳にしながら精霊がこの地に多くいるのかと驚きながらも自身には見えないことに多少の劣等感を覚え、馬車を停車し遅れてやってきたメリッサと合流する。


「お嬢さま? どうかなさいましたか?」


 首を傾げるメリッサに「何でもないわ」と口にするラフィーラ。ただその表情は少し赤く違和感を覚えるがリンクスたちが先に進み始め足を進める二人。


 教会内に入ると広い礼拝堂があり正面には大きなステンドグラスが目に入り、その下には美しい女神の像が手を合わせている。他にも柱に掘られた彫刻が目を引き、水や土を現す景色や天使たちが飛び交う姿に巨大な竜を模したものなど様々である。


「本来ならまだ利用時間前ですがその方がゆっくりと祈りを捧げられると思いますので、どうかごゆっくりして下さい」


 そう言葉を残し立ち去るシスター。やや速足で奥へと引っ込み大賢者ナシリスは足を進め女神像の前に片膝を付き、ラフィーラも同じように片膝を付く。リンクスも見様見真似で同じような姿勢になり片膝を付いたところで光に覆われ、顔を起こすと目の前には青い髪をした女神が顕現し慌てて転がるように回避する。


「クソ女神が!」


 そう声に出したティネントは拳を振り上げ真直ぐに走り、女神もそれに気が付き迎い討つ気なのか両腕を前に出して構える。


「我が子の前ではしたない。これだから古龍は品がないのです」


「私の息子に破廉恥にも抱き付こうとする女神など、ただの痴女ではないか!」


 アーマードベアをも一撃で葬った拳を左手一本で逸らし右手でボディーブローを入れる女神。対してティネントもその拳を腹に受けながらも微動だにせず、顔面に右ストレートをぶち込む。


「えっと、ど、どど、どうすれば」


「やはりこうなったか……まわりに被害がでないと良いがの……」


 片膝を付いていたラフィーラが大賢者ナシリスにしがみ付き震え、ナシリスは呆れ顔をしながらゼロ距離で殴り合うティネントと女神を見つめる。

 リンクスも立ち上がり殴り合う二人が発した「我が子」「私の息子」という発言に混乱しながらも、高次元の殴り合いは戦いの参考になるかもしれないと集中して見つめるのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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