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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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今後の予定



 翌日、寝苦しさで目を覚ましたリンクスは身を起こすと見慣れた黄金の毛に大きなため息を吐きつつも優しく撫で揺れる尻尾。幼い金孤たちを起こさないようにベッドから降りるが金色の毛に混じって見慣れない白いパジャマが視界に入り首を傾げ毛布を捲る。


「げっ、ラフォーレ……金孤たちと一緒にベッドに潜ったのか……」


 幼い金孤たちに混じり寝息を立てるラフォーレの姿に唖然とするが見なかった事にして着替えを済ませるリンクス。朝日が昇り切っており宿泊した領主館では多くのメイドや兵士たちが動きまわり朝食の支度や朝の訓練に汗を流している。

 そんな中を歩き外へと向かうリンクスは中庭に到着すると簡単な準備運動を始める。


「リンクスさま、おはようございます。昨晩はよく眠られましたか?」


 そう声を掛けられ振り向くとメイド姿のメリッサがおり会釈を交わす。


「ええ、ベッドが柔らかくてよく眠れましたが……」


 歯切れの悪い言葉に首を傾げるメリッサ。


「金孤たちがベッドに潜ってきて暑くて起きました」


 その言葉に笑みを浮かべ笑い出すメリッサ。


「ふふ、それは大変でしたね。ですが、少し羨ましいです。私が撫でようとするとスッと躱されてしまって……ラフォーレさま以外に気を許していないのか昨日はダメでした……寝ていれば私も撫でることができますでしょうか? できますよね?」


 グイッと身を寄せ話すメリッサに寝込みを襲うのかと若干引きながらもラフォーレも一緒に寝ていた事を思い出したリンクスは口を開く。


「ラフォーレも一緒に寝ていたからリラックスしているでしょうし、撫でられるかもしれませんね」


 その言葉に目を見開くメリッサ。


「そ、それはリンクスさまとラフォーレさまも一緒に寝ていたということでしょうか?」


「一緒に寝ていたというよりもいつの間にか忍び込んで……まずかったでしょうか?」


「不味いというより……領主さまに知られたら……」


 親指を立て自身の首元へと持って行き真横に引く仕草をするメリッサ。絶界で暮らすリンクスでさえその意味を知っており、ギロチンは嫌だなと顔を歪める。


「すぐに回収してきます。この事は御内密して下さい」


 頭を下げ素早く立ち去るメリッサに頭を下げ、そのミッションが上手くいくことを願うのであった。






 朝食は屋敷の一角で勇者ケンジたち一家と共に取り、食べ終わるとその場で拳ほどの皮袋を執事が会釈してからリンクスの前に置き首を傾げる三名。


「それはラフィーラたちを救ってくれた謝礼だ。使いやすいよう全て銀貨にしてあるから中身を確認してくれ」


 勇者ケンジの言葉に紐をほどきテーブルの上に広げ十枚ごとに重ねるリンクス。


「謝礼など気にせんでもよいのにの」


「そういう訳にはいかないだろう。こうした事もきっちりするのが領主だからな。ああ、それとは別で冒険者たちと狩った魔物は昨晩のうちに冒険者ギルドで査定させている。これから冒険者ギルドに行くのなら午後にした方がいいかもな」


 ラフィーラたちが討伐した魔物もそれなりにあり、取り出した魔石や素材などを査定するのにも時間が掛かると口にし、リンクスの指輪に入れてある討伐した魔物はそれなりに解体しているがアーマードベア数頭はまだそのままの状態で保存されており冒険者ギルドに運び入れてもすぐには査定されることがないだろうと気を使ったのである。


「えっと、銀貨が500枚もあるのですけど……」


「ああ、金貨五枚分だ。それだけあれば買い物に困ることもそうないだろう?」


「うむ、そうだな。ドレスを特注で作るような事でのなければ問題あるまい。必要なのは塩と砂糖となんじゃったかの?」


「ショウユとミソに水あめです。それにライセンが求める酒もですね」


「お砂糖はできるだけ多くね!」


「クゥクゥ~」


 目配せするティネントに深く頷くライセン。その横ではキラリが砂糖を求め幼い金孤たちもキャッキャと砂糖を欲しがり鳴き声を上げる。


「お砂糖は甘いのです!」


「ええ、そうね。でも、砂糖だけじゃなく甘いものならクッキーやドーナツというお菓子も売っていますわよ。最近では和菓子と呼ばれるアンを使った甘味なども好評だと聞いているわ」


「和菓子だな。それは俺が作り方を思い出して再現したが、少しだけ違うんだよなぁ……」


「ですが味は保証しますわ。シットリとした甘さは紅茶とも良く合いますし、和菓子は豆などを使い作っているので体にも良いとされているのですわ」


 伯爵夫人であるラフテラの言葉に目を輝かせるキラリ。幼い金孤たちもテンションを上げ尻尾を振り、その中の一匹はテーブルの下を移動してラフォーレの足元へ顔を出す。


「キャ!? えへへ、会いに来てくれました!」


 子供用の背の高い椅子をよじ登りラフォーレの足に頬を擦り付ける幼い金孤。その光景を羨ましそうに見つめるラフィーラ。執事ポールとメリッサは後ろに控えながらもラフォーレに何かあればすぐに飛びつけるよう踵を浮かせ見つめる。


「砂糖はそれなりに高価だが金貨一枚で壺ひとつは買えるはずだ。水あめなら風呂サイズの量が買えるがな」


 そう言いながら笑う勇者ケンジ。キラリは昨晩試しに出され水あめの味を知っているのか表情を蕩けさせ、ライセンはそのだらしない顔に頭を左右に振り呆れる。


「砂糖を買うのにお勧めの店とかありますか?」


「それならラフィーラに案内させよう。ラフィーラは問題ないか?」


「はい、お任せ下さい。リンクスさま方には命を救って頂いた恩もありますし、この街の事でしたら父よりも詳しいです」


 ラフォーレが幼い金孤を抱き上げチラチラと視線を向けながらもリンクスたちの話を聞いていたのか受け答えをし、買い物を付き合うことを了承する。


「あ、教会にも行く予定だからの。先に教会での用事を済ませてから買い物だの」


「教会の場所もしっかりと把握しております。街には三つの宗派がありますが……」


「うむ、女神アクアラさまを祭っておる教会ならどこでもよいの」


「でしたらアバンダート教ですね。案内できると思います」


 そう口にして微笑むラフィーラ。大賢者ナシリスも満足げに頷き、リンクスは積み上げた銀貨を川の袋へと収納しながら今後の予定を頭の中で整理する。


 この後は教会へ行って、砂糖とかの買い物。昼食は屋台で済ませるとして、午後は冒険者ギルドで買い取りの査定だな。これなら明日にでも家に帰れるな。


「クゥ~ン」


「ん? どうした?」


 リンクスの足元に現れた幼い金孤の一匹を抱き上げ声を掛けると目を細め尻尾を振り、膝の上に乗せると甘えるように抱き着かれ、視界の隅で視線を強めるライセン。


「買い物は付いてきちゃダメだぞ」


 甘えた声を上げる幼い金孤だったがその言葉に口をぱっかりと上げて固まり、他の幼い金孤たちも甘えた声を上げリンクスの座る椅子のまわりに集まり抗議の声を上げ始める。


「私も行っちゃダメですか?」


「ダメだぞ。街中は危険がいっぱいだからな。俺もこの後は会議の予定があるし、幼い金孤たちもじっとしていられないだろ?」


 ラフォーレの顔が口を尖らせ我儘を言っている自覚があるのかそれ以上口を開くことはなく、膝に乗せていた幼い金孤も尻尾を丸め情けない声を上げながらもラフォーレを慰めているのか額をグリグリと頬に擦り付ける。


「留守番ができる良い子には私がお菓子を作ってあげるわ。とっても甘くて美味しいお菓子よ」


 そう口にする伯爵夫人であるラフテラに幼い金孤は目を輝かせ、キラリも同じようにパッと笑顔へと変わり、凹んでいたラフォーレも顔を上げて笑みを浮かべるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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