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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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リンクスと酒事情



 冒険者たちの声をBGMに領主ケンジと大賢者ナシリスにティネントはグラスを傾け料理を口にしていた。皆が集まる席から少し離れた場所にテーブルを用意させたこともあり話し掛けて来る者はおらず、更に執事のポールが人を近づかぬように目を光らせている事もありメイドたちですら足を向けない空間ができている。


「リンクスはどうじゃったかの? 魔術はワシが、近接戦闘と体力作りはティネントが面倒を見て育てたがの……はふはふ、この肉は美味いの」


 湯気を上げる肉串を口に運びハフハフと息を漏らす大賢者ナシリス。隣ではワインを口にして眉間に深い皺を作るティネントだったが、ナシリスと同じように肉串を口に入れ味に満足したのか目を閉じて味わうように口に運ぶ。


「実力についてはある程度見せさてもらったよ。そもそもアーマードベアを単独で討伐できる戦士にダメだしする馬鹿はいないだろ。ただ、気になったのは水球以外の魔法は使わないのか? アレは水魔法の中でも初歩となる魔法だろ?」


「うむ、その通りだの。リンクスの出生に立ち会ったのならわかると思っておったが……リンクスは特殊で水魔法なら自身の魔力量を無視し行使できる。水球なら一度に数百という数を浮かべて見せたからの……

 ただ、行使できるのと制御できるのは違うように、制御に失敗すればその場でコントロールから解放された魔法は発動したりあらぬ方へ飛んで行ったりするからの。それを中級魔法である水槍で発動させ隣の山に大穴を開け初級以外は使用禁止にした。ティネントもそれが良いと言っておったしの」


「私もそれで良いと思いますが……そうですね。後十年も修行すれば中級だろうが上級だろうが特級だとうが、ナシリスが魔術を教え制御できるようになれば問題ないでしょう。

持って生まれた才能……才能と呼ぶには大きすぎる器を持って生まれたのです。暴走せぬよう大人が面倒を見て正しき心を持つよう育てれば良いだけの事です……

 それよりもこの味付けは醤油ですね? 甘さは砂糖とは少し違う気もしますが大変美味です。買って帰っても?」


「ああ、甘みは砂糖ではなく水あめを使っている。デンプンを酵素で分解して糖化させて甘さにしているから砂糖とは違い液体なんだよ。って、料理の話よりもリンクスの事だろう。リンクスに問題がないのならラフィーラの婿にと思ったが……」


 腕組みをしながら悩む素振りを見せる領主ケンジ。大賢者ナシリスはそれもありかと賛成的な表情を浮かべ笑い声を上げ、母役のティネントは先ほどと同じように眉間に深い皺を作る。


「リンクスにはもっと強く根性のある雌でなければ私が許可を出しません! あんなに優しい子に育ったリンクスを婿に出すというのもあり得ませんし、もしリンクスが暴走した時にそれを抑えられるぐらいの実力者でなければ……あと、ここの酒は尖っていて美味しくありませんね」


 口にしていたグラスをナシリスに押し付け、自身はアイテムボックスの魔法を使いラベルのない酒瓶を取り出すと封を開け新たなグラスに注ぎ入れ口にする。


「何前年も酒を作り続ける古龍の腕と比べたらな……それでも蒸留酒は飲んだことないだろ?」


 そう口にしながら未開封の瓶を開けグラスに入れ二人へと差し出す。薄い琥珀色したそれはこの街ができた当初に仕込んだもので十五年の歳月を寝かされたウイスキーである。


「カァァァァァー強い酒だの。ワシは嫌いではないが、ドワーフ共が気に入りそうな強さだの」


「寝かせ足りないですね……蒸留とは酒を沸騰させ蒸気となった酒を集め強い酒を作る技術ですね。私もその方法を使い数種類の酒を作っています。樽の種類が悪いのかまだまだ香りが立っていませんね」


 二人は差し出されたウイスキーを口に運び感想を述べ、ティネントはアイテムボックスから違う瓶を取り出して封を開け新たなグラスに注ぎ入れ二人に振舞う。


「それは世界樹の幹を樽にして蒸留した酒と世界樹の実を漬け込んだ酒です。無駄に甘みのある世界樹の実を酒に漬けることで酒自体にも甘みと香りが付き飲みやすいでしょう」


 入れられたグラスを自然に口にしていた勇者ケンジと大賢者ナシリスは説明の中に出てきた世界樹という単語に吹き出しそうになるが手で押さえ堪え飲み込む。


「お、お前、世界樹の実を酒にするとか!?」


「樽も世界樹を使ったと……これだから凝り性のティネントは……」


 呆れながらも手にしていた酒を口にする二人に、これ以上飲ませてももったいないと思ったのか自身のグラスに入れ口にするティネント。


「少し梅酒に似ている気もするが鼻を抜ける香りが素晴らしいな。あとで俺が付けた果実酒も土産に渡すからな。これと比べたらイマイチかもしれないが、妻やメイドたちには好評なんだぞ」


「ワシはどの酒も美味く感じるの。最後に飲んだ酒が別格だということはわかるが、この街は美味い料理に溢れているの。ほれ、ライセンも冒険者と一緒になって酒を飲み踊っておるぞ」


 普段は近寄りがたい空気を出しているライセンだが酔っぱらったのかコボルトの冒険者たちと肩を組み騒いでいる姿にティネントは呆れた視線を戻し、勇者ケンジが手元に寄せていた世界樹の酒を自身のグラスに並々と注ぐ姿に舌打ちを打つ。


「ケンジは自身の村で作った酒を飲めばいいでしょう」


「そういうなよ。この世界中を探してもこれを越える酒は存在しないと言い切れる味だからな。飲める時に飲んでおかないと後悔するだろ」


「ケンジもドワーフのような事を言うでない。素直に美味いから欲しいと言えば良い」


「ああ、確かに美味い! 美味すぎる! そうだ! 去年作った日本酒もあとで持たせるから飲んでくれ! 日本酒こそ俺の故郷の酒だからさ」


 世界樹の酒を注ぎ入れ口にするケンジ。酒瓶を取り戻そうと手を伸ばすがその手は空を切りナシリスが自身のグラスに注ぎ入れ、ティネントの眉間には血管が浮かび上がる。そこへ見張りをしていた執事のポールが酒瓶を持ち現われ口を開く。


「日本酒ならここにご用意があります。封をお開けします」


 酒瓶を片手に優雅に一礼したポールは慣れた手つきで封を開けテーブルに置き元の位置に戻ろうとするが、ケンジが呼び止め新たなグラスに世界樹の酒を注ぎ入れる。


「ポールも折角だから一杯どうだ? この世界で確実に一番美味い酒だぞ」


「私が作った酒の中でも五本の指に入る完成度です。多少魔術的効果もありますがグラス一杯程度なら問題ないでしょう」


そう口にするティネント。ケンジとナシリスの体が若干光を帯び魔術反応が起こり始め顔を引くつかせる二人。


「おいっ! これって!」


「うむ、世界樹を使ったのだったの……まあ、カップ二杯程度ならそう強い反応が起こる事もあるまい……ないよな?」


「少し若返り健康になるだけです。取り乱すこともないでしょう」


 さも当たり前に口にするティネントにケンジは口をあんぐりと開け固まり、ナシリスは顎に手を当て自慢の髭がなくならないか心配になるが手には髭の感触が残り、薄っすらとした輝きが治まる。


「自分ではどれほど若返ったかわからんがどうかの?」


「くそジジイだと思いますよ」


 二人のやり取りに吹き出して肩を揺らし、どうせ飲ませるのなら妻に飲ませたいと思いながらも有り難く頂戴し、光に包まれ二歳ほど若返り特に見た目も変わらず胸を撫で下ろす結果となったポールなのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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