ティネントの正体とヒドラを回収
ティネントとリンクスが消え唖然としていたが、ラフォーレがカットされたリンゴに似た果実を口に運びその味に笑顔になり、膝に乗っていた幼い金孤から自分も欲しいという鳴き声に皆で我に返る。
「えっと、えっと、果物あげてもいいでしゅか?」
幼い金孤たちの母であるキラリにそう口を開くと笑顔で「ええ、もりろん」と許可をし、お皿から木苺を手に取り膝に乗る金孤へ「あ~ん」と言いながら餌付けするラファオーレ。
「クゥクゥ」
一口サイズの木苺を口に入れ尻尾を振る幼い金孤。下では自分たちも食べたいと鳴き声を上げ椅子に前足を掛けて立ち上がる。
「みんな食べたいのです! あわわわ、忙しくなるのです!」
慌てながらカットされたリンゴや木苺に葡萄を手にして口を開ける幼い金孤たちへ餌付けし、大賢者ナシリスは紅茶を口に入れ、勇者ケンジもリンゴを口に入れシャリシャリとした食感を楽しみ、動き出したラフィーラやメリッサはティネントが飛び去った方角からテーブルへと視線を戻す。
「あ、あの、ティネントさまが空を飛んだように見えたのですが……」
「塀の近くではリンクスさまも水飛沫を上げて飛んで……」
一瞬にして飛び去った二人を視線で追っていた二人がそう口を開くと大賢者ナシリスは葡萄をひとつ口に入れ皮ごと咀嚼し飲み込む。
「うむ、厳密には飛んでおらん。強靭な脚力で塀を飛び越えたのだ。リンクスはケンジが教えた水面を板に乗って移動する方法を陸でも使えるように工夫した……なんじゃったかの?」
「サーフィンだな。サーフボードという板で波に乗る遊びの一種だな。遠目で見えたが水流を足元から出して推進力にしていたな。ああも見事に乗りこなすとは思ってなかったが……」
「ずっと池で練習しておったからの。水を嫌うペプラが楽しそうに水に入り波に乗っておったの」
その言葉に顔を引き攣らせる勇者ケンジ。
「ペプラ? ペプラ様とはいったい?」
「ペプラは風を司る古龍だの。ティネントは地を司る古龍。北の白き魔王に向かう際にワシらの願いを聞いてくれた古龍で、ティネントがいなければ北の地に向かうこともできなかったの」
昔を思い出すように腕を組み空を見上げながら言葉にする大賢者ナシリス。
「ああ、ティネントのお陰だな。すべてを凍らせるようなブレスからも庇ってくれたしな……ん? どうした?」
大賢者ナシリスと勇者ケンジの話に顔を青くする二人。ティネントが只者ではないと思っていたが古龍という伝説上の生物だと知りその強さに納得するも、そんなティネントに稽古をつけて欲しいと頼んだ事を思い出して顔を青くしたのである。
「いえ、ティネントさまに稽古をつけてもらう約束を……」
震えながら口を開くラフィーラ。ラフィーラの後ろに立つメリッサも同じように震えながらも大賢者ナシリスのカップが空き紅茶のおかわりを用意しようと足を進め父であるポールに止められる。
「ここは私がやるのでお嬢さまの後ろへ」
「は、はい……」
素直に下がるメリッサ。
「まあ、ティネントと一度稽古を付けてもらうのも良い経験になるかもな」
「うむ、リンクスは普段からティネントと体力作りに接近戦のトレーニングをしておるからの」
「接近戦のトレーニングですか? 彼は魔術士ではないのですか?」
水球を大賢者ナシリスと打ち合っていたことや無詠唱をしていたのを思い出し口にするラフィーラ。
「魔導士だから近接戦闘ができないと限らん。腕の立つものは魔法と何かしらの戦うすべがなくてはの。魔力が尽きたと戦わなければ絶界では生きて行けんからの」
「体力がなくても同じだな。魔導士は体力があまりないイメージがあるのが普通。でも、確りと走って戦場を移動できる魔導士なら、それこそ脅威になるだろう。最後のものをいうのは魔力であり、体力であり、戦術であり、奥の手だ」
大賢者ナシリスと勇者ケンジからの言葉を受け静かに頷くラフィーラ。自身も剣の腕に自信があるが魔法に関してはあまり得意ではなく、専属メイドであるメリッサはどちらも器用に扱いアーマードベアを三頭も一度に相手をしたのである。
「はうっ!? そんなに一度に来られては手が足りません」
二本足で立ち大きく口を開け膝にすり寄る幼い金孤たちからのあ~ん待ちに、あわあわと困りながらもせっせと果実を口に入れるラフォーレなのであった。
「十四本ですか」
「最後の方は首も細くなっていましたね……はぁ……」
ヒドラの首を狩り続け再生できなくなるのを確認すると黄金に輝かせた手刀で一気に首があった根元を立てに振り下ろし、その巨体を切り裂き衝撃波は尻尾の先まで真二つにし、更には川を切り裂き対岸にそびえていた岩をも余波で二つに分け、リンクスが血の海に横たわるそれらを回収する。
「首は十四本でしたが尻尾も三回再生したな……何度か危ない一撃を貰いそうになったので助かったよ」
「ええ、その心算で狙いました。尻尾は煮込まなくては固く筋っぽさが残るのであまり好きではありませんが、三本ですか……」
「俺はティネントさんが前に作ってくれた尻尾のスープ好きですよ。筋が軟らかく煮こまれて独特の食感で美味しかったです」
その言葉に真顔だった表情が柔らかくなり「なら、それを作りましょう」と口にすると血の臭いに集まって来た狼たちに睨みを利かせる。
「アーマードベア並の魔石ですね。色が濃い白です」
「ヒドラの魔石は神聖魔法や修復といった回復系の効果があり、使い方次第では腕を失っても新しいものを生やすことができます。大切に取っておきなさい」
指輪でバスケットボールの二倍はあるヒドラの魔石を収納しながら、それで首や尻尾を何度も再生できるのかと思案するリンクス。以前にもティネントやナシリスと一緒にヒドラを狩ったのだが、その時は魔石が粉々に粉砕されティネントとナシリスがちょっとした言い争いになり魔石の説明どころではなかったのである。
「ふぅ……この辺りの血は川に流しても問題ないですよね?」
「ええ、問題ありません。ヒドラの血には毒はありませんから浄化する必要もないでしょう」
リンクスが確認を取って魔方陣を浮かべ水球ではなくホースで水を撒くような水流を発射させコンプラに引っ掛かりそうな血だまりを川へ向かって洗い流す。この魔法は初級の水魔法で水流と呼ばれ主に畑などに水を撒く魔法で、込める魔力によってはその勢いが増す特性がある。先ほどまで使っていたサーフボードの後ろから噴射させ推進力に使っていたのもこの魔法である。
「よし、これで大丈夫だな。うへぇ、この川は肉食魚ばっかりかよ」
血を川へと流した水面は荒立ちナイフのような牙を持つ魚や頭がワニで体が魚な怪魚が見え、釣り好きのリンクスからしたら針や糸を簡単に切り裂きそうな見た目に嫌悪感を示す。
「肉食魚が多いのは餌が豊富ということです。それにこの川は絶界から続いているようですから凶悪な魚も多いのでしょう。行きますよ」
ティネントの言葉に置いていたサーフボードを手に取るリンクスは魔法を発動し、魔力を多めに込めた水球にボードを掛けると左足を前に乗せ右足で勢いを付けながら乗り込み、二本の水流を発動しスピードに乗るのであった。
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