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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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説教とラフォーレ



 やって来た伯爵夫人であるラフテラと執事のポールの前に正座するケンジとラフィーラとメリッサ。正座は話を聞く姿勢で反省するときになど使用されるとケンジが広め、地面に正座する三名に説教を続けるラフテル夫人。


「あれは長そうだだの……」


 五分ほどの時間が経過したが終わる様子を見せず気まずい空気のリンクスたち。ただ、リンクスは膝を折り幼い金孤たちに囲まれワシワシとサラサラな毛並みを撫でている。


「可愛いです……触ってもいいです?」


 説教を見ていた幼女はトテトテと幼い金孤たちに興味が湧いたのかリンクスの目の前に現れ許可を求め、世話役だろう背の高いメイドの『巨剣』が慌てて抱き上げる。


「ラフォーレお嬢さま、ダメですよ。幼く可愛いように見えても金孤は危険です。大賢者ナシリスさま、お久しぶりです」


「うむ、『巨剣』も来たとなると領地の方が心配になるが大丈夫なのかの?」


「そこは問題ありません。後継者たちも育っております。まあ、メリッサも今回の事で成長するでしょうし……」


「うむ、どちらも今後が楽しみではあるが、この嬢ちゃんもケンジの娘かの?」


 その言葉に抱き上げられていた幼女は手を上げて元気に自己紹介を口にする。


「はい! ラフォーレでしゅ!」


「うむうむ、元気があって良いの」


「えへへ、おじいちゃんは大賢者たま?」


「うむ、そうじゃぞ。ケンジと共に魔王を倒した大賢者ナシリスじゃ。隣にいるメイドはティネント。狐に囲まれておるのがリンクスで、後ろの二人は狐たちの親でライセンとキラリじゃ」


 紹介されたティネントはラフォーレに興味があるのかその瞳を見つめ、リンクスは片手を上げて軽く挨拶するがその腕に飛び付く幼い金孤。ライセンは軽く頭を下げ、キラリは一歩前に出てラフォーレと『巨剣』を見比べる。


「リンクス以外に幼い人族を見たのは初めてね。こっちも可愛いわね」


「ふわぁ~可愛いですか?」


「ええ、可愛いわよ。私の娘たちも可愛いでしょ」


 その言葉にリンクスに群がっていた幼い金孤たちの動きがピタリと止まり顔をキラリとラフォーレへと向ける。


「可愛いでしゅ! キラキラさんでしゅ!」


「キラキラさん?」


「はい、毛がキラキラしてて、キラキラさんでしゅ!」


 元気に答えるラフォーレに優しい笑みを浮かべるキラリ。メイドの『巨剣』はどうしたのもかと大賢者ナシリスに視線を向けて助けを求め、向けられたナシリスは孫を見るような瞳で微笑んでいる。


「クゥ~ン」


「ふふ、この子たちも貴女が気になるみたいね。優しく撫でられるかな?」


 キラリの提案に目をキラキラと輝かせるラフォーレ。


「敵意がないのなら問題ないじゃろ。ほれ、地面に下ろしてやりなさい」


「で、ですが……はい……」


 ナシリスからの言葉に動揺しながらも『巨剣』はゆっくりとしゃがみラフォーレを地面に下ろす。


「ラフォーレでしゅ!」


 大きな声で挨拶しペコリと頭を下げ、幼い金孤たちは驚き一斉にリンクスとキラリの後ろへと隠れる。が、すぐに足から顔を出して様子を窺う。


「急に大きな声を出すと驚くからな。挨拶はそのぐらいで、手を前に出して向こうから近づくのを待ってみな」


「こうです?」


「ああ、そんな感じだ。少し待っていればきっと、ほら、やっぱり興味があるから出て来るな」


 恐る恐るといった感じで数歩前に出る幼い金孤の一匹。ゆっくりと尻尾を振り近づくそれに目を見開きワクワクを抑え込むラフォーレ。


「フサフサです……」


 今度はちゃんと小さな声で差し出した手に頭をグリグリと押し付ける幼い金孤の毛並みの感想を口にし、一匹が撫でられ安全だと思った幼い金孤たちは一斉に群がりキャッキャと喜び、それを見ていたティネントは目を細めて口を開く。


「この子にはテイムの才能があるのかもしれませんね……」


「うむ、純真で幼い事もあるかもしれんが、警戒心の強い金孤の幼体に好かれるには何かしらの理由があるのかもしれんの」


「テイムの才能……大昔に我らの祖が人族と共に旅をしたと聞いたことがあるが……」


 腕を組み難しい表情を浮かべ口にするライセン。キラリは幼い金孤を撫でるラフォーレの頭を優しく撫で、それを視界に入れた姉であるラフィーラはまだ説教が終わっておらず心の中では妹であるラフォーレの現状を羨むのであった。






「みんな可愛いです」


「クゥ~クゥ~」


 飽きることなく撫で続けるラフォーレと撫でられ続ける幼い金孤たち。かれこれ三十分近く撫で続けており、もう先を急ごうかという視線をナシリスへと向けるティネント。リンクスはラフォーレと共に撫で続けてはしゃぐ金孤たちの中にはウトウトとし始めるものもおり、母であるキラリが抱き上げる。


「寝てしまいましたか?」


「ふふ、そうね。今日はいっぱい歩いて疲れたし、貴女の撫で方が良かったのかしらね」


 撫で方が良いと褒められたラフォーレは笑顔を浮かべて喜び、手元で撫で待ちをする幼い金孤を抱き上げる。


「あら、ラフォーレもお姉さんみたいに見えるわね」


 説教を終えた伯爵夫人であるラフテラが現れ抱き締めるように幼い金孤を抱くラフォーレへ微笑みを向け、その後ろにはガックリと肩を落とす三名の実力者たち。更にはロマンスグレーの凛としたポールが続き微笑みを向ける。


「ラフテラよ、説教するのはかまわんが長すぎだの。要点をまとめ説教するように前にも助言しただろう」


「ええ、まったくその通りだと思いますわ。でも、普段からいい加減なところのある夫に伝えたい思いが溢れてしまいましたのよ。勇者として召喚された夫は貴族社会のルールや領地を治める重要性や教育に対する姿勢がアレですから……おほほほ」


 ジト目をケンジに向け口元を隠して笑うラフテラ。ケンジは顔を引き攣らせ、隣で同じように説教を受けていたラフィーラとメリッサも同じような表情を浮かべる。


「母さま、キツネさんが可愛いです! みんな尻尾が多いです! サラサラです!」


「本当に可愛いわね。ラフォーレに抱き付いて愛らしいわ。リンクスちゃんと会うのは初めてだったわね」


 ラフォーレの横で我関せずと幼い金孤を撫でていたリンクスへと視線をロックオンしたラフテラに、ビクリと体を震わすリンクス。


「は、はい、ケンジさまとは冒険者ギルドや小さな時に会うことがありましたが、リンクスと申します」


 立ち上がり一礼し自己紹介をするリンクス。ケンジとは数回会いその実力も理解しているリンクスはケンジから色々と貴族社会のしがらみや愚痴を聞き「ラフテラだけは敵に回すな」と言われていた事を思い出し丁寧に自己紹介を行う。


「そう警戒しないで下さい。先ほどあなた方がラフィーラやメリッサたちを救ったと夫から聞かされましたわ。本当にありがとうね。賢者さまにティネントさまや金庫族の方々も感謝いたしますわ」


 丁寧に頭を下げるラフテラに、貴族の中には傲慢な者が多いや平民を人だとは思わない連中もいるという大賢者ナシリスの言葉を頭に浮かべていたリンクスはこの人は違うタイプの人なのかと理解する。


「ふふ、助けたのはこの子たちが勝手にしたのよ。リンクスが大好きで襲われていると思ったのね」


「私は礼など不要。それより金孤はこのまま街まで付いてくる気か?」


「流石に街までは付いては行かぬ。リンクスがこの村を出る際に我らは山へと帰るから、砂糖を頼むぞ」


 真剣な表情で買い物を頼むライセンにリンクスは頷き、足元の幼い金孤は別れが近いと知り「クゥ……」と悲しそうな鳴き声を上げるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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