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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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爵位とシモン



 解体した素材やらの回収を終えたリンクスたちは勇者であるケンジの案内で高い城壁が見える村へと足を運ぶ事となった。


「あの村はまだ村としての機能していないが、絶界から漏れた魔物の討伐や巨大な麦畑の管理などをする村にする予定だよ。もし良かったらナシリスが治めてくれたら嬉しいけど……」


 隣を歩くナシリスの様子を窺うように視線を向けるケンジ。


「そんなの断るに決まっておろう。領主など面倒事はワシには向いておらん。魔王討伐だって騙されて協力したようなものだしの」


「なら、リンクスはどうだ? 領主になれば書類仕事だけでゆっくりとした生活ができるぞ」


 今度はリンクスへと視線を向けて口を開くケンジにリンクスは頭を横に振る。


「自分は今の生活が一番です。暇な時に池に行って釣りをするのが好きですし、金孤たちと遊ぶのも楽しいですから」


「クゥ~」


 名を呼ばれたのが嬉しいのか、それとも確りとリンクスの言葉を理解しているのか鳴き声を上げる幼い金孤たち。


「ふふふ、子供たちもリンクスがいなくなると寂しがるわ」


「我らでは人族のルールがわからんからな。リンクスには今までのように人族の商品を届けて欲しい」


 その言葉にガクリと肩を落とすケンジ。そんな話をしていると重厚な門が開き兵士や冒険者が現れ警戒した様子で槍を構えるが、現領主であるケンジの顔にピンときた兵士たちが槍を戻して頭を下げる。


「領主さま!? どうして森側から!!」


「やはり見間違えではなかったぞ! 英雄であるケンジさまが来訪されているぞ!」


「あちらは大賢者ナシリスさまもっ!?」


 兵士や冒険者が勇者と賢者の存在に盛り上がり、その声に驚いた幼い金孤の子たちはリンクスと母であるキララの下へと走り身を隠す。


「お前たち、金孤族の子たちが驚いておる。ケンジが来たことを喜ぶのは良いがもう少し静かにせい」


「そうだぞ。俺であっても止められない存在はいるからな。金孤族も手強いが、それ以上の存在もここにいるからな。持ち場に戻れ~」


 兵士や冒険者にそう告げると盛り上がっていた声はぴたりと治まり持ち場へと戻る男たち。多くの人族が戻る姿に幼い金孤たちも安心したのかリンクスから降りる尻尾を振り、ティネントの眉間のしわも解消し、ホッと胸を撫で下ろすケンジ。


 門の内部には開けた場があり閑散としているが二階建ての建物が数軒建てられ非番の兵士だろう男たちが大欠伸をしながら中へと帰り、冒険者ギルド(仮)と書かれた建物からは冒険者が静かにケンジたちを見つめ、馬車に荷を乗せている兵士たちの姿もある。


「領主さま! 本当に領主さまが……ううぅぅぅ……」


「ご苦労! ラフィーラが重症と聞いて駆け付けたが無事なようで安心したよ。お前もこれほどの砦を築いてくれ感謝する」


 一軒の家から出てきた男はケンジからの言葉に泣き崩れ嗚咽を漏らし、ケンジはそんな男の背に手をまわし立ち上がらせる。


「あの方はこの建設予定地の責任者でシモン。商家の三男で父が引き抜きこの村を収める者の片腕として育てているそうです」


 ラフィーラの説明に口を開くナシリス。


「彼にこの村を任せれば良かろうに……」


「それはそれで問題があるのです。引き抜いたとしても商家との癒着があると判断されれば父に疑いの目が向き、商家の方にも……ですので、片腕としての地位しか与えられないのです。その為、この村を収めるのに必要なのは強さと兵士や冒険者をまとめる才能やカリスマがなければなりません。村の運営自体はシモンがしますので強さやカリスマ性のある方を父が探しているのです」


「なるほどのう……貴族社会は相変わらず面倒だの」


「はい、私は自由にやらせていただいておりますが、兄は色々と苦労しているようです」


「爵位を継ぐのは責任が伴うからの……我は魔王討伐に出る際に爵位を返上し旅に出たが、討伐したらまた爵位を送るといわれたの」


「いわれたの。じゃねーよ! 領地はなくても立派な男爵さまだろうが! ほら、シモンもいい加減に泣き止め」


「は、はい……ぐすっ……」


 まだ成人したばかりのシモンは商家の三男に生まれ、長男が店を継ぐ事を約束され次男が支店を任されたがシモンには継ぐものがなくやさぐれ、街でフラフラしていたところをケンジに拾われたのである。商家の兄たちよりも知識や商才などもあったが昼間から酒を飲み問題を起こすこともあったが、噂を聞いた勇者という肩書のあるケンジから新たな村を作る手伝いをして欲しいと頼まれ、涙を流しながら了承したのである。


「爺ちゃんが男爵とかはじめて聞いたな」


「領地の決まってない男爵などただの名誉職だの。授爵の為に王都へ来いとか令状を受けたが断ってやったわい」


「それって不敬罪じゃ……」


 リンクスからのジト目を向けられるが、ふんと鼻息を荒くしそっぽを向くナシリス。


「まったくだ。北の魔王の討伐を報告しに一人で行った俺の気持ちも知らないで……レレネもいつの間にか姿が消え書置きだけを残して……はぁ……」


 泣き止んだシモンを立たせながら愚痴をこぼす勇者ケンジ。当時は北の魔王を討伐し大歓声に包まれ凱旋したが国王の前での報告するケンジはパーティーメンバーから仲間が皆外れ面倒事をすべて負う形となり大変な思いを経験したのである。特に三名いた仲間の戦士は魔王との戦いのなかで命を散らし、レレネと呼ばれた武道家は討伐後の宿屋で姿が消え、賢者ナシリスは魔王を討伐したこの地に残り、勇者ケンジの共としてついて身の回りの世話や野営の安全確保などをしてくれた数名の兵士たちだけで国王に報告したのである。


「それは貴方に人徳がなかったのでしょう……ぷっ」


 口元を隠しながらも吹き出すティネント。額に大きく血管を浮き上がらせるケンジ。


「ほらほら、ティネントさんは喧嘩を売らないで下さい。おっ、あっちの門が開きましたよ」


 村というよりも高い壁と開けた場所に数軒しか家がない広場の入口は二つあり、リンクスたちが入って来た門とは逆の門が開き数台の馬車が現れ苦笑いを浮かべるケンジ。馬車には紋章旗が掲げられ竜と二本の剣が交差したものでありこの領土を収めるケンジ・アレ・グンマー伯爵家のものである。


「あれはケンジさまの紋章旗ですが……」


 まだ赤い目をケンジへと向けるシモン。娘であるラフィーラは顔を引き攣らせ、専属メイドであるメリッサも馬車から降りて来る人物を見てスッと気配を消し主であるラフィーラから離れる。


「貴方っ! 大事な会議があるのに堂々と逃げ出すとはどういう了見ですか!」


 執事に手を添えられ馬車を降りた金髪の美しい夫人からの言葉に姿勢を正す勇者ケンジ。


「メリッサもお嬢さまを危機に晒したと報告を受けましたが……」


 一瞬にして気配を消していたメリッサの肩を掴む執事のロマンスグレーの男に声にならない悲鳴を上げる顔色を青くするメリッサ。


「あの男……相当な実力者ですね」


「うむ、あれはメリッサの父でポールという元は冒険者をやっておった『影狼』だの。ケンジの家の執事をしておる」


「気配の消し方が卓越しています……」


「冒険者時代は調査を得意で闇に紛れ、ん? 『巨剣』も来たのかの」


 馬車から降り女性にしては背が高いメイド服を纏った女性に視線を向けるナシリス。馬車から降りると金髪の幼女を抱き上げ視線を走らせ、メリッサとポールの下へとゆっくりと足を進める。


「おねぇた~ま~」


 やや活舌悪く叫び手を振る金髪幼女の登場に場の空気が緩むが、ケンジとメリッサの顔色は天敵を前に暫く戻る事はなさそうである。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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