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水遊日和  作者:
第一章 塩を買いに街へ
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解体終了



 領主兼勇者が飛んで現れたことで冒険者たちは伝説の勇者一行の二人が揃い盛り上がり兵士たちにも緊張が走ったが、兵士長がテントから出て事情を説明すると勇者と言えど親心は一緒なのだと理解し解体作業へと戻る。


「なあなあ、リンクスがすげー魔法使いだってことは理解したが、本当に王都へは買い出しだけなのか?」


「リンクスさえ良ければ一度パーティー組もうよ」


「俺らはみんな魔法とか使えないから憧れているんだよ!」


 『月の遠吠え』たちからの誘いに苦笑いを浮かべ「悪いな」と断り解体作業を続けるリンクス。そのやり取りを解体しながら見つめる他の冒険者たち。大賢者ナシリスの弟子という肩書とそれに見合った実力を早朝に見た者たちからしたら、縦横無尽に飛び交う水球が眩しく見えたのだろう。


「やっと一匹終わったな。アーマードベアは肉が硬く食用に向かないが、内臓とかは美味いんだよな~」


「それなら勇者さまが開発した味噌ってので煮込むと絶品だぞ!」


「味噌で焼いても美味いよね!」


「前に街で進められたが見た目がアレで食べなかったが、そんなに美味いのか?」


「私も興味があります」


 リンクスと冒険者たちの会話にティネントがグイと身を寄せ話題に入り『月の遠吠え』のリーダーは口を開く。


「えっと、見た目は牛糞のような色味ですが豆を発酵させた調味料で、煮ても焼いても美味いんですよ。現物もありますが見ますか?」


「是非!」


 更にグイと身を寄せるティネント。彼女の実力を体験したこともあってか「すぐに持ってきます!」と走り出すリーダー。自身のテントから味噌を入れた竹の筒を取り出すと走って戻り蓋を開けて渡す。


「独特の香りですね。リンクスが言うように前に街へ行ったときに近い香りを体験した気もします……」


「他にも醤油やミックススパイスなんてのも街では流行っているね。冒険者のなかじゃ塩よりも重宝している奴は多いよ」


「ミックススパイスは少し高いが肉に振りかけて焼くと、塩と胡椒に香草が入っているから美味いんだよな!」


「野営するときに重宝しますね。それに遠征するときは必ず持って行くよね」


「ああ、そうだな。骨を煮込んで出汁を取り、乾燥させた葉野菜やその日捕れた鳥の肉とか入れると上手いスープに仕上がるな」


 『月の遠吠え』たちと話題が盛り上がり、近くにいた冒険者たちも会話に加わり味噌や醤油にミックススパイスの情報を手にするティネントは「これらも買って帰りましょう」と口にする。


「そうなると値段が気になるが、アーマードベアの取り分とか決めてなかったよな?」


 リンクスの言葉にティネントが頷くが『月の遠吠え』のリーダーが肩をすくめて口を開く。


「取り分も何もないだろう。こっちは助けられた側で、倒したのもリンクスたちだろ。分ける必要なんてねーよ」


「ああ、傷を負わせることすらできなかったからな」


「勇者の娘のお付きのメリッサさまが健闘してたが、どれも致命傷にはならなかったからね。文句を言って気くるような冒険者がいたら私らが冒険者ギルドに訴えてやるよ」


 そう口に出してまわりを見渡すコボルトの女冒険者。目があった冒険者は頷く者と目を逸らす者に別れたが「ありがとうございます」とティネントが声に出すとコボルトの女冒険者は自身よりも明らかに実力が上の存在からのお礼に恐縮したのか尻尾を丸める。


「味噌と醤油は壺で買っても銀貨数枚だろうし、ミックススパイスは銅貨五枚ぐらいだぞ。コショウをそのまま買うよりも安いからお得だぞ」


「銀貨数枚なら買えるな。砂糖とかはどうなんだ?」


「砂糖は高いがアーマードベアの魔核や素材と比べるものじゃないな。アーマードベアの魔核を売れば街の一等地に家が建つだろ」


「全部売れば砂糖の家が建つだろうね」


「あははは、砂糖の家とか建てても雨が降ったらなくなっちまうね!」


 この世界では銅貨は一枚十円程で、銀貨は一枚一千円程になり、金貨は一枚十万円程である。

 一等地に家を買うのなら最低でも金貨千枚といわれており日本円で一億円程の値段になるだろう。これは建物だけの値段ではなく、土地や紹介料に自身の身を保証する者なども含まれ、実際に金貨が千枚あろうが無理な事もあるだろう。


「ふふ、砂糖の家を作るのなら、その家を守る家を作らないとね~」


 そう微笑み冒険者たちを引かせるキララ。まわりではアーマードベアの小骨をガジガジと齧る幼い金孤たち。


「こっちも終わったぞ」


「この歳になると解体するのにも疲れるの……あっちの話し合いも終わったようじゃな」


 ライセンとナシリスも解体を終え、テントから出てくる領主ケンジの姿に視線を向ける一同。本来なら立ち上がりで向えるのが正しいのだろうが大賢者ナシリスは腰を下ろしたまま手招きをし、「おう!」と応え走り寄る領主ケンジ。


「反省して負ったじゃろ? あまり怒ってやるなよ」


「そんな事はわかっている。許可したのも俺だしな……ラフィーラは勇者の背中を追い過ぎて無茶なところがあるが……必ずまた立ち上がり前に進む強い意志を持っているからな。どこぞの引退ジジイが心配するような事はないからな」


「うむ、引退ジジイに娘を助けられた元勇者の言葉は重いの……それよりも明日にはここを立つが、お前はまだここにいて良いのか? 領主としての仕事があるのだろう?」


「ああ、仕事は強引に片付けてきたから問題ない。あっても後で謝るから一緒に謝ってくれ」


 そう口にしてニッカリと笑顔を作る勇者ケンジに肩を揺らせて笑う大賢者ナシリス。


「お前はまだあの頃のままだな」


「人はそう簡単には変われないし、変わらないよ。この鎧だって魔王を討伐した時のをそのまま使っているからな。体型だって変わってないからな」


「確実に下腹が出ていますね……」


 ティネントの言葉にカチンとくるが、事実、鎧を着る時にはかなりの無理をして着た事を思い出し自身の腹を撫でる。


「最近は会食やら事務仕事やらで体をあまり動かしていないからな……もしもの時に動けなくては困るから鍛え直すか……」


「そうなさい。打たれた北の魔王に申し訳が立たないでしょう……」


「だな……明日からはラフィーラを相手に剣の指導でもするか!」


 そう口にすると遅れてやってきたラフィーラの耳にも入ったのか目を輝かせ、隣を歩くメリッサも笑みを浮かべる。


「お父さまが直々に指導して下さるわ!」


「はい、北の地を開放した勇者ケンジさまのお力が見られるのですね! 私も父に特訓してもらえるよう帰ったらお願いしてみます!」


 そんな言葉が耳に入った勇者ケンジはギギギと首を動かし大賢者ナシリスへ視線を向ける。


「錆びついた腕で勝てると思うか?」


「ガハハハどうじゃろうな! 影で訓練してから挑んで……うむ、どちらが胸を貸しているのかわからんな」


「私が協力しましょうか? 全力で止めを刺しますが」


 ナシリスに笑われ、ティネントに脅された勇者ケンジは助けを求めるようにリンクスへ視線を向けるが、リンクスも解体した素材の収納が忙しくその視線に気が付かなかった事にして指輪の機能を使い収納を続けるのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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