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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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いつもの日常



「ふわぁ~~~~あ、やっぱり午後の温かな日差しは眠くなるな……」


 大きな欠伸をしながら竿を持つリンクスはいつものように湖面に糸を垂らし、まわりには幼い金狐たちがリンクスを囲い寝息を立て、少し離れた場所でゆっくりとお茶を飲みながら昔話をするティネントペプラにフリル。


「激怒した黒竜の尻尾に勇者の剣が刺さってたよな~」


「うわぁ~痛そう……」


「油断をするのが悪いのです。ケンジの実力では無理でしょうが、あの頃の勇者は剣技もそうですが手にしていた武器が凶悪でしたから……」


「ドラゴンキラーだっけ? 鱗を剥がすのに特化した剣だよな?」


「鱗に引っ掛け強引に引きはがす剣でしたね。黒竜が泣きながら治療をお願いしてきましたから……まったく、いつまでも変わらないですね……」


 先日の黒竜を思い出し大きなため息を吐くティネント。その横ではペプラが笑い声を上げ、フリルはタイドラゴン用の武器があるのかと震え、先日街で購入した髪飾りも揺れる。


「ふふ、フリルと俺にお揃いの髪飾りか……なんか嬉しいよなぁ~」


「うん! リンクスがプレゼントしてくれたんだよ!」


 微笑みを浮かべるペプラ。フリルは大きな声で喜びティネントは不機嫌そうな表情を浮かべるが、その耳には普段付けないイヤリングが揺れている。


「ティネントさまのも可愛いですよ」


「うん! リンクスはずっと迷ってて、面白かったよ!」


 ティネントの耳に付いているイヤリングもリンクスが迷いに迷って買ったものであり、土属性の魔力アップする効果が付与されている。ティネント程の実力者になればそれを越える装飾品も簡単に作れるのだが、それを愛用している所を見ると嬉しかったのだろう。


「私と子供たちには柔らかな毛布を頂きました。子供たちは名前を書いて愛用させて頂いております」


 キラリが微笑みを浮かべリンクスからプレゼントされた毛布を軽く自慢し、釣りをするリンクスへ視線を向け、それと同時に皆で視線を向ける。すると、竿がしなり小さな魚を釣り上げるリンクス。


「小ぶりだな……大きくなったらまた釣られてくれよ」


 そう口にしながら針から外し池へリリースする。


「小物だったな」


「あれでは食べ応えもないですし、もっと大きな物を釣ってもらわないと」


「リンクス頑張れ~」


 大きな声で手を振るフリル。それに応えるように手を振るリンクスは再度池に糸を垂らす。


≪私もたまには魚が食べたいですねぇ≫


 頭に響く声に湖面から地面へと視線を走らせ、もこりと盛り上がった地面から顔を出す蟻人アントマン


「静稀さん!? もしかしてここまで地面を掘って来たのですか!」


 顔を出した静稀に驚き音量を上げたことで幼い金狐たちも目覚め、見知らぬ蟻人の登場に急いでその場から逃げ出し母親であるキラリの元へと向かい、頭を掻きながら地面から這い上がると申し訳なさそうな表情を浮かべる。


≪いや~掘って来ちゃいました。掘るのはアイアンアントに任せましたが、先日頂いた未知の金属の分析が終わりまして、ケンジさん伝えて貰おうかと≫


「それならジジイを呼んでこないとだな。フリル~ジジイを呼んでくれ」


「任せて!」


 静稀に続き地面から現れる数匹のアリたち。ティネントやペプラも集まり家からは大きな欠伸をしながらフリルに手を引かれ現れる大賢者ナシリス。


≪この未知の金属は私が知るところのタングステン並みの強度を誇っていますね。熱に強いですし、何よりも重いです。まあ、アマダンタイトと比べると劣りますが、それでも武器や弾丸に使用すれば使えると思いますよ。

 で、これが私のスキルを使い新たな誕生したタングステン魔鋼です。いや~自画自賛するようでお恥ずかしいのですが、アマダンタイトよりも遥かに硬く魔力を通すので盾に向いていますね。もしかしたら竜の鱗よりも硬い可能性も……≫


 アリたちが運び込み並べられる金属を皆で見つめ、その中でもスモールシールドに加工されたそれを手に取るティネント。ノックするように硬さを確かめると金属音が響き、静稀に視線を向ける。


「力を入れても構いませんか?」


≪もちろんです! アイアンアントのカギ爪でも傷が付きませんでしたので怪我のない範囲でお願いし………………曲がりましたね≫


 両手でスモールシールドを持って力を加えるとグニャリと姿を変えドヤ顔を披露するティネント。あまり顔に出ない蟻人の表情があからさまに引き攣り、リンクスも同じように「せっかく作った盾が……」と口にしながら顔を引き攣らせる。


「この程度の高度で我々の鱗と一緒にしてもらっては困りますね」


「そうはいうけどさ、ティネントの怪力に掛ったらオレらの鱗だって粉々だろ」


 ペプラの発言に確かにと思うリンクス。事実、人化した状態でも黒竜や天竜相手に致命傷を与えることができるティネントの怪力を前にすれば、どんなに硬度があろうと破壊するのだろう。


「ティネントさんは別格だとしても相当硬いのなら盾として使えますね」


≪ふっふっふ、盾以外にも摩耗しにくいのでベアリングなどにも使えますね~≫


「ベアリング?」


≪これとかがそうですね。他にも摩擦抵抗を減らすので……説明するのが難しいのでこれを見て下さい≫


 手にしたハンドスピナーを回転させると幼い金狐やフリルが食いつくように見つめ、リンクスも面白いように回転を続けるそれを見つめる。


≪このように回転しやすくするのがベアリングですね。なかに小さなボールが入っていてよく回るんです≫


「うむ、面白い発想だの……で、回す以外に何かできるのかの?」


≪………………そ、そうですね。回していると楽しいぐらいでしょうか……≫


 少々の沈黙の後に絞り出した言葉を耳にし興味をなくす大人たち。幼い金狐たちとフリルは回り続けるハンドスピナーをキラキラした瞳で見つめ続け、フリルが大きく手を上げる。


「静稀お姉ちゃん、私もやりたい!」


「クゥ~ン!」


≪それなら差し上げますね。そうそう、ハンドスピナーに髪の毛が巻き込まれないように注意して下さいね。フリルちゃんの緑色の髪はとても綺麗ですからね~≫


 フリルへとハンドスピナーを手渡すと褒められたこともあってか嬉しそうな表情を浮かべてお礼をいうと親指と人差し指で掴み回しはじめ、幼い金狐たちは目を輝かせる。


「見て見て! クルクルだよ! あはははは、指が変な感じがする~」


 無邪気にはしゃぐフリル。それを見たまわりのものたちも自然と笑みを浮かべ緩やかな時間が流れ、いつもの日常が過ぎて行くのであった。








 これにて水遊日和は完結とさせていただきます。

 かなり中だるみした部分もあり反省してます。次はもっと楽しく展開を意識した作品にしたいと思います。


 お読み頂きありがとうございました。

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