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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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後片付け



「で、こいつらは何故争っているのですか?」


 西門の外に集まっている古龍たちとケンジへと視線を向けるティネント。


「なぁ、逆に聞くがティネントはどこから居なくなった?」


 ペプラは一緒にカレーを食べていた記憶があり、昨晩のうちに消えるようにいなくなったティネントへ疑問を投げ掛ける。


「それはアレです……息子からお酒臭いといわれたら……先に家に帰り朝食を用意していただけです。で、あの二人は何故争っているのですか?」


 後半になるにつれ声を荒げるように口にするティネント。最終的には殴り吹き飛ばしピクピクと尻尾を揺らす二頭へ冷たい視線を向けている。


「えっと、自分たちが異変に気が付いたのは黒竜さまが街を囲む壁から顔を出して手を振っているとこで、急に誰かに黒竜さまが投げ飛ばされて、このままだと危険だと思いここに来ました。街では警備兵の人たちがパニックに対応していると思います」


「そりゃパニックにもなるよな……俺は領主として一旦抜ける。後は任せるからな」


「ワシか! ワシにだって古龍たちの相手は荷が重いぞ!」


「古龍と一緒に住んでいるんだから大丈夫だよ。じゃな!」


 背中の翼が大きく開き空へと舞い上がるケンジは逃げるように高い壁を越え、次の瞬間には大きな歓声が上がる。恐らく警備兵たちから上がった歓声だろう。


「で、黒竜が投げられたのですか?」


「私が黒竜を投げました。どうしても帰る前にリンクスに挨拶したいと、まだ酔っていたので危険だと思い止めたのです。イテテ……」


 脇腹を抑えながら人化した天竜からの言葉に大きくため息を吐くティネント。黒竜もティネントの一撃を受け冷静になったのか人化し痛む頬を抑え立ち上がる。


「いま帰っては、暫く会えないかもしれないと思ったからな。そしたら天竜から投げられ、急に顔面に水を叩きつけられ、終いには殴られたぞ」


 恨めしそうな表情を浮かべティネントへ視線を向ける黒竜。


「暫くではなく永遠に会わなくても構いません。ほら、帰るのなら早く帰りなさい」


 手で払うような仕草をするティネントに薄っすら涙を浮かべる黒竜。


「ううううう、私に対する対応だけ酷過ぎないか?」


「それは貴女が問題を起こすからです。天竜は黒竜を静めようと動いたのですね?」


 その言葉にコクコクと頭を上下させつつも痛む脇婆らを摩る天竜。


「あの、良かったらポーションを使いますか?」


 指輪の収納からポーションを取り出し天竜へと渡そうとすると、黒竜が高速で移動しそれを受け取り口に入れ、ティネントのドロップキックが炸裂し弓なりに吹き飛ばされる黒竜。天竜は受け取ろうとした手が怒りに震えていると、リンクスが新たなポーションを指輪の収納から取り出して手渡しお礼を口にする。


「ぷはぁ~おお、痛みが引いた。ティネントのポーションはやはり良く効くな」


 殴られた脇腹を摩りながら痛みがない事を確認する天竜。吹き飛ばされた黒竜は長い黒髪を靡かせこちらに向かい歩いてくるが、前傾姿勢でよろよろと歩き今にも倒れそうに見え、リンクスが新たなポーションを取り出すがティネントがリンクスの肩に手を置き引き留める。


「アレには罰を与えたにすぎません。リンクスが優しいのは知っていますが教育だと思ってポーションは指輪に収納なさい」


「かなり痛そうにしていますが」


「アレは演技です。よく考えても見なさい、手加減した私の蹴りで体が吹き飛んだのですよ。体を後ろに逃がし衝撃を半減させています」


 その言葉に顔を引き攣らせるリンクス。他の古龍たちも同じように顔を引き攣らせている。ただ天竜だけは口を開く。


「元の姿でも私たちを吹き飛ばすほどの威力だったからね! 人化しているから防御力も下がった状態だからね!」


 天竜のツッコミに首を傾げるティネント。その証拠によろよろと歩いていた黒竜は前のめりに倒れ動かず、慌てて駆け寄りまだ手にしていたポーションを黒竜の体に振りかけるリンクス。


「うう、痛みが引いて……リンクス、すまない……」


 蹲りながらも顔を上げる黒竜に一本では足りないと判断したのか新たにポーションを取り出し振りかけるリンクス。ティネントは訝しげな瞳を向け続けている。


「では、そろそろ我々は失礼するよ」


「あまり長居をしては迷惑になるからな」


「あたしらも帰ろうぜ~」


 古龍たちからの言葉にホッと胸を撫で下ろす大賢者ナシリスとリンクス。だが、そこへ待ったの声を掛ける天竜。


「ちょっと待ってくれ。リンクスにひとつ聞きたい事がある」


 真剣な表情を浮かべる天竜にリンクスは思い当たる節などないのか、数度瞬きをしながら立ち上がったずぶ濡れの黒竜へ新品のタオルを渡しながら口を開く。


「えっと、なんですか?」


「古龍会に入らないか? ほら、今は氷竜の地位が空いているだろう。他に入るものがおらず、ずっと空席のままなのは気持ち悪くてな……」


 話ながらジト目を向けて来るティネントの視線を受け声が小さくなる天竜。


「古龍会……それって今日みたいな飲み会の事ですよね?」


「ああ、皆で集まり美味い料理を食べる会だな。他にも大陸間の情報交換や危険な魔物の駆除なども行っているし、冠婚葬祭も含まれるな」


「ですが、それって古龍種が参加する会ですよね? 自分は人類ですよ?」


 リンクス自身は北の魔王と呼ばれた先代の氷竜の魂と勇者一行の戦士であったアレックスの魂が融合した存在という事は知らされておらず疑問を口にする。


「ああ、そうだな。だが、ティネントの息子なのだろう。それに水の精霊を従え、どこぞの水竜の代理人なんかよりも巧みに水を操っていただろう」


 水竜の代理人として古龍会に立ち会っている亀竜はなんとも言えない表情へ変わるが、事実であり口を出すことはなく口を一文字にしたまま成り行きを見守る。


「古龍会へ入れば人種であっても古龍と見做みなされ、お前を侮るようなものはいなくなるぞ! 私の暗黒魔法も授けたいからな!」


 完全に痛みが引いたのか黒竜も天竜と共謀し古龍会の入会を進めるがリンクスは苦笑いを浮かべながら口を開く。


「申し訳ありませんがお断りしたいです」


 リンクスの言葉に顔を歪める天竜と黒竜。話を聞いていたナシリスはニッカリとした笑みを作り、その横ではティネントも優しい笑みを作る。


「り、理由を伺っても?」


「えっと、この場を見れば……」


 両手を広げるリンクス。天竜と黒竜や他の古龍たちも自分たちが飲み食いした場を改めて見つめ、転がる酒瓶や酒樽に椅子や、テーブルには食い散らかした跡。龍に戻った事でついた巨大な足跡に、黒竜が投げ飛ばされ地面はえぐれたヵ所もあり顔を引き攣らせている。


「そ、そうか……」


「ああ、気が変わったらいつでも歓迎するからな……」


 古龍とはいえこの場の荒れように反省したのか、これ以上リンクスを古龍会に誘うような言葉を口にすることなく緑竜や雷龍は転がる酒瓶や酒樽を集め、天竜は地面に手を置き巨大な足跡を元に戻すべく魔術を使い大地をせり上げる。


「リンクスは本当に古龍会に入らなくて良かったの?」


 皆が動き出したことでフリルも片づけを手伝うふりをしながらリンクスの横へと並び声を掛ける。


「ん? ああ、別に古龍会に入らなくてもペプラやフリルとは会えるからな。それよりも早く片付けて買い物に行こうな。冒険者ギルドにも行かなきゃだしな」


「うん!」


 フリルとの約束を覚えていたことが嬉しかったのか笑顔を浮かべ今度はふりではなく落ちている酒樽を拾い一ヵ所に集め、リンクスも食べ散らかしたテーブルを片付ける。

 皆で片付けたのもあってかすぐに綺麗に片付きえぐれた地面も天竜の魔術で元に戻り、パニックを静め戻ってきたケンジは驚きの表情を浮かべつつも、去ろうとする古龍たちを引き留め約束していたお土産を手渡すのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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