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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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西門へ急ぐ二人


 丘になっている領主館から一気に空へと加速するリンクス。風を纏って並走するフリル。眼下には逃げ惑っていた市民が家の中に避難する様子が見え、なかには何が起こっているのか確かめようと西の門へと向かうものの姿もあり、早くこの騒動を落ち着かせなければと速度を飛ばすリンクス。


「グギャアアアアアアアアアア!!!」


 大地が揺れるような鳴き声が響き思わず耳を塞ぎながらもその声の主に気が付いたリンクスは大きなため息を吐き、視界には転がっていた黒竜が起き上がり自身を投げ飛ばしたものへと威嚇の咆哮を上げ、人化した天竜はその叫びに黄金の髪を逆立てイラついている様子が伺える。


「天竜さまと黒竜さまがあんなところで戦ったら街が巻き添えになっちゃうよ」


 フリルからの震える声にリンクスはその場にいるだろうティネントとナシリスにケンジを探し視線を走らせる。西門の外には多くの空いた酒樽が転がりどれ程飲んだのかと思いながらも視界を走らせ、酒瓶を抱いて寝るケンジを発見し、その横で同じように酒樽に頭を入れ寝ているだろうナシリス。ティネントの姿はどこにもなく、他の古龍たちも寝息を立てている。


「ティネントさんの姿がないが、ジジイとケンジさんはどうしてドラゴンの叫びを耳にしながら寝ていられるんだか……」


「お姉ちゃん見つけた!」


 フリルも姉であるペプラを発見し指差し、視線を向けたリンクスは呆れた表情を浮かべる。


「頭を地面に突っ込んでいるけど、黒竜の叫びが煩かったのかな?」


「うん、きっとそうだと思うよ……」


 二人で呆れた表情を浮かべていると天竜もまた人化を解除し黄金の龍へと姿を変え、足元からは悲鳴や歓声が上がる。天竜はその体が黄金なこともあり吉兆や縁起物としてその姿を見たものは幸せになれるという言い伝えがあるのだが、壁を挟んでるとはいえこれほど近距離で見ては幸せよりも恐怖の方が勝っているのか逃げ出すものも現れ再度パニック状態へ陥る市民たち。


「カレイ! 黒竜さまと天竜さまの顔面に水球をぶつけるから制御を頼む!」


≪任せて!≫


 待ちと外を分ける巨大な壁を越えリンクスが指輪の収納から翡翠棍を取り出し集中すると多くの魔法陣がリンクスのまわりに構築され、そこから発射される水球は速度を重視したのかスピードを飛ばすリンクスたちを抜き去り高速で二頭のドラゴンの顔面へと吸い込むように到達し爆ぜる。


「むっ!」


「水?」


 黒竜と天竜の瞳が拘束で向って来るリンクスに気が付き、黒竜は大口を開け叫び、天竜は口を半開きにして固まりながらもその顔色は黄金ながらも青く変色して行く。


「グラァァァァァァァァァ!」


 咆哮を上げる黒竜にフリルがビビリ、姉であるペプラを起こすべく急降下し、リンクスは再度水球を発射し大きく南へと迂回してブレスを放っても街に被害が出ないようにスピードを上げる。


「黒竜さまは寝起きで俺に気が付いていないのか、まだ酔っているか、どちらにしても正気に戻させないとだな」


≪昨日みたいに大きな水球で溺れさせる?≫


「あれは中級魔法だからジジイの許可がいるから、ジジイを起こさないとだしな。正気に戻るまで数で勝負だな!」


≪なら、ボクも水球をいっぱいぶつけるぜ~≫


 リンクスのまわりには既に三十以上の魔法陣が展開され、そこからバスケットボールほどの大きさの水球が放たれ続けているが、黒竜の大きさかが考えればパチンコ玉よりも小さく強靭な鱗に守られている事もありダメージは皆無である。そこへカレイの水球が加わり発射される水球の数は一気に増加し、毎秒二百発を越える水球が発射されると流石の黒竜も体をひねり回避行動をとり、リンクスは悪い笑みを浮かべつつ新たな魔方陣を追加する。


「お姉ちゃん起きて! 黒竜さまと天竜さまが! リンクスがやられちゃうよ!」


 頭を地面にぶっ刺したペプラの体を揺さぶるフリル。それでも反応がなく地面からは寝息が聞こえイラっとしたフリルは平手でペプラの尻を思いっきり叩くと弾けるような音が響きズバッと身を起こし顔が地面から抜け、フリルが笑みを浮かべるが尻を強打されたペプラは片眉を上げ怒りの表情へと変わる。


「フ~リ~ル~」


 重低音な声に怒っている事を察したフリルだが黒竜と戦うリンクスを指差して声を荒げる。


「黒竜さまと天竜さまを静めて! リンクスが大変!」


「ん? ありゃ、どうして人化を解除して……おっ! 凄い量の水球だな!」


「凄い量じゃないよ! 止めないとリンクスが危険だよ!」


「あははははははは、見ろよ! リンクスが優勢だ! 水球に混じって熱水球が鼻に入った! あははははは」


 右手では黒竜を指差し、左手でお腹を押さえて笑い声を上げるペプラ。フリルも黒竜へと視線を向けると両手で顔をガードする姿にリンクスが優勢であると理解する。が、リンクスがピンチなのは変わっていないと拳を握り締める。


「でもでも、水球じゃ黒竜さまを倒せない!」


「倒したいのか?」


「あれ? リンクスは黒竜さまを倒したいの?」


 二人で顔を見合せながら互いに首を傾げるフリルとペプラ。数千発の水球と熱水球が停止すると黒竜の顔には怒りが浮かび上がり、顔を青くしていた天竜も再起動したのか大きく口を開ける黒竜の口を押さえつけ吐き出そうとしたブレスを力で押さえつける。


「怖っ! いま本気でブレスを吐こうとしたよな」


≪まだ寝ぼけているのかな? それとも怒りで我を忘れているのかな? どうする? やっちゃう?≫


「やっちゃうって、それこそ無理だろ。天竜さまは正気みたいだけど、うわ、殴り合ってる……」


 口が開かぬよう両手で抑えていた天竜の顔面へ拳がめり込みその手が離れるが、すかさず黒竜の顔面にも拳がめり込みインファイトが開始され、巨体の殴り合いに地面は揺れ寝ていた者たちが次第に目を覚ます。


「げっ! なんでこんな事態になっているんだよ!」


「むぅ、朝から迷惑な……」


「天竜さまと黒竜さまの戦いを人界でするとは」


「街に被害が出ぬように結界を張った方が良くないか?」


「壁にもヒビが入っていますね。亀竜は結界を、私は大地が裂けぬよう地面を補強します!」


「任されよ!」


 緑竜の提案を受け、亀竜が人とは思えないような声を呟くと街を囲うように半透明な光が覆いつくし、地面には緑色した光が溢れる。


「こんな間近で古龍同士の喧嘩が見られるとは思わなかったが、街に被害は出ないよな?」


「亀竜さまが結界を張ってくれたようだがブレスが直撃でもしなければ大丈夫ではないかの。のう、ペプラよ」


「ん? ああ、ブレスがなんだだっけ? 大丈夫じゃねーか?」


 適当に答えるペプラに不安感が募るが亀竜が口を開く。


「街にブレスが向かうようならこの身を盾にしてでも守ろう。あの酒が失われるのは惜しいからな」


「それならさ、いっそのこと黒竜を止めてくれよ……」


 ケンジが古龍たちにジト目を向けるが首を明後日の方へと向ける古龍たち。古龍のなかでもトップスリーの実力者である天龍と黒竜の戦いに割って入りたいものなどいないのだろう。


「グラァァァァァァァァァ!」


「ギャラァァァァァァァァ!」


 互いに咆哮を上げ向き合う天龍と黒竜。二重になった重低音は鼓膜と体を揺さぶり、体の中の奥底にある恐怖を思い浮かばせ、本能的に剣を取り出し構えるケンジ。大賢者ナシリスも杖を構え、傍観者となっていた古龍たちも身構えたところで空からケンジたちの元へ降り立つリンクス。


「あの叫びは頭が痛くなりますね」


 二頭が叫び終えた呟くリンクス。


≪やっぱりやっちゃおうぜ~騒音反対!≫


 好戦的なカレイの念話にその方が良いかもしれないと思った瞬間、黒竜が何かに衝突し右へ吹き飛び、呆気に取られていると体をくの字に折り曲げ吹き飛ぶ天竜。


「これだから古龍会の飲み会は嫌なのです」


 ゆっくりと地面へと降り立つティネントの姿に、この場にいた誰もが安心感を覚えるのであった。








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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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