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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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進撃の黒竜



 リンクスとフリルの模擬戦はカレイが手出し禁止になり、翡翠棍を構えるリンクスと両腕だけ龍に戻したフリルの戦いは激しさを増して行く。

 フリルの一撃必殺の拳を避けながら水球を放出するリンクス。放出された水球を左手で防ぎながら距離を詰めるフリルの右フックに対して身を低くして躱し、復帰の勢いのままに放たれた回し蹴りを翡翠棍で受け、左右から水球を放つも後ろへ飛び去り大きく後退する。


「アンミラのときよりも見応えがありますわ」


「どっちも楽しそうに戦っています」


 どちらも視線は力が入ってはいるが、相手が交わし受けるたびに口角を小さく上げる二人。それは息が合っているように見え、金孤たちをだらしない顔で見つめていたアンミラも興味を持ち見つめるほどである。


「ふふ、あれは年々も一緒に鍛え続けた師弟のような、互いを認めるライバル同士のような……少しだけ羨ましいですね」


 アンミラから出た言葉に目を丸くするリロリアルとルナ。


「アンミラが羨ましがるとは驚きです」


「剣を握る以外に趣味のないアンミラが羨ましがるとか、焼いたお肉の大きさ以外にあるとは思えませんが……」


 アンミラは幼い頃から剣を握るよう育てられた生粋の騎士であり、相手を倒すことだけを考え育ってきた。それが、互いの呼吸を合わせるように戦う姿を羨み、口に出すことなどなかったのである。


「ほら、私って天才じゃないですか。ライバルとかいたら、もっと剣の腕に磨きが掛かったのかと……」


 その言葉にリンクスとフリルの戦いがある意味ダンスのようだと感じていたリロリアルは関心が薄れ戦いへと視線を戻し、ルナも大きなため息を吐き残念な生き物を見る目へと変わる。


「アンミラはそういう人でしたね……それでどちらが勝つと思いますか?」


「寸止めとはいえ、ダメージがある一撃を放つのはフリルちゃんではないか? フリルちゃんの方が可愛いのもあるが、龍のような拳を人型に戻し素早い突きでも放てば一瞬で勝負が付きそうなものだが……リンクスの水球もカウンターとして使うのなら先ほど喰らった私のように吹き飛ぶような一撃でなければダメージ判定にならないだろう?」


 審判をするルナへと考察しながら口にするアンミラ。戦いにおいては真面目であり、その意見にルナも無言で頷き試合の行方を見守る。


「完全に龍の姿に戻ればリンクスさまに勝ち目はないのでしょう?」


「それこそ本気になればブレスを使いすぐにでも勝負が付きますが、フリルさまも戦いを楽しんでおられますからお嬢さまが言うように龍の姿に戻るような事はないですね。そこまでっ!」


 ルナが慌てて声を荒げ勝敗が決する。


「悪い大丈夫か? ポーション飲むか?」


「うううう、痛いけど大丈夫……」


 完全な人化状態へ戻り両手でクリーンヒットした頭を抑えしゃがみ込むフリル。突進からの大振りな一撃に対してリンクスが前に出て頭部へと寸止めの一撃を放ったつもりが、突進力と寸止めの甘さからコーン! と翡翠棍が頭に当たり勝敗が決したのである。


「ほら、無理せず飲んでくれ。傷でも残ったら俺がペプラにボコボコにされるからな」


 指輪の収納機能からポーションを取り出し封を開けるリンクス。それを受け取りコクリと頭を下げ肯定し口に入れるフリル。

 模擬戦を見ていた警備兵たちからは拍手が送られポーションを飲み終えたフリルは顔を赤くしてリンクスの後ろに隠れ、リンクスは翡翠棍を指輪に収納すると走ってくる幼い金狐に飛び付かれ安定の毛玉の塊りへと変化し、戦いが終わった事でアンミラも表情を崩し幼い金狐たちを見つめる。


「こちらに居られましたか。リロリアルさま方、朝食の準備が整っており……おりますが、あれは……」


 メイドがリロリアルたちを探していたのか、こちらに向かい走り現れ朝食の準備が整ったとの報告をしたのだが、顔を上げ目が点になりゆっくりと遠くを指す。その指し示す方へと皆で視線を向けると、ぐるりと街を囲む巨大な壁の西側には更に巨大な黒い竜が顔を見せており黒い巨腕がこちらに向け振られている。


「ひっ!?」


「こ、黒竜だぁぁぁぁぁあぁぁ!」


 リロリアルが悲鳴を上げ、次の瞬間には警備兵たちから絶叫が上がり、リンクスとフリルは顔を引き攣らせ、ルナとアンミラは顔を引き攣らせるリンクスへと視線を向ける。


「あれは黒竜さまで間違いがないが……」


 ライセンが冷静に答え、その冷静さに温度差を感じながらも居合わせた警備隊の隊長は口を開く。


「西の門にはまだ多くの警備隊が警備に付いているがパニックが予想される! リンクスさま、あの黒竜さまは街を襲ったり敵意があったりはないのですね?」


 警備隊長の声にパニックに陥っていた警備兵たちは冷静さを取り戻し叫ぶのをやめ、リンクスの言葉を待つこの場に居合わせた者たち。


「えっと、多分ですが酔っているだけだと思いますよ。ただ、あそこにはケンジさんもいるから、あっ、吹き飛ばされた」


 こちらに向かい顔を出し手を振っていた黒竜が不自然な動きで西へと吹き飛び、近くでは光がチカチカと光り何かの魔術が使われたのが視認でき、更には吹き飛ばされた黒竜は砂煙を上げコロコロと転がり仰向けに倒れている。


「酔っぱらって俺たちに手を振ったのかもな」


「黒竜さまはすごく気を使うタイプだって聞いたことがあるよ。横暴に振舞うときもあるけど絶対に心配してまわりに気を使うって……もしかしたら私たちを探しているのかも」


 フリルからの言葉を受けリンクスはすぐにでも黒竜の元へ向かった方が良いのだろうと思案し、指輪の収納から改造サーフボードを取り出す。


「これ以上騒ぎになると街が大変だろうから急いで向かうぞ。カレイはフォローを頼む。金狐たちはライセンさんと一緒に待ってような」


「うん!」

 

≪任せて!≫


 一斉にリンクスから飛び降りる幼い金狐たち。リンクスが走り出しサーフボードから水流が発射されカレイの精霊としての力で制御されたサーフボードは浮かび上がり一気に加速し、フリルも全力で走り飛び上がると風を纏い両手を広げ空へと駆け上がる。

 その姿に居合わせた者たちは呆気に取られ、ライセンはリンクスを見つめる子供たちを拾い集めると「朝食へ向かうぞ」とその場を平然としながら離れ屋敷へと向かい、警備兵長は声を上げる。


「お前ら! 勤務時間にはまだ早いが住民たちがパニックを起こさぬよう説明に向かう! 領主さまからの発表があるまで自宅か建物の中へ避難するよう伝えてまわるぞ!」


「おおおおおおおおお!」


 パニックを起こさぬよう冷静な対応をするように声を掛けた警備兵長に応えるべく警備兵たちは声を上げ、警備兵たちは一気に街に向かい走り出す。


「我々はどうしましょうか」


「この事態に私から離れたアンミラを叱責しに向かいましょうか」


 幼い金狐たちを抱き屋敷へと向かったライセンを追うように姿を消したアンミラ。それを問い詰めにリロリアルとルナも屋敷へと向かうのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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