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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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リンクスVSアンミラ



 グランドの中央ではリンクスとアンミラが適度な距離を取りそのまわりを多くの警備兵たちが囲み、審判であるルナの開始の合図を待つ。


「二人とも準備は良いですか?」


「私は不意打ちでも構わないよ」


 余裕があるのか、それとも格上だと認めさせたいのか抜いたショートソードを構えることなくだらりと下げて口にするアンミラ。リンクスは黙って頷きルナは大きな声で模擬戦の開始を宣言する。


「はじめっ!」


 ルナの開始の声と同時に大地を蹴ったアンミラは一気にトップスピードに加速し、ショートソードを持ちだらりと下げた腕がムチのようにしなり神速の一撃がリンクスを襲う。


 アンミラの得意な超加速からの一撃。ムチのようにしなりを加えることで刃が視認できる限界を超えた完全な初見殺しの斬撃。アレの技で斬り伏せられた魔物や罪人は百や千どろこではない。完全無欠の一撃必殺……


 審判であるルナはリロリアルの専属メイドということもありアンミラの情報はもちろんのこと、回数は少ないが共に協力して警護に就くこともありその技量を詳しく知っている。魔物だろうが罪人だろうが等しくその身が上下に二分される斬撃を……

そんな一撃が迫り剣を構えていたリンクスは一瞬にして間合いを詰められ手に力を入れ、吹き飛ぶアンミラ。


「なっ!?」


 吹き飛ばされたアンミラは驚きの表情のまま転がり、剣を大地に刺してその威力を殺し立ち上がる。


≪えへへへ、ボクらの勝ちだぜ~≫


 脳内に響く声に呆気に取られながらも頭上に浮くカレイに視線を向けるリンクス。まわりで見ていた警備兵たちも一瞬何が起きアンミラが吹き飛ばされたか理解できず静まり返るが、リロリアルがテンション高く声を上げる。


「リンクスさまの勝ちですわ!」


「おおおおおおおおおおおおおお!」


 リロリアルの歓声に我に戻った警備兵たちからも地鳴りのような歓声が上がり、ルナは片手を上げて「勝者! リンクス!」と決着の声を上げ、ゆっくりと立ち上がるアンミラ。


「魔法陣をなしに水球を複数発動させたのは精霊の力かな?」


 アンミラがいうようにリンクスへ向かい神速のごとく襲い掛かったタイミングで水球を発射されたカレイ。水の精霊であるカレイからしたら魔法陣など必要とせず、水球を発動させる場所すらも見える範囲すべてという完全にチートな存在であり、トップスピードで迫りくるアンミラの目の前に水球が複数現れたことで拭く飛ばされたのである。


「えっと、カレイがすみません。模擬戦で精霊の力を借りては卑怯ですよね」


 リンクス的には剣と剣とで戦う心算でおり立ち上がったアンミラに謝罪し、アンミラはずぶ濡れになりながらも笑顔を向ける。


「いや、精霊と契約をしているのはリンクスくんの力の一端だろう。私の負けだよ……君を舐めていた心算はないけど、水球を使ったカウンターで顎を撃ち抜かれるとは思わなかったな」


 立ち上がってはいるがその膝は小刻みに震えており大地に刺したショートソードを杖のように使いなんとか立っている状態のアンミラ。アンミラの視界はグラグラと揺らいでおりルナが決着の合図をしなければ喉に剣を付けられるか、はたまた新たな水球が襲い決着が付いていただろう。


「それは自分も同じです。まさかカレイが手を出すとは思っていなくて、先に言っておけば、」


≪ええ~ボクが手を出しちゃダメだったのかい! ボクはリンクスが反応できていないのかと思って水で守って……そっか、ダメだったのか≫


 頭上でシュンとしながらゆっくりとリンクスの前に落ちてくるカレイ。そんなカレイを両手で受け止めるリンクス。


「いや、助かったよ。カレイが助けてくれなかったらあの剣は受けられなかったと思うしな」


 リンクスの言葉に向くりと手の上で顔を上げるカレイ。


≪だろ! えへへへ、ボクのお陰だね~≫


 一瞬で機嫌を取り戻すカレイにリンクスは微笑みを浮かべ、そんな二人の姿をグニャグニャな視界に捉えたアンミラは悔しさを感じつつも慢心していた事に気が付きゆっくりと大地に膝を付け座り込む。


「ふふふ、アンミラが負ける所が見られるとは嬉しい誤算ですわ。王国最強とまで謳われた近衛兵に勝ったリンクスさまには何か褒美を差し上げないとですわね!」


「お嬢さま、これはあくまでも模擬戦ですから褒美とかは……」


「褒美なら私が出すべきだろう。それにしても足腰立たぬまでやられたのはいつぶりだろうか……」


 未だ視界がまともに戻らぬアンミラは自身が新兵だった頃を思い出しながらショートソードを鞘に収め、リンクスを讃える警備兵たちの声に心地よさすら感じていた。


 あれが大賢者ナシリスさまの息子であり未来の宝か……王国最強と呼ばれてもその剣は届かずか……

 ふっ、油断などしてはいなかったがアレを受ける所かカウンターで返されるとはな……今一度、初心に戻って鍛え直すかな……グンマー領ならケンジ伯爵がいるし剣を交えるのも……


 ゆっくりと目を閉じ深呼吸しながら脳震盪の回復を待つアンミラ。そこへ大声で叫びやって来るフリルとライセンに幼い金庫たち。


「クゥ~ン!!」


「リンクス凄かった! 女の人が吹き飛んだ!」


 模擬戦を見てテンションが上がっているのか走ってきたフリルに抱き付かれ、幼い金狐たちもリンクスに飛び付き尻尾を振りながら鳴き声を上げ、閉じていた瞼が開き一瞬にしてだらしない顔へと変化するアンミラ。リンクスは素早くロングソードを指輪の収納に収めると口を開く。


「こらこら、顔にしがみ付くな! 上着の中に入るな! ちょっ! ライセンさん助けて!」


 幼い金狐たちは顔や腕に抱き付き鳴き声を上げ、背中側から上着に忍び込みフサフサとした金色の毛がリンクスの背中をゾクゾクと刺激し、それを羨ましそうに見つめるライセン。


「私だって最近はあんなにくっ付かれることがないのに……」


 こちらもまた敗者なのか悔しそうな瞳を向けながら背中に潜った幼い金狐を引きずり出し、もう一人の敗者はだらしない顔でエアナデナデをしながらゆっくりと立ち上がる。


「次は私が勝って金狐ちゃんたちからハグを頂くからな!」


 立ち上がり叫ぶアンミラにビクリと体を震わせた幼い金狐たちは一斉にリンクスの背中に隠れ、抱き付いていたフリルも我に返ったのか顔を赤くしながら離れ、そんなルールは設定していないだろうと思うリンクス。


「こら、アンミラが叫ぶから金孤ちゃんたちが怯えているでしょう。嫌われているのだから静かにしていなさい」


「まったくです。アンミラは敗者なのですから黙って座っていなさい」


 リンクスの隣にスッと移動しさも味方ですという態度を取るリロリアルとルナ。リンクスの背中に隠れた幼い金狐たちも鳴き声を上げ、アンミラはその場に崩れこの日二度目の敗北を味わる事となり笑い声を上げるリロリアルとルナ。


「次は私と戦おうよ!」


 模擬戦を羨ましく思っていたフリルからの提案にリンクスは快く快諾し、ライセンやリロリアルに幼い金狐たちを預けるリンクス。


「お、お嬢さまに懐いているだと……」


 アンミラが目を見開き驚愕の表情と震える声で驚きを露わにし、リロリアルは手触りの良い毛並みを優しく撫でながら「金孤ちゃんたちは良い子ですね~」とアンミラへドヤ顔を披露するのであった。







 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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