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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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翌朝とアンミラ



 翌日、目を覚ましたリンクスは当たり前のようにベッドに侵入している金狐たちを撫でながら起き上がり、ふと感じた違和感に視線を走らせ空いているベッド二つを見て大きなため息を吐く。


「ジジイとティネントさんはまだ飲んでいるのかね……」


 呆れながら呟いた次の瞬間、ゾクリとする感覚が襲いベッドから飛び退き指輪の収納から剣を取り出し構え、ドアの隙間からこちらを見つめる瞳に向け鋭い視線を向ける。


「すまない。起こす心算はなかったのだが……」


 ゆっくりとドアを開け現れたのはアンミラであり、血走った瞳を向けて丁寧に頭を下げ、下げた頭をぐるりと向けベッドで眠る幼い金狐たちへと視線を向ける。


「えっと、命を狙われたとかではなく?」


「なぜ私がリンクスくんの命を狙う必要があるか逆に聞きたいのだが、それよりも静かにしてくれ。可愛い子たちが起きてしまう」


 口に人差し指を当てて話すアンミラに呆気に取られていると、リロリアルとルナが現れ羽交い絞めにして部屋から連れ去り、その後に現れたライセンとキラリが幼い金狐たちを回収し去って行く。


「なんだろう、朝から疲れたな……」


≪人間は面白いねぇ~ボクもいろいろな人間を観察するのが趣味になってきたけど、あの女の人は面白いよ。金孤たちを見つめるのが好きなのか瞬きすら忘れて見ていたぜ~≫


 部屋の隅からアンミラを観察していたカレイからの感想にリンクスは要注意人物なのだと気を引き締めるのであった。






 着替えを終えたリンクスはメイドに一言入れ、体を動かすために外へと向かう。軽く走りながら警備兵たちが訓練をしているグランドへと到着すると邪魔にならないように外周を走り、傍をぷかぷかと浮きながら追走するカレイ。


≪人間は戦うのが好きなんだね~≫


「好きというか、あの人たちは魔物や犯罪者から街の人を守るために強くなろうと訓練しているんだよ。俺は強くならなくてもいいが体を動かすと気持ちがいいし、ジジイとティネントさんの訓練で怪我するからな……はぁ、早く帰って釣りがしたい……」


≪リンクスは釣りが好きだよね~ボクもキラキラした湖面を眺めるのは好きだよ。釣り上げた魚の鱗もキラキラして綺麗だよね!≫


 カレイと何気ない会話をしながらゆっくりと外周を走り次第に速度を上げて行く。その内側では警備兵たちが木剣の素振りを皆で行い汗を流している。


「ふぅ……そろそろやるか」


 走り終えたリンクスは柔軟運動を終えると警備兵たちの邪魔にならないだろう隅で剣を構え、カレイのまわりには野球ボールほどの水球がいくつも浮かび上がる。


「ルールはいつも通りにな」


≪このサイズの水球を百発撃ってリンクスに当てればボクの勝ち、当たらなければリンクスの勝ちだよね~≫


「ああ、でも今日はまわりにも気を付けろよ。警備隊の皆さんに迷惑を掛けられないからな」


≪うん、任せてよ! 今日もボクが勝つからね~≫


 十メートルほど距離を開け対峙するリンクスとカレイ。カレイのまわりには野球ボールほどの水球が浮かび、剣を構えるリンクスは「行くぞ!」と気合を入れた声を上げ発射される水球。

 水球は真直ぐにリンクスに向かい剣で払い除けられ四散するが、次第に真直ぐだった水球のコースが上や左右からとバリエーションが増え、足を使い避けながらも水球を打ち落として行く。


「凄いですわね……」


「水の妖精が水球を放っているのでしょうけど、器用に避けて斬っています」


「私は金狐ちゃんたちの観察をしたいのですが……本当に器用ですね。あれだけの動きができる者が近衛のなかにどれだけいるか……ん? リンクスが近衛兵になってくれれば金孤ちゃんたちが王都へ足日に来てくれる可能性も……」


 朝の散歩をしていたリロリアルとルナにアンミラがリンクスの訓練を視界に入れ感想を漏らし、アンミラは腕を組みながらリンクスが近衛兵に入団させる方法を思案する。


「警備兵たちもリンクスさんの訓練を見学し始めましたわ」


「訓練場の隅でやっていてもあれだけ派手に立ち回っていますし、水球の高度なコントロールや立ち回りは参考になるのでしょう」


「頬を掠めたな。剣の扱い方は上手いが体幹の鍛えが足りないな」


「あら、アンミラならリンクスと同じような動きができるのかしら?」


「同じ動きですか? 私はそれ以上です。そもそもあのように水球を撃たせ続けることなどせず、間合いを詰めて斬り捨てます」


「へぇ~それだと水の精霊が見えるのですか?」


「うっ……それは見えませんが、」


「なら無理ね。で、リンクスのように避け続けることはできるのかしら?」


「避けるまでもなくすべての水球を斬り捨てます。おっ、左肩に当たったな」


 アンミラが言うように水球が左肩に当たり鈍い痛みをリンクスが襲い、発射されていた水球は空中で停止し、キラリは両手を上げて喜び≪ボクの勝ちだ~≫と声を上げる。


「はぁはぁ……いま、ズルしなかったか? 剣で斬った水球が四散したけどまた集まって肩に当たったろ」


≪何のことかな~ボクはナシリスから「リンクスとの修行は不意を突いてやれ」とお願いされただけだぜ~どんな時も気を抜かず、不意を突いてやればリンクスの為になるってね~≫


「それってズルしたってことだな……」


≪えへへへ、でもでも、本当にナシリスからお願いされたんだぜ~リンクスの為になるって≫


「だとしても、勝負の時にズルを使うのはどうなんだ?」


≪ううう、それは……じゃあ、もう一回する?≫


「そうだな、ん? リロリアルさん?」


 まわりからしたら大きな声で独り言を話している様に見えなくもないリンクスへ近づき声を掛けるリロリアル。その横でルナとアンミラは停止いている水球を見つめている。


「リンクスさまと水の精霊さま、少し宜しいでしょうか?」


「ええ、仕切り直そうとしたところですが、もしかしてここでやったら迷惑でしたか?」


「いえ、その様な事はないのですが、アンミラもやってみたいと」


「ちょっ!? 私は自らやりたいといっていません! どうせやるのならリンクスくんとの模擬戦の方が絶対に楽しい! どうかな?」


 ニヤリと口角を上げるアンミラ。王国一と歌われる近衛兵副長は余程の自信があるあるのだろう。


「えっと、そうなるとルールはどうしますか?」


「怪我をさせたくないから寸止めにしようか。ああ、リンクスくんは魔法を使ってくれて構わないよ」


「でしたら、あちら歩広い場所の方が宜しいかと、話を付けてきますね」


 リンクスが模擬戦を受けルナが訓練をする警備兵たちに掛け合いに向かい、数秒ほど話し合うと頭の上に両手で大きな丸を作りリロリアルに促され足を進めるリンクス。リロリアルは移動しながらリンクスの頭の上を見つめ、そこに水の精霊がいるのだろうと妄想し、カレイは既にルナの元へと向かいそのまわりをクルクルと回っている。


「王国一の剣技が拝めるチャンスなど今後ないと思い、確りと見学するように!」


 警備隊の隊長からの言葉に警備兵たちは一斉に返事をし、やって来たアンミラたちへ頭を下げる。


「私が審判をしますので警備たちの方々はもう少し下がってください。ルールは寸止めですからね!」


 警備たちが離れると二人で適度な距離を取り腰に差してあるショートソードを抜くアンミラ。リンクスも手にしているロングソードを構え、その頭にはカレイが乗りルナの開始の合図を待つのであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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