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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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降臨する女神



 夜も深まりリロリアルは貸し与えられた寝室で横になっていた。隣にはルナが薄明りのなか日記を付けており、アンミラは既に寝息を立てている。


「ねえ、ルナ。私の手の上に精霊さまが水を与えて下さいましたわ」


「お嬢さま、もう何度目ですかその話、七回は聞きましたしその場に私もいましたが……」


「ふふふ、そうね。一緒にいたわね。でも、私の手の上に乗って水を残してくれたのよ。それにアーマードベアの素材も手に入るわ! どうしましょう! 興奮して眠れないのだけど!」


 ベッドから上半身を起こしたリロリアルは日記を付けるルナへとやる気に満ちた視線を向け、背中越しに視線を感じたルナは振り返る。


「お嬢さまが精霊が好きなのは知っていますが、もう夜遅いのであまり騒いではラフォーレさまや金狐ちゃんたちに迷惑で、」


「金孤ちゃんだと!」


 今度は熟睡していたアンミラが身を起こし辺りを探るように視線を走らせる。


「どうしよう、この人たち面倒臭い……」


 正直な感想が漏れるルナ。そんな不敬罪が適用されそうな発言だがリロリアルは脳内お花畑のように「精霊が、精霊が……」と呟き、アンミラはベッドから降りて椅子の下や家具の後ろを見てまわり、大きなため息を吐くルナ。


「本当に面倒臭い人たちです……明日には予定を終わらせて王都へと帰れれば良いのですが……」


 ひとり今後の予定を考え魔道列車のチケットの手配を考えるルナであった。






 一方、ケンジとナシリスや古龍たちの宴会は続いておりリンクスを古龍会のメンバーに加える会議へと化していた。


「リンクスに眠る力は間違いなく氷竜のもの。それだけでも参加資格はあるはず」


「じゃが人の姿であるのも事実だからの。そもそも、リンクスはワシの息子! 古龍共などに取られてたまるか!」


「ですが、私の息子でもあります。いけ好かない創造神からの頼みとはいえ私の息子です。私が古龍ならリンクスも古龍です。違いますか?」


「むむむむむ!」


「……………………………」


 大賢者ナシリスとティネントで顔を突き合わせて睨み合い天竜と黒竜は笑い合うが他の古龍たちは苦笑いを浮かべながら酒へと視線を移し、ケンジは焼けた肉を振舞いながら自身もお気に入りの日本酒を口にする。


「ここで話しても結果は出ないだろうに、最終的にはリンクスが決めることだろ。それよりもリンクスの中に眠る負の感情を薄めるためには穏やかに暮らすことが大切なんだろ。もっといえば、古龍会に入ったとしてリンクスの役割とかあるのか?」


 ケンジの言葉にナシリスとティネントが揃って首を向ける。


「うむ、安らかに過ごすためは湖畔の家で釣りをして緩やかな時間を過ごせば良いと思うがの」


「古龍会の役割ですか……そもそも古龍会は皆で集まり愚痴を言いながら美味しいものを食すだけの会です。リンクスの役割は……」


 役割と聞かれ口ごもるティネント。そもそも、古龍会は早ければ数十年、長ければ数百年単位で集まることはなく人族であるリンクスが在籍したとしても次集まるまでに寿命が付いている可能性もあり、それが頭に過ったティネントは口を閉ざす。


「リンクスの役割とか難しく考えず、私の暗黒魔法を伝授させたいだけだが」


 黒竜の発言にあんぐりと口を開け固まるケンジ。暗黒魔法という危険そうな名称を使う古龍がどれ程恐ろしい存在かを理解し、更にそれをリンクスに伝授させたいという事に脳内がパニックを起こしたのである。


「黒竜ばかりズルイぞ。私だって神聖魔法や原初魔法を教え、リンクスから尊敬されたい!」


 天竜もまた自己満足なことを口にし、更に口を大きく開けるケンジ。


「原初魔法など人族に制御できるわけがなかろうに、また魔力暴走を起こして山が吹き飛ぶわい!」


「それは困りますね。絶海といえど自然は大切にしないとすぐに荒廃するのが目に見えています」


「大昔にティネントが山から落ちたアレの事だよな? 酔っぱらって寝て、寝返りで山から落ちて木々をなぎ倒し……あははあははは、これは内緒だったか!」


 お腹を抱えながら笑って話すペプラに殺意の籠った瞳を向けるティネント。ペプラのまわりの古龍たちは顔を青く染めガタガタと震えはじめる。


「これ、そんなに殺気を出しては街にも影響がでよう。大昔の話など今はどうでもよかろう」


「そうですね。ペプラには暫く私が作った酒と料理は提供しないという事にして、」


「悪かった! この通りです! どうかお酒だけは、お酒だけは今まで通りでお願いします!」


 素早く地面へと降り完璧な土下座を決めるペプラ。古龍とはいえ好物を取り上げられるのは辛いのだろう。


「まったく、古龍が集まって何をしているのかと思えばリンクスの事を話し合って宴会ですか……私が要請してもすぐには動かず……」


 天から光の柱が降り注ぎ降臨する創造の女神シュレイン。固まっていたケンジは天の助けが来たと再起動し、天竜と黒竜に加え殆どの古龍たちが姿勢を正して頭を下げ、土下座していたペプラも立ち上がり頭を下げる。


「態々天界から古龍会に苦言を呈しにでも来たのですか?」


「苦言ではありません。助言です。あっ、これいいですか? あむあむ……」


 ティネントからの嫌味をまったく気にしていないのか、焼き上がった肉を口に入れ表情を溶かす創造の女神シュレイン。


「こちらの酒もありますのでどうぞ」


 日本酒をグラスに注ぎ入れて渡すケンジに微笑みながら受け取り喉を潤し、ぷはぁ~と気分良く一気に飲み干す。


「やはり異世界の酒は比べ物になりませんね。前に頂いたウイスキーやブランデーも美味しかったのですが、この米から作った酒も水のように美しくキレがありとても美味しいです。料理にしてもタレを三種も用意し飽きさせない工夫が素晴らしいですね。あむあむ……」


 新たな焼いた肉をタレに付け口にする創造の女神シュレインへジト目を向けるティネント。


「苦言というよりはタダ飯にありつきたかっただけですか……」


「そうともいえます。が、こちらへ侵略した星を管理する神から正式に謝罪を受けました。その事を報告しようかと思い権限したのです」


 昼間に現れたメタリックな機械生物を思い出す一同。特にケンジは次の言葉を真剣な眼差しで待ち、創造女神シュレインは浅漬けを口に入れ口直しをする。


「ただの漬物かと思いましたがお肉の後に食べるとサッパリして美味しいですね。ゴクゴク、ぷはぁ~日本酒とも良く合います」


「で、あちらの神は?」


「あちらの神の降格処分はもちろんのこと、この度の侵略でほぼほぼエネルギーを使い果たした人工知能はエネルギー不足により五百年後にはすべて停止するでしょう。人工知能を生命として数えるかは置いておいても、星の力をすべて使った結果ですから滅びの道は免れませんね。

 そうそう、リンクスが保管しているそれらの人工知能はこちらか干渉して破壊させていただきました。人工知能にこの星を侵略されては困りますからね。あむあむ……」


「破壊ですか?」


「破壊といっても頭脳にあたるチップと動力炉などの危険なものです。暴走でもすればリンクス以上に危険な存在ですからね。あむあむ……あら、新しいお肉を所望します」


 焼き上がっていた肉をすべて食べ終え空いた皿をケンジへと手渡す創造の女神シュレインであった。






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 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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