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水遊日和  作者:
第三章 王女と精霊と古龍
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怒るラフテラと幼女の塊



 寝ていた幼い金狐たちが目を覚ましハンバーグの香りに釣られるように大広間へと姿を現し、ラフォーレやニッケラにラフテラが食事をしている姿に一斉に走り出し大きく口を開ける。


「こらこら、人様のものを強請るな」


「そうよ、ちゃんと自分たちのを用意してもらわないとダメよ」


 ライセンとキラリの注意を受けシュンとし尻尾がだらりと下がる幼い金狐たち。


「私は構わないけど教育方針ならあげることはできないわね。ラフォーレにニッケラもあげてはダメよ」


「ううう、ダメなのですよ。あげたいのですがダメなのです」


「すぐに焼いてもらいましょうね」


 膝に寄り添う幼い金狐たちを慰めるように撫でる二人。それを更に遅れてやってきたアンミラは瞬きもせず見つめ鼻息を荒くしている。


「アンミラ、貴女も座って夕食を取りなさい。アンリ迷惑を掛けているようならひとりで帰らせますからね」


「いえ、帰るのは王都ではなくここだと私は決意しております」


「勝手な事をいわないの。近衛騎士長を呼び寄せますからね」


 リロリアルの最後通告に顔を青くするアンミラ。近衛騎士のなかでもトップである騎士長はアンミラを鍛えたその人であり最強の座を明け渡しているが、それでも強者でお説教が長い事でも有名なひとである。平気で三日も付きっ切りで説教をし、寝る間すら与えない説教の鬼と呼ばれる人である。アンミラが恐怖するのも頷けよう。


「もうすぐに焼き上がると思われますのでお待ちください」


「クゥ~ン」


 メイドからの言葉を確りと理解しているのか鳴き声が重なり尻尾をゆらりと揺らす幼い金狐たち。それを見て座布団に座ろうとしながらバタリと倒れるアンミラ。ライセンとキラリは席に着きそわそわとしながらハンバーグを待っている。


「焼き上がりました。まだ熱いのでご注意、あの、大丈夫でしょうか?」


 倒れているアンミラに気が付いたメイドが心配そうにしながらもハンバーグを運び提供し、前足をテーブルに乗せ湯気を上げるハンバーグを見つめる幼い金狐たち。


「大丈夫かと問われたら、大丈夫にしてほしいというのがこちらの理想かしら。精神的な修行でもさせて平常心を保つようになって欲しいわね」


「それは同感です。ここに来てからのアンミラはただのポンコツですから……」


 だらしない顔で畳の上に倒れているアンミラをどうしたものかと見つめるリロリアルとルナ。王国最強の剣士だといわれているが、こんなにも残念な人だと理解した『黒曜の黒薔薇』たちは複雑そうな表情を浮かべている。


「ほら、熱いだろうから私が切り分けよう」


「ママも手伝うわ~」


 ライセンとキラリがナイフを使いハンバーグを切り分け鉄板から皿へと移しソースをかけると、待ちきれないのか涎を垂らしながら尻尾をピンと立てる幼い金狐たち。ふぅふぅと息を掛け冷ましたハンバーグを口に入れハフハフとしながら食べる姿はとても愛らしくその場にいる大人たちは自然と微笑みを浮かべ和やかな雰囲気に包まれる。


「みなさん美味しいです?」


「クゥ~ン!!」


 幼い金狐たちもハンバーグの味が気に入ったのか一斉に声を上げ、遅れてライセンとキラリもハンバーグを口にして表情を溶かす。


「似た料理を食べたことがあるがこちらも絶品だな」


「ええ、ティネントさまの作るハンバーグも美味しかったのですが、こちらも美味しいです。特にチーズが流れ出て来るのは美味しくて楽しくて、子供に返ったような気持ちになりますね」


 夫婦で仲良くハンバーグを口にするライセンとキラリ。リロリアルとルナはティネントという古龍の名が出たことで揃って眉をピクリと上げる。


「あの、ティネントさまはどのような方なのですか? ここへ来る途中、少しだけお顔を拝見したのですが……」


「ティネントさまですか? ティネントさまは池の近くに家を構えリンクスの母役として育てた方ですね。とても厳しい一面もありますが頑張っているものにはとてもやさしい方です。料理や掃除などが得意で、特にお酒造りは古龍さま方の中で一番の腕だと聞いた事があります」


「武術にしてもティネントさまが最強だろう。古龍さま方の中でも一番の実力者だと聞いた事がある。ペプラさまもティネントさまが一番強いと仰っていた」


「うん! ティネントさまが一番だよ! お姉ちゃんも前にボコボコにされたって言ってた!」


 キラリとライセンの説明に割って入るフリル。皆の視線がそちらに向かい、フリルの後ろにはリンクスの姿があり、更に後ろでは顔を赤く変えたラフィーラに付くメリッサがおり大広間に入ると座布団に座らせる。


「あら、ラフィーラさまはお酒を飲まれたのですね」


「こ、これは王女殿下を前にこのような……ダメ目が回りゅぅぅぅぅ」


 古龍相手に酒を酌み交わしていたラフィーラは馬車の揺れと共に酒が回り限界寸前であり、その光景を目にしたラフテラは顔を引き攣らせている。


「ラフィーラは自室で酔いを醒ましなさい。誰か運んであげて」


 ラフテラの指示に従いわさわさと現れたメイドたちに運ばれるラフィーラ。メリッサも共にラフィーラに付いて行こうとしたがラフテラに呼び止められる。


「メリッサは報告をなさい」


 その一言で金縛りにでもあったかのようにピタリと動きを止めるメリッサ。


「ほ、報告ですか? えっと、ラフィーラさまは古龍さま方と席を共にしてお酒を飲みました」


 ゆっくりと振り向き姿勢を正してラフィーラの行動を報告するメリッサ。


「古龍さまと席を共にしたの!?」


「はい、特に火竜さまと縁竜さまに気に入られたのかお酌をされて飲まれて、」


「古龍さまにお酌されてですって!?」


「は、はい、ラフィーラさまのどこを気に入ったのかはわかりませんが楽しげに話しておられました」


 メリッサの報告を聞き静かにリンクスへと視線を向けるラフテラ。


「えっと、本当に楽しげにお酒を飲まれていましたよ。ああ、ケンジさんが焼くお肉も美味しかったですね」


「肉を焼くよりも娘の心配をしなさいよ……はぁ……とりあえず、古龍さま方を怒らせるような事はないのですね?」


「怒らせるというよりも本当に楽しげに話していましたね。緑竜さんは根が優しそうな人でしたし、火竜さんも面倒見が良いのか水も勧めていましたね」


「古龍さま方に気を使わせてお酒を飲むとか……ありえない……」


 ガクガクと震えながら怒りを募らせるラフテラ。もしも、古龍たちの機嫌を損ねるような事をしたらこの街が滅ぶと頭の隅にあり、更には父親であるケンジもその場にいて席に着くことを許したのかと頭にきているのだろう。


「帰ってきたらお説教ね!」


 ラフテラの言葉にブルリと体を震わせるメリッサ。ラフォーレも姉の失態に気が付いたのか顔色を青く変え、その表情に気が付いた幼い金狐が膝に前足を付け鳴き声を上げ心配する。


「だ、大丈夫なのです。怒られるのはお姉ちゃんなのです」


 若干震える声と手で応えるラフォーレ。そこへフリルが後ろから抱き締めて「フリルが付いているのです」と優しく声を掛け、更にはニッケラも抱き付き幼女の塊が完成する。


「あれを見たらアンミラが天に召されるかもしれないわね」


「はい、あれは可愛いの塊りですから……」


 畳に倒れているアンミラを起こすことなくハンバーグを食べ終えた二人はリンクスから絶界や目的である精霊について話を聞こうと視線を向けるのであった。






 もしよければブックマークに評価やいいねも、宜しくお願いします。

 

 誤字報告ありがとうございます。本当に助かります。


 お読み頂きありがとうございます。


 

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