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第九話:青、死んだ小巻を救うために、

翌朝、教室に行くと、小巻の机の上に花が置かれていた。

見たくない嫌な光景だ。

その日の教室は誰一人はしゃぐ者もなく、みんな無言だった。

小巻をSNSであだ名や隠語で間接的に誹謗中傷していた者たちも静かだった。いや、誹謗中傷を浴びせた者たちは昨日、そのツイートや足跡を削除するのに躍起になっていたのは明白だ。

今は騒がず慌てず、素知らぬふりをするのが賢明だとわかっているのだろう。

そう、基本、姑息なのだ。

火の粉が降りかかる前に逃げる。

罪を受け止める器量なんてない。

器量を学生に求めるのは早計なのかもしれないが、その器量は人間性でもあるだけに大人になっても変わらないだろう。

そんなことを青は慮った。そして、吐き気を感じた。

「どうにも胸糞悪い」青は休憩時間、廊下でポツリと桃に呟いた。

「何が?」

「だってそうだろう。このクラスにいじめがあったことは明白な事実だ。なのになんだよ。どいつもこいつも知らぬ存ぜぬのようなツラしやがって!さんざん誹謗中傷しといて、追い詰めた挙句に若佐が死んだんだよ!」

「それはまだわからないよ」

「じゃぁ、いじめが何も関係ないと言い切れるか?虐めたやつらは若佐が死んだらSNSから自分が発した発言を消したんだぞ!」

「でも、校長先生は軽率な行動をとらないようにって言ってたし」

「奴らはわかってるから投稿を消したんだ!」

「でも、今は、みんな何も出来ないよ。それに何をしてももう若佐さんは戻ってこないんだし……」

青は怒りのやり場がなく苦虫を噛みしめたような顔をした。

二人の間にしばし沈黙が過るも青に一つの考えが浮かんだ。

「なら、若佐を助ければいいんだろ」青は真顔で言った。

「助けるって、どうやって?」

「眉唾に行って、桃の親父さんのように、過去に戻るんだよ!」

「戻るって!?」

「なんてことはない。過去に戻って助ければいいだけだ!そうすれば、若佐も死ななくて済むし、こんなに胸糞悪い思いをしなくて済む」

「でも、戻れるかどうかわからないよ」

「でも、桃の親父さんは帰ってこないんだろ」

「んん」

「なら、過去に戻って人生をやり直している可能性だってある。眉唾の店主が言っていたことはあながち嘘じゃないってことだろ」

「そんなのわからないよ。ただ家に帰りづらくて帰ってこないのか、そもそも、大金が入ったから家を出たのかもしれないし」

「なら、眉唾に行って確かめよう」

「え、行くの?」

「そうだよ。行って俺たちが過去に戻れるかどうか試せばいい。そうすれば桃の親父さんも過去に戻ったのかどうか、本当に戻れるのか確かめることが出来る。そして、戻れれば若佐も助けられる。まさに一石二鳥だ!やるしかないだろ!」

「ええ!?」

「嫌なのか?」

「嫌じゃないけど、お金、かかるんでしょ?」

「金が惜しいのか?二億もあるんだろ?それとも使い道でも決まっているのか?」

「いや、何もないけど……」

「なら、いいだろ。親父さんの消息も確認できて、若佐も救える。これ以上の金の使い道あるか?つまらない金の使い方するよりよっぽどいいだろ?やらないときっと後悔するぞ」

「……いいよ。わかったよ、青」


青と桃は学校が終わると一目散に喫茶眉唾に行った。

眉唾に入るなり店主の魔貝が青と桃を見て微笑んだ。

「いらっしゃい。やっぱり惚れ薬が欲しくなったか?」

「いえ、違います。過去に戻してください! 桃の親父さんのように今すぐ」

「随分急だなぁ」

「ええ、急ぐんです」

「急ぐからには何か理由があるんだね」

魔貝は相変わらず微笑んでいるも青と桃が全然笑ってない。真顔だったので魔貝も真剣な面持ちになった。

「もし聞いても差し支えないのなら聞かせてもらえないかな。過去に戻すにしても僕も責任というのもを感じる方なんでね……」

「構いません」

青は、魔貝に小巻のことを話した。

魔貝は黙って青の言うことを静かに聞いた。

「なるほど。よくわかったよ」

「じゃぁ、俺たちを過去に戻してくれるんですね」

「過去に戻れるかどうかは私にはわからない」

「そんな!桃の親父は過去に行ったんでしょ。お金が問題なのなら、金はある」

「お金はいいよ。私が戻す訳じゃないから。私は過去に戻れる場所を教えるだけだ。その後のことはわからない」

「なら、その場所を教えてください」

「構わないよ。ここから直ぐだから」

「近くなんですか?」

「あまりにも近くて、この界隈にそんな場所があることに気が付かない。いや、気が付いてもちょっと不審に思うぐらいで見過ごしてしまう。そういうところに摩訶不思議な世界は溶け込んで姿を隠しているものなんだよ」

「どこなんです?」

魔貝はお会計票の裏にペンで地図を書き始めた。


青と桃は駅前の商店街へ向かった。

駅前の商店街はたまに夕方のテレビの特集で取り上げられる惣菜店やパン屋、飲食店が軒をつられね、常に人で賑わっている。

そんなところに過去に戻れる場所があるとは俄かに信じがたい。

「ほんとにこんなところにあるの?」半信半疑の桃。

「そんなの行ってみないとわかんないよ」

「わかんないって!?」

「大体、なんもわかんないんだよ。ほんとに過去に行けるかどうかさえも半信半疑だ。いや疑いの方が大きい」

「そうね、なんせ眉唾だからね」

「あるかどうかわからない。でも、行かないで後悔するより、行って後悔した方がいい」

「そうだね」

青と桃は魔貝に書いてもらった地図を頼りに商店街を歩いていた。

青と桃はある小道というか隙間の前で立ち止まった。

そこは雑居ビルと雑居ビルの間に人が一人、体を傾けて通れるぐらいのスペースしかない道というより隙間。

青と桃は、顔を見合わせて、意を決してその隙間に入っていく。

隙間は清掃されてないせいか、ところどころに雑草や空き缶がある。その隙間を青と桃は体を斜めにしながら十メートルぐらい歩いていくと朱色のドアが見えた。

「あ、朱色のドアだ」青は桃に言った。

「ほんとだ!」桃は半笑いした。

青は、魔貝に書いてもらった地図を見ると、朱色のドアと書いてあり、「ココ」と矢印で示されている。青と桃は朱色のドアの前に立った。

そのドアは色が朱色のだけで勝手口にしか見えない。

「こんなところに朱色のドアがあるなんて全く気が付かなかった」桃は朱色のドアを触った。

「いや、朱色のドアよりも、大体、こんな隙間、誰も気にも留めない」

「それもそうだね」

「じゃ、入るか?」青は桃を見て確認した。

「勝手に入っていいの?」

「いいだろ。地図の場所はここなんだから」

「とりあえず、ノックはした方がいいと思うよ」

「じゃぁ」青はノックをしたが返事はなかった。

「失礼します」青はドアを開けた。

ドアを開けるとドアが向かいのビルの壁にぶつかった。

「はぁ、狭い!」桃が悲鳴を上げた。

青がドアの内側を見ると階段が見えるも上階が見えない。前、三段ぐらいの足元しか見えない。それより上は闇。階段も人一人が通る幅しかない。

桃は青の後ろから中を見て言った。

「わぁ、真っ暗!何も見えない!」

青もさすがに入り口で立ち尽くしている。そんな青に桃が尋ねた。

「どうする?」

「どうするって、入るよ。そのために来たんだ」

「そうね」


青は、中に入り、ゆっくり階段を登り始めた。

それに続くように桃も階段を登り始めた。

ドアが勝手にしまった。

青と桃は振り返ってしまったドアの方を見た。

しかし、ドアは既に見えない。

二人は真っ暗闇、一メートル範囲の足元しか見えない状況の中に取り残された。

「兎に角、階段があるんだ。登ろう。登れば着くだろう」

「うん」

青と桃は階段を登り始めた。

二人は無言で階段を登った。

もう三十段近く登ったところで背後から桃が言った。

「ねぇ、まだ着かないの?もう結構登ったよ」

「いや、まだだ。まだ何も見えない。階段しか見えない」

「このビル、そんなに高くないはずだよ」

「俺もそう思った。もう結構、行ってるはずなのに全く先が見えない」

「そんな!?」

桃は後ろを振り返ると一メートル先は闇で何も見えない。足元の階段が三段ぐらい見えるだけ。前も後ろもお先真っ暗。

「後ろも真っ暗で何も見えないよ」

「前も同じだ」

「どうする?」

「どうするって、登るしかないだろ。今更引き返せないし、俺たちは若佐を助けるために来たんだ。兎に角、登ろう。登れば必ず付く。いくらなんでも天井知らずというわけはないだろ」

青と桃は階段を登った。

息遣いが粗くなってきた。

二人とも足も疲れ始めている。

しかし、登っても登っても未だ階段しか見えない。

「青、いい加減、もう疲れたよ」

「もう二百段、いや、それ以上登っているのに全く頂上につかない。いい加減屋上ぐらいについていてもおかしくないのに……」青も同調した。

「まるでモルモットの回し車の中を回ってるみたい」

「そうだな」

「なんか気味が悪いよ。このまま登るの?」桃は足を止めた。

青も足を止めて振り返って桃を見た。

「登らないでどうする?今から引き返すのか?いや、そもそも引き返すことが出来るのか?」

「なんか、この階段にハマっちゃったのかな?」

「ハマったってなんだよ」

「ここから抜け出せないってことよ」

「そんなわけないだろ。行こうぜ」

青と桃は階段を登り始めた。



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