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第六話:古淵桃

青と桃は同じ団地に住んでいるから帰る道も同じ。

二人は自転車を並走させながら帰路についた。

「なんで貰わなかったの?」

「俺、化学はわからん。それより本当にいいのか?あれがわかれば、嶋の彼女になれるんだぞ」

「私はいいよ」

「まぁ、それもそうだな。桃が二億円あるとわかったら向こうから付き合ってくれって言ってくるぞ」

「そんな金で釣られて付き合うようだったら、嫌だよ!あ!宝くじが当たったこと、誰にも言わないでよね!」

「言わないよ」

二人の自転車は商店街を通っていく。

すると精肉店の肉のまるちゃんが目に留まる。

肉屋は主婦層の女性客で賑わっていた。

看板に「肉の日セール」とデカデカと書いてある。

それを見た桃は自転車を止めた。

「青、先帰って」

「どうした?」

「今日、肉の日だからとんかつ買って帰る」

「そう」

青は桃を置いて自転車で立ち去ろうとした瞬間、念を押した。

「青、絶対言わないでよ!」

「言わないよ!」

しかし、人の口には戸は立てられないもの。

あっという間に桃たち一家が宝くじが当たり、父親が家を出て行ってしまったことまで世間の知る処となった。

桃は初めは青が他の人にしゃべったのではと疑うも、青に誰にも言ってない、と言い切られた。

どうやら犯人は直ぐ傍にいた。

春子の身なりが今までと全く変わってしまったのだ。

春子は、これ見よがしに服やバッグ、アクセサリーなどブランド品を身に着けるようになり、見るからに派手になった。

しかし、それも致し方ない。

春子は桃の母親といってもまだ三十七歳。若くて女ざかり、お洒落にもまだまだ興味のある年齢。今まで我慢して抑えていたものが、二億円が入ったことで少しぐらい贅沢しても、とたがが外れるのも無理もない。

それを自重しろとは桃には言えなかった。

それ故、ご近所の人の知る処となり、今や団地の人はおろか、地元の人なら知らない人はいなくなった。当然、桃のクラスメイトにも知られた。そして、それはクラスメイトが桃を弄る格好の餌となった。そうでもなくとも桃は一部の女生徒から嫉妬されていた。

その理由は、桃はクラスは違うが同級生の嶋恭介が大好きだった。


嶋恭介は、寡黙だがアイドル的なルックスの持ち主。

現に渋谷、原宿、表参道を歩けばスカウトマンに声を掛けられるのが当たり前だった。

しかし、恭介は物静かな秀才で芸能界に全く興味がなかった。自分の人生設計に芸能界は入っていないのだ。

それでも他校も含め、地元の女生徒で恭介を知らないものはいないほど有名で人気者。取り巻きまでいた。

下級生の女生徒の中には恭介と同じ高校に行きたいがために受験した者もいる。

桃も初めはその大勢のファンの一人に過ぎなかった。

恭介の取り巻きたちは、学校で恭介の出待ちをしたり、恭介の気を引こうとプレゼントを渡したりしていた。

しかし、それは恭介にとってただただ面倒で迷惑でしかなかった。かといって邪険に断ることも出来ない。女生徒が出待ちしたり、真剣な眼差しでプレゼントしてくる姿をみるとぞんざいに扱うことは出来なかった。

そんな恭介の人気に目を付けたのが同じ高校に通うユーチューバーの穂高岳だった。

穂高は恭介に企画を持ち掛けた。

穂高プレゼンツで手作り弁当コンテストを開こうと。そうすれば、出待ちやプレゼントを減らすことが出来ると。SNSを使ってファンをコントロールできると。

もしそれが出来るのなら恭介にとっては願ったり叶ったりだ。

穂高にとっても自分のYouTubeのチャンネル登録数やフォロワーを増やす好機だった。

二人の利害関係は一致し、期せずして手作りお弁当コンテストが開かれた。

コンテストの優勝者だけに恭介に手作りお弁当をあげる権利を与える。そうすることで恭介は、プレゼントに悩まされずにすむ。

コンテストの審査員は勿論、嶋恭介本人と穂高が審査員になった。

穂高も審査員になったのは、穂高の提案で恭介本人が勝ち負けを決めると角が立つと思い、穂高の気遣いから、恭介の人気を落とさないようにと。

そして、該当者なしで優勝者を出さないで終わるのが恭介の意志だった。

しかし、一人だけ、思わず絶賛し、思わずもっと沢山食べたくなるほど美味しい手作り弁当があった。

穂高と恭介は考えた。

該当者なしで優勝者を出さないのもそれはそれで初めからそのつもりだったのではと勘繰られるのは良くない。それに現に絶賛するほど旨いと思う弁当があったのだ。

恭介はその人を優勝者にし、公約通りその人にだけ手作りお弁当を渡せる権利をあげた。

その手作りお弁当を作ったのが桃だった。

それ以来、桃は恭介の昼食の弁当を作り、毎日、恭介に渡していた。

それは恭介ファンの嫉妬を大いに買った。

いくらコンテストの優勝者の正当な権利だからといっても、ファンは桃に嫉妬した。

そしてまた桃は陰口を叩かれやすい少女だった。

桃は背も低く、小さくて可愛い。

人を威圧するような雰囲気もない。

人は外見や雰囲気で人を判断する。

たとえば、何かあっても、この人には言えるが、あの人には言えない、というものは得てしてある。

桃は前者に当たる人だった。

そんな桃へのあからさまな陰口に対して、幼馴染の青は決まって、「気にするな」「言いたい奴にはいわせておけ」と言った。

そういってくれる友達がいることは桃にとってとてもありがたかった。

しかし、それでは桃への誹謗中傷の解決策にはならないのも事実。

青の存在はありがたいが、桃にとってはもう一人ありがたいと思える存在がいた。


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