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姿なき狩人  作者: 二条路恭平
プロローグ
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プロローグ

心地良い微睡みで、未だ夢心地な状態を一瞬で現実の世界へ引き戻すかのようにけたたましく目覚まし時計のタイマー音が断続的に鳴り響いた。

頭の片隅では、起きなければと思う自覚があるものの、あと五分だけでも微温湯のような温かさの布団のなかに包まれていたいという未練があった。しかし、タイマー音は彼の気持ち等を無視するかのように容赦なく音量を徐々に大きくしてくる。

毛布を顔の半分まで覆うようにくるまっていた彼は舌打ちをして、覚悟を決めたように勢いよくベッドの上で上半身を起こした。

未だタイマー音を鳴らし続けるデジタル時計を怨めしそうに見ながら、右手を伸ばしてタイマーストップボタンを押すと寝室に静けさが戻ってくる。ベッドの端に腰掛けるような姿勢で素肌にTシャツを着け、足元にはグレーのショートソックス、更に長年愛用しているジーンズを履いた。

部屋着になるとキッチンへ迎い、右手にマグカップを持ち左手で蛇口を捻って水道水をマグカップに注ぐと、その水を一口含み口腔内を濯ぐと冷たさで頭の片隅で僅かに残っていた眠気を完全に追いやることができた。

すっかり頭が起きてくるとマグカップの水を捨て、よく振って中の水気を切ったうえで食卓としている木製のテーブルの上に置き、次いで二口コンロの片方にフライパンをセットすると反対側にある冷蔵庫から1リットル紙パック入りの牛乳、生卵1個、10グラムずつに小分け包装されたバターを2個、薄切りカットされているハム、200ミリリットル容量の冷凍保存容器に入れたカット済み林檎を次々に取り出した。

冷蔵庫から取り出した品々は一旦すべて木製テーブルの上に置くと、フライパンをセットした方のコンロを着火させた。あまりフライパンが熱くならないうちに10グラムのバターを入れ、少しずつバターが溶け出して香ばしい独特の香りがしてくると空腹状態の彼の腹が鳴った。

フライパンの上で溶けたバターが行き渡ると薄切りハムを2枚放り込み焼き始めるが、あまりハムが焼き過ぎないところで生卵をハムの上へ慎重に割り入れ、ハムからはみ出した卵の白身が白くなり始めた頃合いで蓋を被せて蒸し焼きにする。

ハムエッグを焼いている間に、食卓へオーブントースターをセットし、食器棚からビニール袋に入った厚切り食パン2枚を取り出すとオーブントースターに2枚並べて入れ食パンを焼き始めた。

トーストの準備が終わるとフライパンの前に戻って蓋を少しだけ開けてハムエッグの焼き具合を見ると、黄身の表面は白くなってきているが、その周りの白身の部分は未だ火が通っていないようである。

彼は、コンロの火加減を調整しながら、トースターで焼けているパンの様子も見てみるとパンの表面は少しキツネ色になり始めている。この調子だとハムエッグとトーストの焼き上がりは丁度良いタイミングになりそうなので思わず口元が誇ろんでくる。

そうしているうちに、オーブントースターからは焼き上がりを知らせるチンという音が聞こえてきたので、フライパンの蓋を開けてみると白い湯気が立ち上ぼりハムエッグもベストな焼き加減になっていた。

急いで、食器棚から丸い平皿を出して焼き上がったハムエッグを移すと上から塩と胡椒を振りかけて食卓に着き、オーブントースターの扉を開けて焼き上がりのトースト1枚を取り出し、その上に出来立て熱々のハムエッグを載せてかぶり付ついた。

起きあけで空腹状態であったことから、ハムエッグを載せたトーストから半熟の黄身を溢すことなく平らげると残りのトーストには常温に戻って柔らかくなったバターを塗り広げから、マグカップに注いだ牛乳と共に食べデザート代わりにカットされた林檎を2個ほど噛って朝食を終えた。

朝食を終えて使用したフライパンや食器を洗い、それぞれを片付けた頃に便意を感じ出した彼は、トイレに向かい充分に排便をする。腹の具合が落ち着いてくると洗面所の窓から空の様子を眺めてみた。

今日の天気は雲一つない晴天とまでは言えないが、風も穏やかそうで急変しそうに思えない感じがする。この状況であれば今日予定している作業は順調に行うことができそうである。

プラスチック製のコップに入れている歯ブラシを手に取り、チューブ入り歯磨き粉適量を歯ブラシに盛り上げて歯を磨き始めた。歯を磨いている間、米国より届けられたライフル銃のスコープ調整(ゼロイン)の進め方について考えていた。当然のことであるがゼロインを行う際には実弾を少なくとも数発は発砲する必要がある。

しかし、届けられたライフルの口径は.308ウィンチェスターで弾丸の直径は7.62ミリメートルと米国では熊や鹿等の大型獣を対象にできる比較的メジャーな弾薬である。そうなると今回の弾薬に限ったことではないが普通に発砲した場合、相当に大きな発砲音が響き渡ることになる。

彼も最初は、日本でも散弾銃やライフル銃による狩猟が行われているので、屋外でプレシジョンライフルを発砲したとしても大して気にする必要がないと思っていた。だが、来日して数日しか経っていないが狩猟用銃の発砲音を耳にしていないことで、彼が想像している以上に銃による狩猟が行われていないのではないかと思えるようになり、少しでも発砲音を響かせない為にも、消音器(サウンドサプレッサー)を装着して試射したほうが良いと思えてきた。

更に、今後における彼の状況次第では消音器を装着してライフル銃を使うことになるかもしれず、その場合に消音器を装着せずにゼロインを行っても消音器を装着して射撃した際にポイント・オブ・インパクト(銃身に物理的な作用が加わったことで着弾にズレが生じる)傾向があることを知っているので、最初から消音器を装着してゼロインしたほうが何かと都合が良いと判断し直した。

そんなことを考えながら、歯を磨き終えて口を濯ぎ、次いで髭を剃ってから顔を洗った。頭髪のほうは、酷い寝癖がついていないようなので軽くブラッシングする程度に止めた。

顔周りの支度ができると、キッチンに戻って先程まで食事をしていた木製テーブルを部屋の隅のほうへ移動させた。木製テーブルを移動させると床には、床下収納と思われる扉が見える。その扉を開けると深型タイプの収納ケースがありケースには何種類かの保存用食材が収められている。その収納ケースも取り出すと地下に向けて人間一人が通れるくらいのコンクリート製の階段が現れてきた。

彼は、階段の入り口に設置されている電灯用のスイッチをオンにして階段から下のほうが明るくなると地下に向かって降りて行く。約2メートルの距離を降りきると広さが6畳くらいの地下室になっていた。地下室は全てコンクリートの打ちっぱなしで装飾の類いは一切なく寒々しい印象がする。

そんな地下室にある物と言えば、安っぽいスチール製の事務机が2つとパイプ椅子が1つ、奥の壁側には大型のスチール製書庫のような物が1つ置いてあるくらいである。

2つある事務机の片方には、長さが150センチメートル、幅が35センチメートルほどの黒いナイロン製のソフトケースが置かれている。このソフトケースの中には彼が試射しようとしているルガーファイアアームズ社製のプレシジョンライフルが1丁納められているのだ。なお、ソフトケースといっても作りは外部からの衝撃を吸収するクッションが仕込まれており収納しているライフル銃を保護してくれている。


ルガーファイアアームズ社製のプレシジョンライフルは、遠距離のターゲットを一発で仕留める精度を有する高性能ライフル銃であるが、具体的なプレシジョンライフルの性能は1MOA(ミニッツ・オブ・アングル)以下の集弾が見込まれる。1MOAとは、ライフル等の銃の精度を示す指標であり、100ヤード(91.44メートル)先のターゲットに1インチ(2.54センチメートル)くらいの範囲に着弾させる精度を表し、仮に1000ヤード(914.4メートル)の距離があったとしても10インチ(25.4センチメートル)以内に着弾が可能ということで、米国などで使用される人型に印刷されたターゲットの幅が18インチ(45.7センチメートル)なので、1キロメートル近く離れた人間を狙撃することが性能上可能ということになる。

ただし、ライフル銃自体はハードでしかなく現実的な遠距離射撃は風向、風速、気温や湿度に加えて日光等の光線の強弱が複雑に影響するし、使用する弾薬の種類に光学照準器の精度によっても潜在能力を引き出せないことになる。


大型スチール製書庫の扉を開けて、黒のナイロン製大型ショルダーバッグを取り出し、狩猟時や射撃場でテーブルなどの台上に銃を固定するために使う革製のベンチマスター社製のシューティングレスト、50発の.308実弾を収納しているプラスチック製の弾薬ケース、試射の際に着弾状況を確認するための望遠鏡であるスポッティングスコープと付属の三脚、大きな銃声から耳を保護するためのヘッドフォン型のイヤーマフラー、射撃用ペーパーターゲット複数枚を手際よく詰め込んでいく。

スチール製大型書庫の扉を閉めると事務机の上に置いてあるソフトケースを右肩に担ぎ、左手にショルダーバッグを掴むと1階に向けて階段を昇って行く。

1階のキッチンに戻るとソフトケースとショルダーバッグは木製テーブルを移動させている隣に纏めて置いておき、地下室の電灯を消すと床下収納を元の通りに戻して木製テーブルも元の位置に移動させた。

それから彼は、洋服ダンスに向かいブルーのカーゴスタイルボタンダウン長袖シャツ、黒のジッパーポケット付きベスト、カーキ色のフード付きウインドブレーカーを取り出すとTシャツの上から次々と身に着けた。

最後に、偏光レンズ付きシューティンググラスを掛けるとキッチンに置いてあるソフトケースとショルダーバッグを左右の肩に担いで外に出た。

中古のパジェロミニに、2つの荷物を車の最後部のラゲッジドアを開けて収納すると運転席に着きエンジンをかけて車をスタートさせた。

現在の彼は、山奥に建てられている22坪ほどのログハウスで寝泊まりしているが、プレシジョンライフル試射のために更に人里から離れた場所に向かうのだ。


ところで、彼の本名はジョージ・ケインズ・カワサキといい日系の米国人である。父親が米国人で母親が日本人の間に生まれ兄弟はなく独身である。ハーフ特有の彫りの深い顔立ちではあるが日本人のなかに居ても違和感は感じさせない。身長は180センチメートルで、軍隊生活が永かったためか外見が細身に映るが筋肉質で体重は80キロぐらいはありそうである。

そんな彼が、何故に日本の山奥に居るのかと言えば、元々は米国陸軍の軍人で特殊部隊に所属していたが中東に派兵されて米国中央情報局(CIA)が立案した要人暗殺を目的とした軍事作戦に従事した際に、配属されたばかりの新人の教育係を兼ねて観測手(スポッター)ということでコンビを組むことになり、対象者を狙撃するための場所を確保するために潜入探索をしていたとき、以前は繁華街であったと思われるエリアの雑居ビル内部に入り込んだ際、その新人がセキュリティチェックを怠ってしまったために敵が仕掛けていたトラップ爆弾を誤爆させてしまった。誤爆させた新人は爆発を諸に受けて即死となったが、彼も煽りを受けて全治数ヶ月の重症を負う羽目になった。

負傷した彼は、緊急で米国本国に送られ手厚い治療もあって九死に一生を得たものの、引き続き元の特殊部隊に復帰することに不安を感じた彼は退院後、それまでの功績を踏まえて名誉除隊という形で除隊することにした。

軍を除隊して暫くの間は今後の生活などについて考えながら過ごしていた彼の元に、突然何の前触れもなくCIAからリクルートされることになったのだ。


その日、コーヒーを飲みながら求人情報をチェックしていた時に、自宅であるアパートの玄関の呼び出しブザーが鳴った。

来客の予定がないし、親しかった軍友たちは中東の戦場に派兵されている筈で他に彼を訪ねて来そうな人物が思い当たらない。なので、てっきり何かの訪問セールスと思い、断りを告げるつもりで玄関のドアを細目に開けてみると、目の前には40代前半と思われる男が黒いサングラスを掛けて立っていた。左手に持っていた身分証を示しながら、あまり大きくない声で

『私は、CIAでリクルーターをしているサムと言います。』

と物腰柔らかく言ってきた。

『CIA?何かの間違いじゃないのか、俺は政府機関に声を掛けてもらえるほどの有名人じゃないが・・・』

と苦笑いを浮かべて玄関のドアを閉めようとしたとき

『勘違して頂いては困るのですが、悪戯や冗談ではなく、最初に申し上げた通り私はリクルーターとして純粋に元陸軍特殊部隊に所属していた貴方をスカウトしに来たのです。よろしければ、中に入れて頂いて私の話を聞いて頂きたいのですが』

とサムと名乗った男は、相変わらず柔らかい口調で言ってきた。

今のところ、今後の生活について思案を巡らすくらいで、これと言った予定があるわけでもないことから、このサムという男の話を聞いてみようかと思い、サムと名乗った男を部屋に招き入れた。

サムの説明によると、CIAは米国の国益を守るために各種の高度に政治的な作戦(その殆んどが暗殺であるが)を的確かつ迅速に展開するための実行要員を常に求めているそうである。ただし、作戦の内容によっては米国が関与していることが公に判明すると国際情勢によっては逆に米国の国益を損ねることが想定されるので、安易に米軍を使うことができないケースがあり、そのようなケースのときに軍事作戦に従事した経験があるが、未だ海外の諜報機関等に監視対象者として把握されていない人物をリサーチしているのだそうである。

軍を除隊したばかりで、年齢が38歳と比較的若く独身者であり両親 も既に亡くなって兄弟もいないことに加えて、特殊部隊に所属していたことから改めて訓練を施す必要がなく、配属されていた部隊では狩猟テクニックの一種であるストーキングが、ずば抜けていたことで急襲作戦などでは重宝されていたことから即戦力として期待できると判断してリクルートのために接触したとのことであった。

そこで、彼をリクルートするにあたって示された条件は、作戦の実行にあたって後方支援は行うものの基本的には単独行動で作戦を行って欲しいこと。作戦を行う命令を出すまでの期間は、CIAとの関係が疑われない範囲で行動することについて制限はしないこと。更に、月々の生活が困窮しない程度のサラリーを支給することで、この条件で就任を了承する場合には米国内における彼の公的記録は全て消去され存在しない人間になることであった。最後に、サムは検討期間として1週間の猶予を与えると言って、決心がついたのなら電話してくるようにと連絡先が記載されたカードを置いて立ち去ろとした。

元々、デスクワークとか単純作業を繰り返すような仕事には馴染めない性分であった彼にとってサムの誘いは魅力的であった。加えて基本的に単独行動というのは中東で経験した悪夢のアクシデントを考え合わせると気が楽であり拒否する理由も見当たらなかったので、サムを呼び止め即答で作戦要員への就任を了承したのであった。


CIAのリクルーターであるサムとの接触があって3日後、覚えのない名前で1個の小包が届いた。小包の中身は、スマートフォンとタブレット端末にそれらの専用充電器が1個ずつ、日本国のパスポートに運転免許証、更に日本までの航空チケットが一人分が入っていた。

パスポートを取り上げ開いてみると彼の顔写真が添付され、名前は『川崎譲二』となっている。この偽名は彼の本名に近いと思ったが、馴染みのある響きでもあるので不意に偽名を呼ばれても自然に反応ができそうだ。また、ご丁寧にもサインが漢字で書かれている。母親が日本人であったことから、彼は母親から日本語を教えられ日常生活に支障がないくらいに会話ができることに加えて、多少なりとも漢字を書くこともできるのだが、彼が驚いたのはパスポートに記載されているサインの筆跡が彼の書いたものと瓜二つであったことだ。

更に、パスポートのページを捲ってみると彼は2週間前に日本から入国したように出入国スタンプが押印されている。一通りパスポートをチェックして、運転免許証も取り上げて名前を見ると当然ではあるが、パスポートと同じ偽名になっていた。

パスポートと運転免許証を小包の脇に置いて、タブレット端末を取り上げて電源を入れてみる。バッテリーはフル充電されていたようで、直ぐに起動した。

タブレット端末が立ち上がりトップ画面を見ると、中央に『確認』と英語で記載されたファイルがあることに気付いた。そのファイルをタップして開くと、明日の午前10時に宅配業者を装ったCIAの連絡要員を訪問させるので、その連絡要員に身元に繋がるようなカードや書類の全てを一纏めにして封筒に入れて渡すように書かれている。更に連絡要員からは、日本に滞在している期間にサラリーを振り込むための銀行通帳とキャッシュカードを渡すと書かれてあり、キャッシュカードの暗証番号まで記載されていた。ただし、記載されていた暗証番号は彼が今まで使っていたキャッシュカードの暗証番号と同じ番号であったことから急いで暗記する必要ななさそうである。

翌日の午前10時に、ファイルに記載されていた通りに宅配業者のユニフォームを着た30代ぐらいの男性がやって来た。玄関の呼び出しブザーがなると、彼は身元を示すカード類を一纏めに入れた封筒を右手に持って玄関ドアを細目に開けた。玄関前に立っていた男は右手に持ったCIAの身分証を示して『どうも』と一言だけ言った。

彼は、右手にした封筒を渡すと男は黙って受け取り、中身を確認するようなこともなくA4版サイズの封筒と受け取り票にサインペンを寄越して『受け取りサインをお願いします。』と言ってきた。

受け取り票には、偽名ではなく本名をサインして連絡要員の男に返すと男は『どうも』と一言だけ言って玄関前から立ち去って行った。

連絡要員が立ち去り、玄関を施錠してテーブルに戻るとCIAから寄越されているスマートフォンからメールの着信音が鳴った。

受け取った封筒の中身をチェックするのを後回しにして、充電器に差していたスマートフォンを取り上げて着信したメールを確認すると、今日の18時30分までに最寄りの国際空港へ向かい、既に手元へ送っている航空チケットの便に搭乗して日本へ行くように指示されていた。

これから、CIAの暗殺要員としての生活が始まることを自覚した彼は、ベッドルームに向かい洋服ダンスから日本での生活で着用するための最小限の衣服を旅行バッグに詰め始める。先程受け取った封筒は開封することなく忘れずに旅行に入れて出発準備を済ませると旅行バッグを手に玄関を出た。

この部屋に戻ってくることは二度とないだろうと思いつつ、ドアを施錠して玄関ドアの鍵はアパートの1階にある郵便受けに入れた。

アパートを出ると近くでタクシーを拾い最寄りの国際空港へ向かった。

交通渋滞に巻き込まれることもなく、空港へは18時少し前に到着できた。彼は直ぐに搭乗手続きを済ませ出国審査も受けて国際線出国待合室のベンチに腰掛けて、目の前にある大型テレビを眺めていた。

テレビは、地元の夕方のニュースを映していたが、ローカルニュースのトップに大型トラックと普通乗用車が正面衝突の事故を起し、普通乗用車は衝突の影響でガソリンが漏れ出て、漏れたガソリンが引火してドライバーが焼死したと伝えていた。あまり注意することもなく見ていた彼だが、焼死したドライバーは所持していた身分証から自分であることを知らされた。

リクルートの条件として予め伝えられてはいたが、CIAの手際の良さに多少の驚きを覚えると同時に、これで自分は完全に存在しない人間になったことに感慨を抱きつつ、日本へ向かう飛行機の機内へ向けて歩き出した。

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